報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「遅れて来た客、元木」

2017-01-15 20:59:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日19:15.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”1Fロビー]

 マリアが窓の外を見ると、2つの光がこちらに向かっていた。
 幽霊騒ぎの最中なので、マリアはまたそれが窓から覗き込んでいたのかと思ってしまったが、何のことは無い。
 それは車のヘッドライドだった。
 吹雪でライトの光が拡散されていた為、錯覚をしてしまったのだろう。

 大森:「多分あれが元木さんだろう」
 宗一郎:「よく辿りつけたねぇ……」

 車は四駆のRV車のようだったが、そんな車でも、こんな猛吹雪の中を来るのは大変だっただろう。
 車が止まった所からエントランスまでは目と鼻の先のはずだが、それでも入って来た男の頭や肩には雪が降り積もっていた。
 風除室でパッパッと雪を払う姿が見えた。
 そして、ようやく入って来る。

 大森:「いらっしゃいませ。元木様でいらっしゃいますか?」
 元木:「はい、元木です。遅くなりました」

 元木は40歳前後の大柄な男で、黒い髭を生やしていた。
 手にはカメラバッグを持っている。

 大森:「大変でしたねぇ」 
 元木:「いやぁ、雪には強い方なんですが、さすがにいきなり強く降って来た時にはびっくりしましたよ。こんな時に限ってチェーンは切れてしまうし、楽しい冒険でした」

 カラカラと笑う元木。
 トレジャーハンター的な仕事でもしているのだろうか。

 大森:「すぐに食事になさいますか?」
 元木:「あー、いや、途中で色々食べて来ちゃったんで、お腹は空いてません。何か、温かい飲み物があると助かります」
 大森:「コーヒーと紅茶、どちらになさいますか?あと、スープもできますが……」
 元木:「それじゃ、コーヒーをください。何だか今日は、長い夜になりそうなので」

 元木の意味深な発言を聞いた勇太達は首を傾げた。
 チェックインの手続きを済ませた元木はルームキーを受け取ると、大きなカメラバッグを抱えて階段を上って行った。

 勇太:「気さくそうな人ではあるけど、何か少し変わってるね」
 大森:「お仕事はカメラマンらしい。きっと、風景写真でも撮りに来られたのでしょう」

 長い夜になりそうという言葉が引っ掛かった勇太とマリアだったが……。
 すぐに元木は、部屋から出て来て降りて来た。

 元木:「209号室は若い女性達の部屋ですか?何だか賑やかですよ」
 勇太:「まさか、叫び声!?」
 元木:「叫び声?笑い声だったけど……。多分、“笑ってはいけない”でも見てるんじゃないかな?」
 勇太:「なるほど……」
 元木:「ここは紅白のコーナーですか?」
 宗一郎:「ああ。もし観たい番組があればどうぞ」
 元木:「ああ、いえいえ。僕は何でもいいです。それより、どこかでお見かけしたことがあるなと思ったんですが、もしかして、大日本ゼネラルの稲生専務さんじゃありませんか?」
 宗一郎:「いかにもそうですが、どこでお会いしましたか?」
 元木:「さる経済紙の雑誌記者と一緒に、カメラマンとして付いて行ったんですが、社長とのインタビューの時に役員室エリアの廊下でお見かけしましたよ」
 宗一郎:「おお、あの時か。世間は狭いですなぁ」
 元木:「今日はどうしてこのペンションに?」
 宗一郎:「大森オーナーは元常務でね、ここに招待されたので、それに預かったわけですよ。ちょうど家族旅行も兼ねてね」
 元木:「そうですか。それではこちらが奥様と御子息ですね。……ん?そちらは?」

 元木はマリアを見た。
 まだ、勇太以外の男性に嫌悪感のあるマリアは警戒心を露わにした。

 宗一郎:「ああ、息子の就職先の先輩なんですが……」
 元木:「なるほど。あ、申し遅れました。僕はフリーのカメラマンとライターの真似事をしている元木洋介と申します」

 元木が出した名刺にはシンプルに、肩書きはフリーカメラマン兼フリーライターとしか書かれていなかった。

 勇太:「それで、このペンションにはどうして来たんですか?風景写真でも撮りに?」
 元木:「それもいいんだけど、実はこのペンションに纏わる、とある噂を聞いたものでね。その取材さ」
 勇太:「とある噂?」
 元木:「そう」

 元木は大きく頷くと、ズイッと勇太とマリアの所に身を乗り出した。
 マリアは慌てて勇太の後ろに隠れる。

 勇太:「あっ、すいません。マリアさん、僕以外の男性が苦手で……」
 元木:「あっ、そうだったのか。これは申し訳無い。……それで、キミ達は何かこのペンションに関する噂を見たり聞いたりしたことはないかな?」
 勇太:「噂?どんな噂ですか?」
 元木:「このペンションには、あるモノが出るって噂さ」
 マリア:「!?」
 勇太:「えっと……それは……」
 元木:「おっ、その反応は知ってるってことだね?どこまで知ってるかな?」
 勇太:「どこまでって、その……」
 大森:「元木様、困りますね。他のお客様の御迷惑になるようなことは……」

 大森はコーヒー片手に、顔をしかめて言った。

 元木:「あ、いや、そんなつもりは……。あ、実は僕、こういう仕事をしてまして……」

 元木は勇太達に渡した名刺を大森にも渡す。

 元木:「オーナーは御存知ですよね?ちょっとしたSNSにはもう話題になってるんですよ?」
 大森:「そんなことは知りません。とにかく、他のお客様のご迷惑になるようなことはやめて頂きたいですね」
 元木:「分かりました。気を付けましょう」

 元木は肩を竦めた。
 そして、出されたコーヒーに口を着ける。

 元木:「そこのお嬢さんは、マリアさんというお名前なんですか?」
 勇太:「ええ、そうですよ。本名はマリアンナ・スカーレットさんと言います」

 あえてミドルネームであるデビルネームは除いておく。

 元木:「愛称がマリアさんか。なるほどなるほど。それじゃ、今夜は余計に出るかもしれないな」
 勇太:「幽霊が……ですか?」
 元木:「そう。やっぱり知ってるんだね?」
 勇太:「僕の部屋で一回、それらしいのを見たんですよ。直接見たのはマリアさんですけどね」
 マリア:「私の名前がマリアだとして、それと幽霊と何の関係があるの?

 マリアは英語で言った。
 もちろん、勇太越しにである。
 マリア自身、イギリスでは自分に対する数々の暴行や嫌がらせの加害者達に対し、彼らが化けて出てきてもおかしくないほどの凄惨な復讐劇を展開した。
 それが日本まで追ってきたとでもいうのか。

 元木:「えーっと……ゴメン。僕、英語はあまり良く分からなくて……」

 勇太がマリアの英語を日本語に訳した。

 元木:「それがあるんだよ。もちろん、キミは外国人だから本来関係無いんだけど、幽霊さん的にはどう思うだろうね」

 勇太が今度は元木の日本語を英語に訳す。
 実はそんなことしなくても、自動翻訳魔法でマリアの耳には自動的に英語に訳されて入ってきているのだが、何もしないと不自然だったからだ。

 マリア:「だから、どういうことだって聞いてるの!
 元木:「それは……」

 マリアの英語が勇太によって日本語に訳される。
 それに対し、元木が日本語で答えようとした時だった。

 勇太:「な、何だ!?」

 勇太の周囲が突然闇に覆われた。

 宗一郎:「何事だ!?」

 どうやら、闇に覆われたのは勇太だけではないらしい。
 一体、何が起きたというのか?

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