[8月27日10:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
稲生用の誓約書には、冒頭このような文言が書かれていた。
『私は以下に掲げる魔道師と恋愛関係にあることを認め、それ以外の女性とは一切性的関係を持たないことを誓います』
それはともかく、『以下に掲げる魔道師』というのは……。
稲生:「何これ?」
筆頭にマリアがいて、その下にエレーナがいる。
リリアンヌやアンナもいるし、名前だけ聞いたことのある者もいれば、全く初めて見る名前もあった。
ダンテ一門は魔道師の門流の中で1番大きく、世界中に活動拠点を持っている為、入門してから1度も会わない者もいる。
エレーナ:「ははーん!これはアレだな。稲生氏に少なからず興味を持っている魔女一覧ってところか」
エレーナはニンマリ笑った。
稲生:「ええーっ!?15人くらいはいるぞ!?」
エレーナ:「稲生氏、モテモテだねぇ?」
稲生:「全然知らない人もいるのに……」
エレーナ:「それだけ稲生氏みたいなオトコが珍しいってことだろ。で、どうすんの?この中から1人選べってよ?なに?アタシを選んでくれるって?」
マリア:「おい!」
憎悪を込めた右手でエレーナの肩をガシッと掴むマリア。
……うむ。女の友情など、男の下半身1つで簡単にブッ壊せるというのは本当かもしれない。
稲生:「いや、もちろんマリアさんだよ」
稲生は迷わず筆頭のマリアに◯を付けた。
エレーナ:「お、稲生氏、マジメだねぇ。アタシなら、『あ、手が勝手に〜!』とか言って、最低5〜6人くらいマルしちゃうよ?ダンテ門内ハーレムだ」
マリア:「オマエもう帰れ!……だいたい、下の3人は明らかにトラップだろうが」
エレーナ:「ま、そうだけどね」
稲生:「トラップ?」
エレーナ:「ここにいるモイラってヤツの場合、表向きは尻軽なんだけど、それに釣られてホイホイ付いて行った男を次の日以降見た者は誰もいないってさ」
稲生:「何それ?」
エレーナ:「取りあえず、怖い話聞かせてジワジワ呪い殺すアンナの方がまだかわいいってことさ」
稲生:「僕の知らない怖い人達、まだまだいるんだなぁ……」
マリア:「私ですら直接会ったことの無いヤツの名前が、どうしてリストアップされてるんだか……」
エレーナ:「さあね。稲生氏のマジメさを確認する為なのかもね」
稲生:「僕のマジメさ?」
エレーナ:「本当の正解はこれでいいんだよ。アンタはマリアンナのことが好き。だから、マリアンナに◯を付けた。だけどクズ男は……マリアンナに◯を付けるとは限らないだろ?稲生氏も気づいているだろうけど、ダンテ門内の魔女達はそんなクズ男は殺しの対象だからね。それの確認の意味もあるんだろう」
稲生:「怖い怖い」
エレーナ:「前にも言ったと思うけど、こういう魔道師同士で文書のやり取りをする場合は、ちゃんとよく読めってことさ」
稲生:「なるほど」
エレーナ:「それじゃ、これは返信用封筒に入れて送りな」
稲生:「エレーナが持ってってくれるんじゃないの?」
エレーナ:「このリストに私の名前も書いてあるんだ。もし送っている最中、誰かが魔法で不正に書き換えでもしようものなら、配達人の私も疑われるからね。そんなリスキーなことはできないよ」
稲生:「さすがだな」
マリア:「マスターになる為には、このくらいのことも考えないとダメってことだよ」
稲生:「メモっておきます!」
[同日11:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅前]
エレーナは次の配達からと、ホウキに跨って何処へと飛び去って行った。
ホテルに住み込みで働き、その片手間で“魔女の宅急便”をやることの何処が修行に繋がっているのか、まだ稲生には理解できていない。
稲生は返信用封筒を送る前に、3つの防衛策を施すことにした。
まず1つは、自宅のPCに取り込んで保存しておくこと。
もう1つは自分のスマホに撮影し、その画像を保存しておくこと。
そして、最後の1つはコピー機でコピーを取っておくことである。
北与野駅のNEWDAYSでコピー機を借りると、稲生はそれで誓約書をコピーした。
この時点で、原本に何か細工された形跡は無い。
コピーを取ると、今度はその足で郵便局に向かった。
稲生:「結局、シャワールームを無断使用していた人が誰か分かりませんでしたね」
マリア:「おおかた、ここにリストアップされたうちの誰かってところだろう。エレーナもそう言ってた」
