報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 「地下鉄の中は異界」 2

2015-01-10 14:40:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月3日11:30.17番街駅 男子更衣室 威吹、カンジ、マリア、イリーナ、キノ、江蓮]

「ぐる……ぐるる……ぐるるるる!」
 ロッカールームの中にいたのは、双頭の化け物。
 2足歩行なのだが、下半身は酷く肥大化し、大木の幹のような太い足が目立つ。
 威吹達から向かって左側は大きな人喰い鮫のような口が生えており、向かって右側は人の上半身があった。
 化け物側の腕は太いトゲが何本も生え、更に手の先は鋭い爪が生えている。
 逆に人側の手は退化しているのか、ただ肉体にぶら下がってるだけのような感じだ。
「うおっ!」
 その化け物は威吹達の姿を見るや、その鋭い爪で襲って来た。
「何だコイツは!?」
「気をつけろ!今までのザコとは違うぞ!」
「タスケて……ひひ……」
 人側の方は辛うじて顔が残っているが、そこから発せられる言葉は虚ろなものだ。
 目も虚ろで、焦点が合わない。
「ジョニー駅員……」
 化け物は殆ど裸だったが、辛うじて残る人側の方は破れた服をまとっており、左胸のポケットの所には『ジョニー』と書かれた名札がぶら下げられていた。
「何だって!?どういうことだ!?」
「ははぁ……。こりゃ、アレだね」
 イリーナは化け物の攻撃を交わしながら、その正体について心当たりがあった。
寄生獣に寄生された人間のなれの果てだね。ここまで来たら、もう人間側は死んでるも同然だよ」
「寄生獣だ!?」
「普通はここまで変化する前に対応するものなんだけど、この非常時じゃそうも行かなかったみたいだね」
 鋭い爪で駅長の腹を抉ったのも、ジョニー駅員だろうか。
 で、しかも、
「意外と速ェ!」
 図体がデカい割には、普通の人間の動きと似ていた。
 そういうこともあってか、
「あのコの頭のお肉、美味しそう……」
 江蓮に突進して行くのを、
「しまった!」
「抜かれたぞ!」
 突破された威吹達。
「はーっ!」
 ゴッ……!
「!?」
 それを止めたのはイリーナ。
 手持ちの魔法の杖で、直接化け物の頭をブン殴る。
「ああっ!これよ、これっ!久しぶりのナマモノの感触っ!たまにはこうじゃなくっちゃねー!」
 イリーナは目を細めながら、恍惚な顔を浮かべた。
「さあ!どんどんいらっしゃいな!どーんとお回し!」
「し、師匠……また悪いクセが……」
 気合の入る師匠に溜め息をつくマリア。
 目を点にさせる江蓮。
「……その化け物、あの女に任すか」
「おっかねぇヤツだな!」
「化け物、フラついてますよ」
 そう。カンジの指摘通り、人間側の頭をボコッとやられた化け物は、脳震盪を起こしたのか、千鳥足状態になっていた。
「み、ミカエラ!クラリス!」
 マリアは今のうちにと、手持ちの人形を人間形態にした。
 で、人形達が持っているのは刃物ではなく、マシンガンとショットガン。
「ここで撃つな!流れ弾が当たるぞ!」
 キノが慌てて江蓮だけを連れて、部屋の外に避難する。
 人形達はこぞって、化け物の人間側の方に集中砲火を浴びせた。
 人間心理として、つい化け物側を攻撃したくなるところだが、それはミスリード。
 こういった化け物は、実は人間側の方が弱点であることが多い。
 イリーナの攻撃でそれを確信したマリアと人形達。
 化け物は断末魔を上げ、血しぶきを上げながらついに倒れた。
 致命傷を食らった化け物は、やはりその体型に無理があったのだろうか、破裂した。
 そして、破裂した体の中から何か出て来た。
 1つは鍵と、
「キキッ!」
 ネズミのような生き物だった。
「おっと!逃がしゃしねーよ!」
 部屋の外に慌てて逃げ出そうとするが、そこで待ち構えていたキノの刀に串刺しにされた。
「これが寄生獣?」
「そう。ネズミ型のね」
 キノに串刺しにされた寄生獣はその生命活動を止め、煙のようになって消えた。
「それより、鍵は!?」
「ビンゴ!探し求めていた件の鍵よ!」
 と、イリーナ。
「よっしゃあ!これで電車が動かせるってもんだ!」

[同日11:45.17番街駅・プラットホーム 上記メンバー]

