「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「小菊」

2006-11-11 11:01:37 | 和歌

 白い小菊が木陰に、ひっそりと咲いていた。

 一日中、ほとんど陽が当らないのであろうか、背丈も気の毒なほど育たず、精々三十センチ足らずだ。一輪の白い小菊に蕾をくわえても二つ三つ。時節を違えず、精一杯に咲いている姿は健気でいとおしい。





 ほんの目と鼻の先には、秋の陽光を一杯に浴びて黄色の小菊が、身を籬から乗り出して咲いていた。籬の鉄の柱は、錆びて傾きかけていたが、小菊はそんなことには意にも介さぬ体であった。鉄柱の錆び具合から判断しても、ここのお宅はよろず放任主義のように見受けられた。ふと目を上げると雨戸の戸袋が目に入ったが、錆が浮いて、かなり手入れが放置されているようだ。ましてや、草花も押して知るべしか。

 小菊にとっては、いや、花木全てに共通であるが、陽ざしは彼等にとって如何に大切であるかを思い知らされた。人間社会でも適度な光を与えないと、若者は育つまい。だが、人間には知恵と行動力とが与えられているのだから、それを活かせるか否かが肝心だ。






             陽のささぬ木陰に在りても一輪の
 
             小菊は咲くかな おのれを信じて 



             縁どりに朱をさしたるや花びらの
 
             けわいに観しかな小菊のこころを 



             若者と語らひ重ねて差しのべる

             皺のこの手を如何にみるらむ