報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「大宮へ」

2018-04-08 21:27:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[4月7日13:11.天候:曇 JR大宮駅埼京線ホーム→コンコース]

 新宿駅から埼京線各駅停車で40分。
 赤羽駅からずっと高架を走っていた電車が、北与野駅を出てしばらくすると高度を下げて行く。
 そのままずっと地下トンネルへと入って行くと、大宮駅はもうすぐだ。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、大宮、大宮です。到着ホーム19番線、お出口は右側です。電車到着の際、ポイント通過の為、大きく揺れる場合がございます。お立ちのお客様は、お近くの吊り革、手すりにお掴まりください。大宮から先、川越線ご利用のお客様は……」〕

 稲生:「マリアさん、マリアさん。もうすぐ着きますよ」
 マリア:「ん……?おっ、ついウトウトしてしまった。師匠じゃないけど、何かそうなっちゃった」
 稲生:「朝早く出発して、埼京線もこの時間は空いてますからね。僕だって眠くなりましたよ」

 電車は副本線の19番線に入る。
 下り副本線だが、ほぼ全ての電車はここで折り返す。
 22番線にのみあえて川越線だけの表記があったりするが、これはダイヤが乱れた際、埼京線と川越線の相互乗り入れが中止になった場合、川越線内折り返し電車が22番線を使うという意味である。

〔おおみや、大宮。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 ドアが開いて、そこから乗客達がぞろぞろと降りて行く。
 稲生とマリアもそれに続いた。
 最後尾からだと最寄りの階段は、本当に階段しか無い。
 そこをトントンと登って行く。
 まだここにいるのが若い2人だからいいが、イリーナがいるとなかなか軽快に上って行けない。
 たまに楽に上っているなと思ったら、魔法を使って楽しているというオチだ。
 さすがに途中からは、エスカレーターに乗るが。

 マリア:「どこで食べる?」
 稲生:「そうですねぇ……」

[同日13:25.天候:曇 マクドナルド大宮駅西口店]

 稲生:「すいません。気軽に食べれる所がここしか思いつかなくて」
 マリア:「いいよいいよ」

 2階席の窓際カウンター席に隣り合って座る。
 ここから西口のペデストリアンデッキが見えるのだが……。

 稲生:「あっ、顕正会員だ!新聞配ってる!」
 マリア:「勇太が前にいた宗教団体か。……勇太も前、そんなことをやっていたのか?」
 稲生:「あの当時はまだ新聞配りとかはしていませんでしたけど……」

 稲生はテリヤキバーガーに齧り付いた。
 マリアはダブルチーズバーガーを頬張っている。

 稲生:「威吹に頼んで、不正入信とかやってたなぁ……」
 マリア:「催眠術を掛けて、入信させてたヤツか。勇太もやるなぁ……」
 稲生:「い、いえ……」

 稲生が顕正会員だった頃は、まだ威吹と盟約を結んでいたこともあって、折伏誓願を手伝わせていたことがある。
 誓願に達成しそうに無い時は、威吹に頼んで対象者に妖術を掛け、思考能力が落ちた所を持って入信報告書を書かせて入信勤行を行わせていた。
 さすがの威吹も違和感を覚え、稲生にそれを指摘した上、止めるように諭したところ……。

 稲生:「『うるせぇ!』って、言ったんですよ」
 マリア:「何が?」
 稲生:「威吹に不正入信を止めろと言われたんです。僕、何故かその時、ブチギレて威吹を殴り付けたんです。今でも信じられませんよ」
 マリア:「あの妖狐が何の抵抗もせず、勇太に殴られたのか。それは凄いな。じゃあ、アレか?」
 稲生:「はい?」
 マリア:「私が勇太に『この信仰を止めろ』と言ったら、キレて私を殴るのか?」
 稲生:「そ、そんなことしませんよ!だいいち、マリアさんがそんなこと言うわけが……!」
 マリア:「はははっ、冗談だ。だけど、本当にやりそうで怖いな」
 稲生:「そんなことしませんよ、本当に!女の子を殴るなんて、そんなこと……」
 マリア:「それは素晴らしい。まあ、エレーナとアンナはブッ飛ばしていいから」
 稲生:「ええっ?」
 マリア:「私の復讐劇が始まるだけ。また私が、決め台詞を言うことになるか」

 その話を聞いて、稲生は何故か心臓が一瞬高鳴った。
 マリアが魔女の顔になる時である。
 『チェック・メイト』の決め台詞の時に行う、マリアの嗜虐的な顔。
 正直、稲生はそこに一目惚れした部分もある。

 マリア:「せっかくそこを気に入ってくれたのに申し訳無いが、もうそんな顔はしそうに無さそうだ。それがいいと言ってくれる人もいるんだけど……」
 稲生:「まあ、確かに。その方がいいんですけどね。マリアさんの……人間時代の呪縛が解けているということですから」
 マリア:「うん」

 フライドポテトを口に運ぶマリア。
 彼女は一本ずつ食べる派のようだ。
 指についた塩などをペロッと舐める。
 それがまた稲生の心拍数を上げるのだ。

 マリア:「そういえば、ここから家まではどうやって?タクシー?」
 稲生:「バスがあるので、それで行こうと思います。ただ、まだ時間はあるので、ゆっくり食べても大丈夫です」
 マリア:「そうか」
 稲生:「先生からは連絡は?」
 マリア:「いや、まだ無い。多分、今日中には着くと思うけど……」
 稲生:「いざとなったら、ルゥ・ラですかね?」
 マリア:「その確率は高いな」

 マリアは苦笑した。
 そしてまた妖艶なポテトの食べ方を披露したのだった。

[同日14:55.天候:曇 JR大宮駅西口→西武バス大38系統車内]

 強い風がバスプール内に吹き荒ぶ。
 マリアは時折、スカートが捲れ上がらないように裾を押さえていた。
 そうしているうちに、中型の路線バスがやってくる。
 これは狭窄路があるからではなく、ただ単に乗客が少ないからである。
 1番後ろの席に座るが、今回は他にも7〜8人ほどの乗客が乗り込んで来た。

 マリア:「ハンバーガーを食べてる間は顕正会のことばかり気になっていたけども、あのペデストリアンデッキにはクリスチャンの伝道者もいるな?」
 稲生:「ああ。エホバの証人ですか。そうですね。彼らは顕正会員と違って、ただ書籍を持って佇んでいるだけです」
 マリア:「顕正会とやらは、攻撃しないのか?」
 稲生:「多分、しないんでしょうね。あれだけ『与同罪、与同罪』と言ってる割には」
 マリア:「魔女狩りをしないからか?あの宗派は……」
 稲生:「さあ、どうでしょうねぇ……」

 魔女狩りの対象となってしまう魔道師としては、むしろカルト教団でもいいから、魔女狩りを否定する宗教団体が攻撃して潰して欲しいと思うのである。
 バスは発車の時間が来ると、エンジンが掛かった。

〔「お待たせ致しました。14時55分発、大宮市内循環、発車します」〕

 最近では中扉の開閉にドアチャイムを使用するバスが増えて来て、西武バスにもそういうのが増えつつあるのだが、まだ従来のブザーを使用しているものもある。
 これもそうだった。

〔発車します。お掴まりください。発車します〕

 バスは定刻通りに発車した。

〔♪♪♪。大変お待たせ致しました。ご乗車、ありがとうございます。このバスは上小町、中並木経由、大宮駅東口行きです。次は新国道、新国道。……〕

 

 稲生:「家に着いたら、ゆっくりしてください。取りあえず、いつもの部屋を用意したそうですから」
 マリア:「ああ。いつもすまない」

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