「急いで連結を外すぞ!」
 コンコースから階段をバタバタと下りて、電車に近づく。
「ま、待て!何かいる!」
 威吹が言うと、電車の屋根の上に何かいた。
 それは威吹達の姿を見つけると、ピョンとホームに飛び下りる。
「ダニだ!」
「いや、クモだろ!」
「ノミですよ!」
 すこぶる意見の合わない剣客達。
「カンジ君、当たり」
 後ろから続くイリーナが目を細めて言う。
 だが、そのノミの化け物は威吹達に味方するつもりはなく、むしろ敵対するつもりのようで、大きな口の牙を剥き出しにしながら向かってきた。
「虫系の化け物など、ザコ同然だな」
 その通り、ノミの化け物は威吹によって真っ二つにされ、血液や体液を噴き出して絶命した。
 見た目には普通のノミを巨大化させただけのような気がする。
 大きさは、大きな犬くらい。
「とにかく、早いとこ作業に取り掛かろう」
 威吹達は電車に乗り込み、1両目と2両目の間の運転台に向かう。
 その横にある自動解結装置の起動スイッチに鍵を差し込んだ。
 それで電源を入れると、レバーを連結器を外す方に回す。
「よーし!上手く行ったぞ!」
 ホームで連結器を見ていたキノが手を挙げた。
「カンジ、あとはどうするんだ?」
「ハイ。今度は運転台の方向レバーを『後ろ』にします」
 カンジはそのレバーを操作した。
「そして、今度は反対側の運転台に行って、『前』にします」
「よし」
 バタバタと逆走時、1番前の運転席となる運転台に向かう。
 だが、その時!

 ガッシャーン!

「!!!」
「!?」
「何だ!?」
 窓ガラスの割れる音がして、威吹が振り向くと、
「きゃあああっ!!」
 ノミの化け物が一匹侵入してきて、江蓮を連れ去った。
「な、なにいっ!?」
「くそっ!!」
 ノミの化け物は反対側の線路から侵入して江蓮を連れ去ると、来た道を引き返すように反対側の線路に飛び出す。
「待ちやがれ!」
 剣客達も後を追う。
 ノミは素早い動きで、電車の先頭車(順走時)に向かって行く。
「でやあっ!」
 キノは線路上のATS端子を踏み台にして、ノミに斬り掛かった。
 タチアナに強化された赤い刃の刀。
 キノの妖力を溜め込んだ妖刀は、そこから赤い光を放つ。
 赤い光は刃の形となって、ノミの化け物を斬り裂いた。
「! 栗原殿にも当たってないか!?」
 後を追う威吹が目を丸くした。
「大丈夫だ。この刀は妖怪しか斬れねーよ」
 その通り、ノミは体を真っ二つにされて絶命したが、江蓮は無事だった。
「大丈夫か!?どこもやられてないか!?」
「だ、大丈夫……」
 どうやらさっきのノミは江蓮を連れ去ることだけを目的にしていたようで、自分が吸血するつもりは無かったのか。
 では、どこへ連れ去ろうとしていたのか。
「……あれか」
「どうやら、ボスの登場のようです」
 電車の先頭車を絡めていた蜘蛛の巣だか繭だかの物体。
 これはノミの化け物の仕業のようで、そこからわらわらとノミの化け物が出て来た。
 そして、その奥にいる一際でっかいノミ。
「親玉か。素直に電車を見送ってくれる雰囲気じゃなさそうだぜ」
「やるしかないか」
「江蓮達は後ろにいろ!あいつはオレが倒す!」
「オレもやる!」
「先生の御意向に従います!」
「じゃあ、カンジ。栗原殿の護衛をしててくれ」
「は?はあ……」
 カンジは後衛を命令されて、ガクッとなった。
「行くぞ!」
 威吹達はノミの化け物達と対峙した。

 だが、ここでまたしても急展開が起きる。

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2 コメント

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補足 (作者)
2015-01-10 18:46:04
 舞台となった魔界高速電鉄1号線について。

 アルカディアシティの北西部から中東部を通って、南西部へ向かう地下鉄線。
 同じ鉄道会社でありながら、高架線とは全く違う鉄道システムで運営されている。
 打子式ATSを使用しており、キノはそのバネを利用してノミの化け物に斬り掛かった。
 高架線にも言えることだが、職員は人間と魔族が共存している。
 2013年7月のダイヤ改正を以って、2号線と統合した(その為、現在は2号線は欠番)。
 車両は地下鉄銀座線の開業当時の車両に酷似している(作中では東京地下鉄道の1000形や東京高速鉄道の100形のような車両が登場)。
 1両単位で運転が可能であり、通常はこれを6台繋いだ6両編成で運転される。
 基本はワンマン運転で、ほとんど自動運転である。

 17番街は官庁街で、バァル復活による内戦発生時は年末年始で閑散としていた。
 人間に対して徹底的な弾圧を行うバァルから逃れるため、1号線では避難電車が運転されていたもよう。
 17番街駅ではバァルの魔力により巨大化・凶暴化したノミの化け物が繭を作り、避難電車を捕まえて、避難中の人間の乗客を捕食した。
 但し、あくまで普通のノミが巨大化しただけであり、妖怪とか魍魎とかの類ではない。
 基本的に妖怪以外のものは斬れないという妖刀がノミを斬れたのは、あくまで『人間以外は斬れない』という意味である。
 政情不安な魔界内で運行する電車の為か、いつでも車両の切り離しや逆走運転が可能なようになっている。

 高架線と違って冥界鉄道公社からの乗り入れは無い。
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訂正 (作者)
2015-01-10 18:49:34
 誤:『人間以外は斬れない』

 正:『人間だけは斬れない』

 訂正致します。
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