![]() | 代替医療のトリック 価格:¥ 2,520(税込) 発売日:2010-01-30 |
一気に読んでしまった。
評判通りのよい作品。
けれど、期待した「突破力」のようなものは感じられず。
よい、というのは、本当に難しいこのテーマをEBM(科学的証拠にもとづいた医療)を物差しに、うまく解きほぐして伝えてくれること。
バランスよく、また、できるだけフェアな立場から(科学的根拠に忠実であろうという軸がぶれない)述べてくれていて、たぶん、この筆致は多くの人に「響く」ものだろう。
日本の著者によるもので、これだけ丹念なリサーチに基づき書かれた類書はないわけだから、代替医療にどんな立場からでも興味がある方は読むべきだ。
「べき」といってしまえるだけの「強さ」をこの本は持っている。
なのに、「突破力」を感じられないのは、問題の性質上仕方ない。無い物ねだりか。
つまり、いきなり、前書きにも書かれている通り、この本は、最初から立場の決まっている人には響かない。
ビリーバーの人たちには響かないだろうし、「代替医療なんて全部ウソ」と思っている人には書かれる意義も認めてもらえないだろう。
で、内容は、やはり、読んでください、ということにしておいて、ピンポイントで少し。
著者の真摯な問いかけとして、ホメオパシーなど、プラセボ以上の効果はなく、なおかつ、それ自体、無害なものは、放置したとしても、「プラセボ」だけで意味があるのではないか、という論点を考えている部分が印象に残った。
結論は、ダメ、なのだ。
たとえば、ホメオパシーを「公認プラセボ」として医学共同体だけの「プラセボ以上ではないけれど、プラセボとして活用する」秘密を維持することにしたとする。
想像するだけでもおぞましい。
医師や関係者は、ずーっとウソをつき続けなければならなくなる。
ホメオパシーが持つほかの側面、たとえば、予防接種への否定的見解だとか、ホメオパシーのみを有効な治療と受け取る強いビリーバーが、より適切な治療を受ける機会を奪うとか、いろいろなことにつながっていく。
結局、正直が一番ってことになるのだが、考えて見れば、通常の薬にも、プラセボ効果はあるわけで、プラセボのためにホメオパシーを推奨することは、やはり変なのだった。
むしろ、ホメオパシーの施術者(というのかな?)、ホメオパスが患者と強い信頼関係で結ばれているがゆえにプラセボが効きやすいのだとすれば、通常医学による医療で、医師と患者の間で信頼関係が弱くなりがちなことにこそ問題があるのだろう、という主旨の話も、なかなかはっとさせられた。
さらに、代替医療がもしも、プラセボ以上の効果があるなら、それは代替医療ではなく、通常医療たりうる、という主旨のことが述べてあって、再度はっとさせれるのだが、この本の中でもいくつも例示されている通り、最初は「代替」だったものが、有効性を確立し、通常医療になったものは数多い。
そうならず、長いこと「代替」に留まっているものは、やはり、EBM的な証拠が得られないのだと考えた方が自然だ。治療効果が何倍も違うなら、いとも簡単に証拠は得られる。だから、効果はあったとしても「画期的」なレベルは期待できない。
何年か前に母が甲状腺がんの手術をした時に、善意からいろいろな代替医療を勧めてくれる母の友人たちがいた。
母は、その都度、心揺れたりするのだけれど、なんだか高価だったり、逆に害がありそうだったりで、やめときなよと説得するのに苦労した。
その時、一番、有効だったロジックはまさに上の議論を言い換えたようなもの。
・かあさん、それって、十年以上前から、効くとか効かないとか言われているよね。飲んで治った人の話ばかり聞こえてくるけど、飲んで治らなかった人の方がすごく多いと思うよ。あと、飲まないで治った人もいると思うよ。誤診とか、何かの拍子とかいろいろあるだろうから。それに、製薬会社が、がんの薬を探すのにどれだけお金を使っているか知っている? もしも、これが本当にがんに効くんだったら、とっくの昔に、どこかの製薬会社が薬にして大もうけしているよ。そうならないのは、ちゃんと調べたら効果がなかったってことなんだよ。
みたいなふう。
というわけで(?)、代替医療について知りたい人には星5つクラスにお勧め。
けれど、やっぱり、シンの筆力、調査力によっても、あっちいっちゃった人には届かないのだなあ(予測)としみじみ思うのだった。
ほんと、筆力、調査力の問題じゃないんだ。
この点において、菊池誠さんの新刊の方が、ずっと有効かもしれないと思ったりもする。
追記
信頼関係について。
母が上記のごとくのリクツで納得したのは、別にぼくの理屈が素晴らしかったからではなく、親と子としての信頼関係があったからなのだとはたと気づく。
代替医療のグルに何かを求める人は、今の医療を冷たい、非人間的なもののように感じてしまっているのだろうか。
医師よりも、グルを信頼してしまう傾きが、我々の社会にあるのかもしれない。
そこのところの指摘は大事なことだとあらためて思った。