「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「黄昏の凌霄花」

2013-08-31 10:55:09 | 和歌

 空き家になったお宅の庭から、「凌霄花・のうぜんかずら」の蔓が柵を越えて垂れ下がり、この一株だけが、家主に代って空き家と庭を懸命に守っているかに見えた。

 黄昏に、「のうぜんかずら」の花が雑草に紛れて咲く姿には「もののあわれ」が感じられるが、街ゆく人々は凌霄花には目も遣らず、厳しい残暑に汗を拭いつつ、疲れた足取りで通り過ぎて行った。

 海岸の椰子並木のプロムナードが虚庵夫妻の散歩コースだが、時には隣町の建売住宅街にも足を延ばすこともある。昨今はそんな住宅街にも、空き家が目立つようになった。働き盛りの世代に無理して購入した建売住宅も、リタイヤした老夫妻や、更には伴侶を無くした独居老人には、重荷になって手放す向きも多く見られるようだ。

 住宅も庭園も、手入れが途絶えたお住まいは瞬く間に荒れて、うら寂しい情景を晒すことになる。ご近所との濃密なお付き合いを重ねたお宅では、隣人が手を貸して雑草を引抜いてあげた等の、奇特なお話も耳にしたこともあるが、昨今ではそんなご近所付き合いは絶えつつあるようだ。

 夕闇迫る帰路は、凌霄花を長歌に詠もうかしらむ、反歌も添えようか等とあれこれ思いを巡らせつつ、凌霄花に思ひを寄せる虚庵居士であった。

 



           黄昏に

           のうぜんかずらは朧かな

           空き家の庭の柵越えに

           垂れにし蔓に君みるや

             姿に滲む もののあわれを 


           暮れゆくに

           草ぐさ庭木も供なれど

           頼りにならぬと覚ゆるか

           ただ一株は柑子色に

             のうぜんかずらは 揺れて咲くかな


           夕闇に

           主に代わる心なれや

           空き家と庭を目にしつつ

           守るこころを誰ぞ知る

             のうぜんかずらは ゆれてやまずも


           住み人の去りにし庭はうら哀し

           凌霄花は独り咲くかも