Linkman#41  乱読の後始末

-乱読、精読、積読-

書籍に触発されて「思考と空想」は、知の荒野を駆け巡るのか…

日本の愛国心  佐伯 啓思(NTT出版)

2015年10月21日 | 
Hitorigaten

 国家の成立要件としては、永久的住民、明確な領域、政府、他国と関係を取り結ぶ能力が揚げられるという。そんな中でも、日米安全保障条約における「地位協定」は、冷戦下の60年前も、中国、北朝鮮との緊張が続く現代も全く同じ文脈の中で語られ、容認されているのか…
 米国の「核の傘」に守られてきた現実的な選択から、理想とする中立国への脱皮を目指すのならば、防衛力を高め、永世中立国たるスイスの如く「軍隊」を保持するしかないのか…
 自由民主党結党の党是が「自主憲法制定」であることから、日本国憲法前文や第9条等、現行憲法に詠う平和の希求や理念、理想像を捨て去るべき時期が本当に訪れているのだろうか…
 未来は誰にも解らないからこそ、民衆に開かれた継続的な議論を心から願うものなり。


○私にとっての愛国心とは、自分が日本人であるということの反省的な理解であり、その幾分意図的な意識化に他ならない
○大熊信行(国家悪):国家意識の変異とは、国家の存在と自己の存在との緊張関係についての意識の喪失にあるいわば母国が、いずれかよく知らぬ「在日ニッポン人」の群れが大量発生している
○戦後というのっぺりとした時空の中で、表面的には民主主義がにぎやかで騒々しい大衆的政治を実現し、ありあまるほどの国民的生産を何に投資してよいのかわからずに呆然としている今日の「日本人」を見たとき、この平和と繁栄を戦前の「過ち」を改めたからというだけで礼賛できるか
○アメリカの歴史観:①あの戦争は、日独伊のファシズムが生み出した覇権的支配を目的とした意図的な侵略戦争、②ファシズム勢力と民主主義的勢力との闘い、③日本の一部の軍国指導者は、東洋の支配を目的として国民を犠牲とした戦争に引きずり込んだ
○E・H・カー(英国 歴史とは何か):「歴史とは、人間がその理性を働かせて環境を理解しようとし、環境に働き掛けようとした長い間の奮闘のことなのです」
○福沢諭吉:「国の独立とは目的なり。今のわが文明はこの目的を達するの術なり」野蛮、半開、文明
○皇室はすべてを包摂する。それは目的をもたず、特定の意志を持たない。時間的にいえばいっさいの過去であり同時に未来をも示している。常にあらゆる瞬間に属している永遠といってもよいし、時間の空間化といってもよい。皇室こそは、「絶対矛盾の自己同一」を象徴するもの
○西田幾太郎:哲学の動機は人生の悲しみにある
○漱石の神経衰弱にせよ、啄木の悲哀にせよ、透谷の絶望にせよ、朔太郎の焦燥にせよ近代日本における自我の本質的な不安定に起因するものであった
○時勢という運命の享受は、他方で西洋の「力」に対する日本の「道義」という思想的な対立構図をもたらすことで精神のアリバイを確保しようとする
○明治維新:「革命(revolution)」であると同時に「復古(restoration)」でなければならなかった
○日本の「あの戦争」を少しばかり特異なものにしている悲劇的な性格は、日本の近代化のプロセスとその帰結としての「日本的精神の敗北」という自意識にあるのだろう
○大伴家持:海行かば水清く屍 山行かば草生す屍 大君の辺にこそ死なめ
○回帰できないからこそ、想起するのである
○現実を「見る」ということは、データを収集することでもなければ現場を歩くことでもなく、なによりまずそれを「見る」見方を確立することだからである-現実を見るためには思想がいる