報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「ガイノイドの週末」

2016-02-26 17:42:46 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月26日20:10.天候:晴 東武浅草駅・特急ホーム 3号機のシンディ&敷島孝夫]

 取引先の重役:「いやあ、うちもこういう美人秘書ロイドが欲しいねぇ。敷島エージェンシーさんの言い値でいいから、レンタルしてくれない?」
 敷島:「シンディをお褒め頂いて大変光栄です。ただ、あいにくと彼女は公安から監視されてるもんで、勝手に使用者の変更ができないんですよ」
 重役:「え、そうなの?」
 敷島:「この前、シンディが銀行強盗を退治した時、都合良く公安警察が普通の警察より先に到着したことが、何よりの証拠です」
 重役:「何だか、おっかないねぇ……。代わりのロイドとかいないの?」
 敷島:「もちろん、鋭意開発中です。もう少々お待ちください」

 敷島とシンディ、会社の取引先の重役を接待していたのである。
 こういう時、シンディがコンパニオン役までできるのだから安心だ。
 但し、一緒に飲むことは構造上できない。
 ロイドなので、お触りくらいはOKである。
 触り心地まで人間そっくりだと、この重役は喜んでいた。

〔「まもなく4番線から、20時10分発、特急“りょうもう”43号、赤城行きが発車致します。ご利用のお客様は、お急ぎください」〕

 敷島:「あっ、専務。発車の時間ですよ」
 重役:「お、そうだな。それじゃ、今日はありがとう。また、よろしくね」
 敷島:「ありがとうございます。今後とも、よろしくお願い致します」
 シンディ:「よろしくお願い致します」

 発車メロディが鳴り響く。
 ところで、まだメロディは“Passenger”なのだろうか。
 重役がシンディに握手を求めて来たので、シンディは握手した。
 シンディは紺色の革手袋をしているが、基本的に通常は外さない。
 右手を銃火器に変形させる時のみ取り外す。
 つまり、手袋が安全装置代わりなのである。

〔「ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 群馬県から東武特急で通勤しているという制作会社の重役を乗せた250系(200系とは外観と内装が同一でありながら、電装品が違う)は、定刻通りにドアを閉めると、インバータの音を響かせて発車した。

 敷島:「よし。今日の接待は大成功だな。シンディのおかげだよ」
 シンディ:「お役に立てて何よりです」
 敷島:「じゃ、俺達も帰るとするか」
 シンディ:「経由はどうします?」
 敷島:「ザギン線(銀座線)で上野まで行って、そこから普通にJRで帰るさ」
 シンディ:「分かりました」

 今日は金曜日。
 平日は働き詰めの為、会社の近くにマンスリーマンションを借りてシンディと住んでいる敷島も、今日はアリスや赤ん坊の息子の待つ埼玉へと帰る日である。

[同日20:18.天候:晴 東京メトロ浅草駅・ホーム シンディ&敷島]

〔お待たせ致しました。2番線に、折り返し、渋谷行きが到着します。黄色い線の内側まで、お下がりください〕
〔「2番線ご注意ください。20時22分発、渋谷行きが参ります」〕

 電車がゆっくり入線してくる。
 銀座線では旧型となった01系だ。
 カツーンカツーンという音が聞こえてくるのは、銀座線が第3軌条方式で、レールの脇に設けられた架線に、車体の横に取り付けられたパンタグラフが当たる音である。

〔浅草、浅草、終点です。都営浅草線、東武線はお乗り換えです。……〕

 ここまでの乗客がぞろぞろ降りてくる。
 接待でほろ酔い加減の敷島は、折り返し先頭車となる車両に乗り込んで着席するも、シンディはそうせずに敷島の前に立つ。
 これは護衛として何かあったらすぐ動けるようにする為と、人類に仕えるロイドが、ただでさえ満席になる帰宅ラッシュの時間帯に、のうのうと座ってはいけないという概念に基づくものである。
 旧型ではあるが、既に照明はLED蛍光灯に換えられており、入線時にはインバータのノイズ音が聞こえた。

