「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「玄関の楓」

2013-08-29 00:29:19 | 和歌

 玄関の出窓に朝日が差し込んで、楓は戯れている風情だった。

 この楓は、信州・蓼科高原に遊んだ折に、ロッジの管理人さんから頂戴したものだ。軽石にごく小さな凹みを穿ち、楓の新芽をそっと植えて、水苔で覆っただけの手作り盆栽だ。頂いた時には、十センチ程の背丈であったが、あれから何年を経たであろうか、三倍余の背丈に成長して、無言ではあるが朝晩のご挨拶をしてくれる律儀者だ。

 清涼な高原の気候と、横須賀の住宅地では環境が余りにも異なるので、気候の変化に耐えられるか否かが心配であった。ロッジの管理人の手ほどきでは、根元の水気に気を配るだけで十分だ。できれば水盆に水を張り、その中に軽石ごと据えれば、水気の心配はご無用、とのことであった。「うつろ庵」には水盆などという粋な器は無いので、古陶器の大鉢を楓専用に充てた。

 朝陽が差し込むだけで、日中の陽ざしは遮られる玄関の出窓が、蓼科の環境に最も近いのではとの気配りであったが、どうやら楓もお気に召して頂けたようだ。気が付けば、十年にもなろうかという歳月もあっと云う間であった。朝日に透ける楓の葉が、様々なことを語りかけている様に思われた ・ ・ ・。


 


           玄関の出窓にさしこむ朝の陽に

           もみじ葉透けて戯れ遊ぶや

 

           蓼科の木漏れ日偲ぶやカーテンを

           透かす朝日にもみじ葉かざして

 

           水苔と共に永らふ幾とせぞ

           水を湛えた大鉢に坐して

 

           朝日さす楓の鉢に寄り添えば

           透けるもみじ葉多くを語りぬ