稲生:「言い出しっぺが犯人じゃつまらないから、エレーナやリリィってことはなさそうですね」
マリア:「多分、勇太をハニートラップに掛けようとしたんじゃないかなぁ?」
稲生:「僕をですか?」
マリア:「うん。勇太が襲ってきたら、それで既成事実を作ってやろうって魂胆だったのかもしれない」
稲生:「怖い怖い。せいぜい僕が見たのは、曇りガラス越しに見えた白い肌と金髪だけでしたよ。だからマリアさんだと思ったんです」
マリア:「あ、それ重大ヒント。なに?私に似てた?」
稲生:「そうなんです。だからてっきり、マリアさんが入ってるものかと……」
マリアは勇太が先ほど取った誓約書のコピーを取り出した。
マリア:「この中で私のような白人で、金髪のショートというと……」
稲生:「エレーナは違いますね。ウェーブの掛かったセミロングだし、リリィはどちらかというとグレーに近い銀髪です。それに、背丈がマリアさんよりも低い。アンナは黒髪ロングだから違います。……僕の知らない誰かか」
マリア:「私も知らない。師匠なら知ってるだろうから、師匠が来たら聞いてみよう」
稲生:「そうですね」
稲生達は郵便局に行くと、返信用封筒を国際書留で送った。
既に印刷された行き先はイギリスになっていた。
今、ダンテはイギリスにいるのだろうか。
マリアが言うには、この宛先は個人宅だという。
ダンテのことだから、色々な国に家を持っているのだろうが……。
稲生:「さっき分かったんですけど、ウクライナって制限厳しくて、日本から送れる郵便物が限られているらしいですよ。クリミアとかセバストポリとか……」
マリア:「ああ、それで分かった。多分、エレーナの仕事って、それだわ。あいつがウクライナ人ってことで、魔女宅の仕事が有利なんだと思う」
稲生:「日本からどうやって運ぶんですか?」
マリア:「ルゥ・ラだろうね。ウクライナ国内に入ってしまえば、あとはあいつの地元なんだから何とかなるんだろう」
稲生:「へえ……」
稲生達のミッションは終了した。
稲生:「それじゃ、さいたま新都心で少し遊んで行きますか」
マリア:「そうしよう」
ゲリラ豪雨フラグの立つさいたま市。
夏の太陽が、2人の魔道師を照り付けていた。
稲生用の誓約書には、冒頭このような文言が書かれていた。
『私は以下に掲げる魔道師と恋愛関係にあることを認め、それ以外の女性とは一切性的関係を持たないことを誓います』
それはともかく、『以下に掲げる魔道師』というのは……。
稲生:「何これ?」
筆頭にマリアがいて、その下にエレーナがいる。
リリアンヌやアンナもいるし、名前だけ聞いたことのある者もいれば、全く初めて見る名前もあった。
ダンテ一門は魔道師の門流の中で1番大きく、世界中に活動拠点を持っている為、入門してから1度も会わない者もいる。
エレーナ:「ははーん!これはアレだな。稲生氏に少なからず興味を持っている魔女一覧ってところか」
エレーナはニンマリ笑った。
稲生:「ええーっ!?15人くらいはいるぞ!?」
エレーナ:「稲生氏、モテモテだねぇ?」
稲生:「全然知らない人もいるのに……」
エレーナ:「それだけ稲生氏みたいなオトコが珍しいってことだろ。で、どうすんの?この中から1人選べってよ?なに?アタシを選んでくれるって?」
マリア:「おい!」
憎悪を込めた右手でエレーナの肩をガシッと掴むマリア。
……うむ。女の友情など、男の下半身1つで簡単にブッ壊せるというのは本当かもしれない。
稲生:「いや、もちろんマリアさんだよ」
稲生は迷わず筆頭のマリアに◯を付けた。
エレーナ:「お、稲生氏、マジメだねぇ。アタシなら、『あ、手が勝手に〜!』とか言って、最低5〜6人くらいマルしちゃうよ?ダンテ門内ハーレムだ」
マリア:「オマエもう帰れ!……だいたい、下の3人は明らかにトラップだろうが」
エレーナ:「ま、そうだけどね」
稲生:「トラップ?」
エレーナ:「ここにいるモイラってヤツの場合、表向きは尻軽なんだけど、それに釣られてホイホイ付いて行った男を次の日以降見た者は誰もいないってさ」
稲生:「何それ?」
エレーナ:「取りあえず、怖い話聞かせてジワジワ呪い殺すアンナの方がまだかわいいってことさ」
稲生:「僕の知らない怖い人達、まだまだいるんだなぁ……」
マリア:「私ですら直接会ったことの無いヤツの名前が、どうしてリストアップされてるんだか……」
エレーナ:「さあね。稲生氏のマジメさを確認する為なのかもね」
