「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「謂わぬ色」

2014-06-30 00:19:23 | 和歌

 「うつろ庵」の「梔子・くちなし」が咲いた。

 花の近くでは気品ある香りが漂い、気分を癒やしてくれる。「うつろ庵」には八重咲きの梔子もあるが、花時は半月ほど遅れて咲くので、双方で略一ヶ月に亘って虚庵夫妻を愉しませてくれる。

 この写真の緑葉も虫に食われているが、オオスカシバ(大透翅蛾)の幼虫は梔子の葉が大好きで、油断すると丸坊主にされかねない。ごく小さな幼虫だが、梔子の葉だけを餌にして、忽ち五センチ程にも成長するから、堪らない。幼虫の体の色は葉の色と見分けが付ぬので、余ほど丁寧に探さないと退治出来ないのが悔しいかぎりだ。

 八重咲きの梔子には実が生らないが、この一重咲は花が散った後に、子房が膨らんで種子を生らせる。乾燥させた梔子の実は、水に戻せば淡い黄色の色をだすので、「きんとん」などの着色に現在も利用されている。

 昔は衣装の染色にも使われ、「謂わぬ色」と呼ばれる貴重な染色剤であった。
虚庵居士の想像だが、「梔子・くちなし」は「口無し」に通じ、「口無し」の実で染めた色が、もの「謂わぬ色」と呼ばれる所以に違いあるまい。

 残念ながら当時の衣装をみることは叶わぬが、梔子の実で染めた色調は、多分、写真に写る花芯の色に近いものだったと思われる。
「謂わぬ色」との呼び名には、古人の染色への拘りと遊び心が窺われて、興味深い。




           くちなしの香り聞きつつ花愛ずる

           齢(よわい)になるかも 我ら夫妻は


           くちなしが気の毒なるかな緑葉を

           虫に食われてなお花咲かすとは


           その昔くちなしの実で衣装染めて

           「謂わぬ色」とぞ呼ぶぞおかしき


           梔子の木の実の色を人々は

           なぜに斯くまで求めて已まずも


           我妹子(わぎもこ)も梔子の実を狙うにや

           調理に活かす心づもりか