大変懐かしい「箒草」に出会った。
虚庵居士がまだ子供の頃は、田舎ではどこのお宅でもこれを庭に育て、枯れてから束ねて箒を作った。子供の頃の記憶が定かでないので、これ程鮮やかな紅に色付いたか否かは不明であるが。昨今の園芸種の改良は目覚しいものがあるので、観賞用に改良されたのかも知れない。「コキア」などとカタカナの名前が付けられていること自体が、その証かもしれない。
手作りの箒は、大きな筆の姿をしていて、庭掃除にはしなやかで手応えが優しく使い易かった。秋の陽射しを浴びながら莚に腰を下ろして、箒作りを父に教えて貰ったのも懐かしく思い出される。
それから三十年ほどして、仕事柄、足繁く仙台へ出張する機会が増えた。仙台の店先で「畑のキャビア」と称する「箒草」の種が購われていて、驚いた。「処変れば品変る」との言い伝えもあるが、「箒草」の種が食用として珍重されているとは。確かに調理した姿はキャビアと見紛うばかりで、食感も似たところがあるようだ。
懐かしき箒草かもたおやかな
箒で掃きたる感触おぼほゆ
道ゆけばはるか昔ぞ偲ばるる
父と箒を手作りせし日を
ふるさとの庭の陽だまり恋しけれ
梢に柿の一つが残りて