〔「ご案内致します。この電車は20時22分発、銀座線、上野、神田、銀座、新橋、赤坂見附方面、渋谷行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 折り返しの次の電車が入線してくると、ホームに発車メロディが鳴り響いた。
 滝廉太郎作曲“花”である。
 これが初音ミクだと思わず歌い出しそうな感じだが、歌は歌えないシンディがそれを口ずさむことはない。
 尚、どういうわけだかこのチャイム、近鉄大阪線の伊賀神戸駅に停車する特急列車が使用していた。
 電車はドアを閉めて、ゆっくりと発車していった。
 尚、まだホームドアは無いので、それの開閉によるタイムラグは無い。

〔東京メトロ銀座線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は上野、銀座、赤坂見附方面、渋谷行きです。次は田原町、田原町です〕

 電車はポイントを渡って、本線に出た。
 銀座線や丸ノ内線がまだ旧型電車で運転していた頃は、このポイント通過などの時、一瞬パンタグラフが架線から離れるため、僅かな時間、停電していたという。
 この時の乗客の反応で、停電に慣れている地元民か、それとも地方客かが判断できたらしい。
 大阪市地下鉄御堂筋線も、この現象はあったのだろうか?

[同日20:27.東京メトロ上野駅→JR上野駅 シンディ&敷島]

 電車がカーブの途中にあるホームに差し掛かる。

〔足元に、ご注意ください。電車とホームの間が広く空いております。出口は、左側です〕

 シンディ:「社長、着きましたよ」
 敷島:「ん……?おー、着いたか」

 ほろ酔い加減の敷島、僅か5分の乗車時間でうとうとしてしまったようだ。
 シンディは屈んで、敷島の耳元で囁くように言った。

〔上野、上野です。日比谷線、JR線、京成線はお乗り換えです。1番線の電車は、渋谷行きです〕

 シンディは敷島を連れて、他の乗客と一緒にホームに降りた。
 ホームに鳴り響く発車メロディ。
 上野駅は森山直太朗の“さくら”である。

 敷島:「えーと……上手い具合に上野駅始発の中電は無いか?」
 シンディ:「ありますよ」
 敷島:「お、そうか。じゃ、シンディに任そう」
 シンディ:「お任せください」

 改札口を出てJR上野駅に向かう。
 地下鉄からアクセスすると、正面改札口へ出るのがデフォ。

 シンディ:「社長、グリーン券はどうします?」
 敷島:「お、そうか。何年か前に回数券が廃止になったんだったな」

 敷島、財布をシンディに渡す。

 敷島:「2枚買ってきてくれ」
 シンディ:「2枚ですか?」
 敷島:「お前の分だよ。ああいうタイプの座席は、横に座っててもらわないと」
 シンディ:「分かりました」

 Pepperでは絶対にありえないことである。
 グリーン券を買って改札口に入る。
 上野東京ラインが開通した今、上野始発の電車は全て“低いホーム”から発車する。
 正面改札口からフラットで行けるので、バリアフリーである。

 シンディ:「13番線です」
 敷島:「そうか」

 ホームに向かうまでの間、シンディはアリスに現在の帰宅状況を送信した。
 アリスがJR駅の改札口を通過したら、自動的に送信するよう、シンディに入力していたのである。
 自動改札機にはセンサーが取り付けられているので、それを利用したもの。
 シンディは、これから乗車予定の電車の時間と到着時間、乗車車両について送信した。
 特にアリスからは異論が返信されてこなかったので、これでこのルートが承認されたものとされた。

 まだ少し発車の時間まで余裕があったが、既にホームにはパラパラと乗車位置に並ぶ乗客の姿が散見されており、シンディ達も5号車が来る位置のドアに並んだ。
                
                                                            続く

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