稲生:「僕のマジメさ?」
エレーナ:「本当の正解はこれでいいんだよ。アンタはマリアンナのことが好き。だから、マリアンナに◯を付けた。だけどクズ男は……マリアンナに◯を付けるとは限らないだろ?稲生氏も気づいているだろうけど、ダンテ門内の魔女達はそんなクズ男は殺しの対象だからね。それの確認の意味もあるんだろう」
稲生:「怖い怖い」
エレーナ:「前にも言ったと思うけど、こういう魔道師同士で文書のやり取りをする場合は、ちゃんとよく読めってことさ」
稲生:「なるほど」
エレーナ:「それじゃ、これは返信用封筒に入れて送りな」
稲生:「エレーナが持ってってくれるんじゃないの?」
エレーナ:「このリストに私の名前も書いてあるんだ。もし送っている最中、誰かが魔法で不正に書き換えでもしようものなら、配達人の私も疑われるからね。そんなリスキーなことはできないよ」
稲生:「さすがだな」
マリア:「マスターになる為には、このくらいのことも考えないとダメってことだよ」
稲生:「メモっておきます!」
[同日11:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅前]
エレーナは次の配達からと、ホウキに跨って何処へと飛び去って行った。
ホテルに住み込みで働き、その片手間で“魔女の宅急便”をやることの何処が修行に繋がっているのか、まだ稲生には理解できていない。
稲生は返信用封筒を送る前に、3つの防衛策を施すことにした。
まず1つは、自宅のPCに取り込んで保存しておくこと。
もう1つは自分のスマホに撮影し、その画像を保存しておくこと。
そして、最後の1つはコピー機でコピーを取っておくことである。
北与野駅のNEWDAYSでコピー機を借りると、稲生はそれで誓約書をコピーした。
この時点で、原本に何か細工された形跡は無い。
コピーを取ると、今度はその足で郵便局に向かった。
稲生:「結局、シャワールームを無断使用していた人が誰か分かりませんでしたね」
マリア:「おおかた、ここにリストアップされたうちの誰かってところだろう。エレーナもそう言ってた」
稲生:「言い出しっぺが犯人じゃつまらないから、エレーナやリリィってことはなさそうですね」
マリア:「多分、勇太をハニートラップに掛けようとしたんじゃないかなぁ?」
稲生:「僕をですか?」
マリア:「うん。勇太が襲ってきたら、それで既成事実を作ってやろうって魂胆だったのかもしれない」
稲生:「怖い怖い。せいぜい僕が見たのは、曇りガラス越しに見えた白い肌と金髪だけでしたよ。だからマリアさんだと思ったんです」
マリア:「あ、それ重大ヒント。なに?私に似てた?」
稲生:「そうなんです。だからてっきり、マリアさんが入ってるものかと……」
マリアは勇太が先ほど取った誓約書のコピーを取り出した。
マリア:「この中で私のような白人で、金髪のショートというと……」
稲生:「エレーナは違いますね。ウェーブの掛かったセミロングだし、リリィはどちらかというとグレーに近い銀髪です。それに、背丈がマリアさんよりも低い。アンナは黒髪ロングだから違います。……僕の知らない誰かか」
マリア:「私も知らない。師匠なら知ってるだろうから、師匠が来たら聞いてみよう」
稲生:「そうですね」
稲生達は郵便局に行くと、返信用封筒を国際書留で送った。
既に印刷された行き先はイギリスになっていた。
今、ダンテはイギリスにいるのだろうか。
マリアが言うには、この宛先は個人宅だという。
ダンテのことだから、色々な国に家を持っているのだろうが……。
稲生:「さっき分かったんですけど、ウクライナって制限厳しくて、日本から送れる郵便物が限られているらしいですよ。クリミアとかセバストポリとか……」
マリア:「ああ、それで分かった。多分、エレーナの仕事って、それだわ。あいつがウクライナ人ってことで、魔女宅の仕事が有利なんだと思う」
稲生:「日本からどうやって運ぶんですか?」
マリア:「ルゥ・ラだろうね。ウクライナ国内に入ってしまえば、あとはあいつの地元なんだから何とかなるんだろう」
稲生:「へえ……」
稲生達のミッションは終了した。
稲生:「それじゃ、さいたま新都心で少し遊んで行きますか」
マリア:「そうしよう」
ゲリラ豪雨フラグの立つさいたま市。
夏の太陽が、2人の魔道師を照り付けていた。
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