阪大教授らの論文に「疑問」 共同執筆者の1人が自殺 (朝日新聞) - goo ニュース
またもや大阪大学で論文不正事件が発生した。《7月12日に米国の生物化学専門誌「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー」の電子版に掲載された》論文が、《助手を含む複数の共同執筆者が「オリジナルデータと論文のデータとの間に食い違いがある」と指摘》して、筆者側の申し出で8月2日に取り下げられたというのである。それだけでも研究者にとっては致命的なスキャンダルであるのに、共同執筆者の一人である助手が9月1日に服毒自殺を遂げたというからただ事ではない。
たとえ論文が取り下げられても記録は残されているので、私は適当なキーワードを手がかりに件の論文に辿り着いた。次に問題の研究室に大阪大学のホームページからアクセスしようとしてもデータが消されていた。しかしキャッシュが残されているので、それを再現することで、この研究室が大阪大学大学院生命機能研究科細胞ネットワーク講座染色体複製研究室(杉野研究室)であることが分った。
論文のCorrespondence Authorがここの杉野明雄教授である。もちろん助手の名前もあるが電話番号も出ているのでここでは明示しないことにした。
大阪大学では医学部での捏造論文事件も昨年起こっており、今年になって責任者の教授が軽い処分を受けたばかりである。その事件との関連でどうしても見逃すことの出来ない重要な事実がある。
大阪大学の捏造論文事件で、教授の処分に伴い大阪大学総長の発表した見解を私はブログに引用した。再録する。
《論文データねつ造などによる不正論文の作成、出版は大阪大学における研究の根幹を揺るがすものであり、大学としてあってはならないことで社会的責任を痛切に感じております。研究における公正さの確保は科学の進展における大前提となることは言うまでもありません。特に科学の推進の重要な担い手としての社会的役割と責任を持つ大学における学問研究にみじんたりとも不正な行為があってはなりません。今回の事案は、これまでの大阪大学の教育研究に対する信頼を失墜させ、本学の名誉を著しく傷つけたものであり、誠に遺憾に思う次第です。(強調は筆者)このような事案が再び起こることの無いように、研究者の研究倫理や良心の自覚のみならず、学生に対する倫理意識、社会規範等の教育指導に全学を上げて取り組み、本学に対する社会的信頼の回復に努めていく所存です。 平成18年2月15日 大阪大学総長 宮 原 秀 夫》
これに続いて私は《両教授に下された停職処分内容を知ると上記の強調部分が余りにも空しい。》と断じた。その私の思いが図らずも今回の事件という嫌な形で実証されてしまったのだ。
杉野教授の論文が学術雑誌に掲載されたのが7月12日である。このごろはどうか知れないが私が現役であった頃は、投稿してから受理されて掲載されるまで六ヶ月ぐらいはかかった。ということは阪大総長の見解が公表されるかどうかの微妙な時期に杉野教授が論文を投稿したことになる。投稿した論文が受理されるまでは査読者とのやり取りがあるのが普通で、それに数ヶ月はかかり、受理が決まると掲載までは一、二ヶ月で十分である。
即ち杉野教授は論文を投稿して掲載されるまでの間、総長見解を十分意識して自分の行動を律する時間的余裕があったにもかかわらず、結果的に総長見解を黙殺しているのである。
私は『論文捏造事件』を論じた際に次のように締めくくった。
《私が求めるのは件の教授に対する厳しい処分そのものではない。その厳しい処分を当然とする大学の社会的責任を大阪大学が遅まきながらでも自覚することなのである。》
ひとつも自覚できていないではないか。私はこれは大阪大学の「まぁ、ええやないか」という『なあなあ体質』によるものだと思う。商人の町大阪の悪い方の商人根性が阪大人の心の奥底に住みついたのだろうか。
社会的責任を自覚するとはどういうことか。まず大阪大学の隠蔽体質を一掃しないといけない。そして今回の事件に関しても杉野明雄教授が自ら知る全てを明らかにして社会に公表する。そのうえで大阪大学が責任者に厳しい処分を下すしか、今の大阪大学には再生の道がないように思う。私の母校のことゆえそれがいかにも口惜しい。
【追記 (9月13日)】
下のトラックバックを下さった方のエントリーに、「論文ねつ造疑惑 タイムスケジュール」が記載されていた。そうだ、と思い最初に掲載された論文を見ると確かに
Submitted on April 13, 2006
Revised on May 30, 2006
Accepted on July 11, 2006
となっている。
WITHDRAWNとスタンプされたページにこの記録が出ていなかったので、上に述べたように論文投稿時期について推論を述べたが、この記録で総長見解が公にされてからほぼ二ヶ月後にこの論文が投稿されたことが明らかである。
【追記 (9月24日)】
9月24日のブログを書き終えて、ふと私が「WITHDRAWN」スタンプ付きのファイルをダウンロードしたサイトを訪れると、なんと有料になっていた。スタンプ無しのファイルは無料でダウンロードできる。
それに加えて、私は昨日頂いた「大楽人」さんのご意見に惹かれるところもあった。《私もできればああいう貼付けは取り下げて頂きたいと思っています。もう2週間も周知したのですから、もうそろそろ?》の「もうそろそろ?」のところで、そこでそのお誘いに乗らせていただくことにした。
という次第で、貼りつけを最初に私が面白いと思ったことが分かる程度に縮小することにした。情報を含んだサイトには依然として誰でも無料でアクセスできるし、簡単な情報は「件の論文」の部分をクリックすれば得られるから、『公開情報』を秘匿したことにはならないと思う。