報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「斉藤絵恋の退院」

2021-09-13 14:54:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月27日09:30.天候:晴 東京都千代田区神田和泉町 三井記念病院→京成バス“ぐるーりめぐりん”車内]

 翌日になり、私達は再び斉藤絵恋さんの病院に向かうことになった。
 平日なので斉藤社長は仕事だ。
 一応、今後の治療についてや退院の手続きについては保護者として会社を抜け出して来るが、その後は会社に戻らなくてはならない。
 しかし当然ながら、会社に娘を連れて行くことはできない。
 そこで退院してから、埼玉の家まで護衛して欲しいという依頼が来たのだ。
 車については、まだお抱え運転手がコロナ療養中で使えないとのこと。

 愛原:「社長、お疲れさまです」
 斉藤秀樹:「愛原さん、突然の依頼申し訳ありません」
 愛原:「いえ、社長の為なら何でもお役に立ちますよ」
 秀樹:「頼もしい御言葉です。報酬は後でお支払いしますので、よろしくお願いします」
 愛原:「菊川のマンションではなく、大宮の御実家なんですね」
 秀樹:「さすがにトラウマとなりますので、あのマンションは引き払うことにします。幸い旧友は他にもマンションを持っているので、その中から適当な物件を見繕うことになります。その間は家に置いておこうかと思います」
 愛原:「それが賢明ですね」
 秀樹:「それでは私は退院の手続きに行って参りますので……」
 愛原:「あ、はい。私達はここで待っています」

 私達はロビーで待っており、斉藤社長が1人で病室に向かった。
 面会は原則禁止だが、入退院の手続きの際や、主治医や病院側が特に必要と判断した時に限っては認めることがある。
 今回は前者だろう。
 それからしばらくして、キャリーバッグを持った斉藤絵恋さんがやってきた。

 絵恋:「リサさぁん!会いたかったぁーっ!!」

 ダイレクト飛び込みハグ!

 リサ:「サイトー、分かった分かったから」

 さすがのリサも、このダイレクトハグについては閉口する。

 高橋:「ったく、びーびー泣きやがって」
 愛原:「そりゃ、窓を開けたら惨殺死体が上から落ちて来るシーン、ガチで見ちゃったらねぇ……。俺達でさえ、それなりのホラーだろ?ましてや、バイオハザード慣れしていない絵恋さんにとってはドギツイと思うよ?」
 高橋:「まあ、それはそうっスけど……」
 秀樹:「リサさんに会いたくて、どうしようもなかったらしいです。それでは、あとはよろしくお願いします」
 愛原:「あ、はい。お任せください」

 私達は斉藤社長と別れた。

 愛原:「それじゃ、行こうか」

 病院の外に出ると、斉藤社長の車が出て行くところだった。
 セダンタイプに私達4人は乗れないよな。
 因みに、絵恋さんはしっかりとリサの手を握っていた。

 高橋:「先生、どうやって行きますか?」
 愛原:「まずはバスで上野駅まで行こう」
 高橋:「バスがあるんですか」
 愛原:「コミュニティバスだけどね、あるよ」

 病院の敷地外に出ると、すぐにバス停はあった。
 バスを待っている間、絵恋さんはしきりに、『死体が追って来る夢を見た』『リサが現れてそれを倒してくれた』という話をしていた。
 もちろんリサの力を持ってすれば、ゾンビの1匹や2匹、軽く屠れるだろう。
 何しろ、ゾンビの1匹や2匹、軽く殴り飛ばせるほどのタイラントを従わせるほどなのだ。
 しばらくして、『上野方面』と書かれたバスがやってきた。

 

 オリジナルの塗装がされてはいるが、車種的にはどこでも見られる中型バスである。
 コミュニティバスというと小型バスで運行されるイメージがあるが、この路線は利用客が多いのだろう。
 実際、お年寄りなどの通院に使われることが多く、降り口の中扉からはそれらしい乗客達がぞろぞろ降りて行った。
 こういう時、ノンステップバスだと楽で良い。
 東京都区部ということもあり、バスは前乗り運賃先払い。
 ICカードが使えるので便利である。

〔発車致します。お掴まりください〕

 私達は座席には座らず、折り畳み椅子の横の手すりや吊り革に掴まった。

 絵恋:「リサさん、危ないからリサさんに掴まってていい?」
 リサ:「ん」

 リサは手すりを指さした。

 絵恋:「はぁーい……」(´・ω・`)

〔次は東京法務局台東出張所前、東京法務局台東出張所前でございます。東京都警備業協会へおいでの方は、新御徒町駅前が御便利です。次は、東京法務局台東出張所前でございます〕

 高橋:「先生、ずっとバスと電車で移動されるおつもりですか?」
 愛原:「俺の計画では、大宮駅からタクシーなんだよ。ほら、言っちゃあ何だけど、絵恋さんの家の辺りって、路線バスが不便だからね」
 高橋:「あー、本数少ないですもんね」
 愛原:「ぶっちゃけ、斉藤社長からもらったタクシーチケットが1枚しか無いから、そういう所で使わないと」
 絵恋:「えっ、そうなんですか?だったら、父に言えばまたもらえますよ?」
 愛原:「いやあ、でも何だか厚かましそうで……」
 絵恋:「だったら、私に言ってくだされば、私から父に言いましたわ」
 リサ:「サイトー、今度はそうして」
 絵恋:「分かったわ。リサさんの頼みですもの。リムジンだって用意するわ」
 高橋:「おー、分かってるじゃねぇか。そうだぞ。先生はそれくらい偉大な御方だ」
 愛原:「いやいやいや、そんなのいいよ!」
 高橋:「何しろ、VIP相手にリムジンを呼ぶと見せかけて、リムジンバス呼んだアホ主人公が他にいたらしいからな」

 “ユタと愉快な仲間たち”シリーズより、“大魔道師の弟子”における一幕。

 愛原:「フツーにタクシーでいいよ。俺なんか下級国民の1人なんだから」

 身分相応という言葉がある。
 池袋の暴走老人事故だって、上級国民なら上級国民らしく、タクシーやハイヤーに乗っていれば良かったのだ。

 リサ:「先生、そのタクシーチケットって上限額とか決まってるの?」
 愛原:「いや、そんなことは書いてないな」
 リサ:「だったらそのタクシーチケットでタクシーに乗って、そのままサイトーの家に行くというのは?」
 高橋:「その手があったか!」
 愛原:「バカ。いくら掛かると思ってんだ。他人の金だと思って……」
 リサ:「父は気にしないと思いますけど、私もその案には反対です」
 高橋:「なにっ!?」
 リサ:「だってぇ、車で一気に帰るより、リサさんとだったら、電車やバスでゆっくり帰る方がいいに決まってるじゃない

 絵恋さんはそう言って、リサと腕を組んだ。

 高橋:「先生、こいつもう少し入院してた方が良かったんじゃないスか?」
 絵恋:「何でよ!?
 愛原:「まあまあ……」

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« “私立探偵 愛原学” 「善場... | トップ | “私立探偵 愛原学” 「夏休... »

コメントを投稿

私立探偵 愛原学シリーズ」カテゴリの最新記事