川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

年の瀬のご挨拶2010

2010-12-31 00:01:48 | 日々のわざ
本年もお世話になりました。
すでに、メールでも送った方が結構いるのですが、あらためて、ブログにも、年の瀬のご挨拶。
大晦日にしようかと思ったけれど、年越しより1日前の今の方がふさわしい気がして。

さてさて、
昨年(2009年)はニュージーランドに半年滞在し「日本をお休み」していたため、今年はどことなくリハビリ感のただよう1年となりました。

仕事もゆるゆるとやった感があり、今、リストにしてみても、ちとぱっといたしません(おまえ、もっとやれるだろ、とおしかりを受けそう)。
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書籍などの仕事
完全な新作として上梓したのは1冊に留まりました。
雲の切れ間に宇宙船  三日月小学校理科部物語(2) (角川つばさ文庫)雲の切れ間に宇宙船 三日月小学校理科部物語(2) (角川つばさ文庫)
価格:¥ 651(税込)
発売日:2010-05-15


また、新たに3冊の作品(作品集)が、文庫で読めるようになりました。
星と半月の海 (講談社文庫)星と半月の海 (講談社文庫)
価格:¥ 610(税込)
発売日:2010-03-12
てのひらの中の宇宙 (角川文庫)てのひらの中の宇宙 (角川文庫)
価格:¥ 540(税込)
発売日:2010-06-25
イルカと泳ぎ、イルカを食べる (ちくま文庫)イルカと泳ぎ、イルカを食べる (ちくま文庫)
価格:¥ 840(税込)
発売日:2010-08-09




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ウェブ・雑誌など

ある程度まとまったボリュームある連載記事としては下記の通り。

ニュージーランドでの暮らしからのアウトプットとして……
「ニッポンをお休み!」(web集英社文庫)
http://bunko.shueisha.co.jp/serial/kawabata/25_01.html

「川端裕人のゆるゆるで回す「明日の学校」体験記」(日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20100205/212615/

また、ワールドカップ・南アフリカ大会では、日本戦すべてを含む10試合ぼとを観戦し、Number誌を通じて5回にわたる観戦報告をいたしました(残念ながらWebでは読めません)。

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その他
8月には、多くの方々の協力を得、「フォーラム・PTAは「新しい公共」を切り拓けるか~大人の元気が子どもの元気!」を東大福武ホールで開催しました。
http://pta-forum.seesaa.net/
当日資料などは、こちらで読むことができます。

一緒にやってくださった方々、来てくださった方々、本当に感謝です。



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さて、来年は……
現在、Web文蔵にて連載中の「ギャング・エイジ」が12回をもって終了する予定で、すみやかに書籍化できることを期待しております。
http://www.php.co.jp/bunzo/web_bunzo_list.php#kawabata

また、集英社の「小説すばる」1月号に掲載される「8月の世界樹」を皮切りに、理想的には隔月ペースで、気象をテーマにした連作を発表していきます。

光村書店の季刊誌「飛ぶ教室」でも、中学生の男の子を主人公にした「スーパー中学生」の物語が始動します。

子どもの本関連で、いくつかのサプライズも準備中。
依頼されている書き下ろしもやらなければ、ですね。理科部の続き!というプレッシャーを感じております。
身の回りレベルで、ちゃんと反響のある作品なので、大事にしなければ。

「校長先生が読む雑誌」に「校長先生のためのPTA入門」的な連載を持てる可能性がかなり高くなっています。

さらに言いますと、日本代表も出場するサッカーのコパ・アメリカ(アルゼンチンで開催)にも行ってくる予定です(サッカーは本当に、いろいろなとこに連れて行ってくれます)。



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そのほかにも、サバ行きたい、ルワンダ行きたい、あとニュージーランドやシンガポールに用事があるぞ……など、久々に、育児を子育てテーマを離れ「外を向いた」計画は数知れず。
実現するか分からないことだらけですが、今から慌ただしい「走る」がごとき1年になる予感がしております。

来年もよろしくお願いいたします!

あ、書いている間に、日付が変わって、31日になってしまったっっ。



「よみがえるセントラルパーク―管理と復元計画」が激安な件

2010-12-28 15:52:13 | 自分の書いたもの
よみがえるセントラルパーク―管理と復元計画
価格:¥ 8,925(税込)
発売日:1996-01
これが出版された時に一瞬買おうかと思ったのだけれど、9000円にもなる価格に物怖じして手がでなかった。
でも、「動物園革命」つながりで、リンクをたどると、なんと中古が1500円切る額で出ているではないですか。
申し訳ないが、中古で購入。
ざっと読んだかぎり、「動物園つながり」で読む本ではなく、造園、都市計画のなどの分野でセントラルパークに興味がある人なら、すごく資料性の高い訳本だと思う。動物園については、ほとんど記述はない。どちらかというと、忌避されきたというようなことが書かれている。

ぼくはニューヨークにちょっとだけ住んだことがある者として、とても面白い。
特に、入植後のセントラルパークの変遷については、知らなかったことばかり。
非常に読者を限定する本だというのは間違いないけれど、そういう人には、今、買い、です。

動物園革命動物園革命
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2010-12-23


動物園革命

2010-12-25 15:05:10 | ひとが書いたもの
動物園革命動物園革命
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2010-12-23
岩波から「動物園革命」という本が出た。
著者は、若生謙二さん。

石田さんの「日本の動物園」でもしきりと引用されていた、展示設計レベルでの第一人者で、ランドスケープ・アーキテクトとか、ランドスケープ・デザイナー(といっていいのかな)的な立場で、動物園と関わりつづけている人。
今手にしたばかりで、ぱらぱらと流し読みした程度なのだけれど、これもまた、読まねばならない必読の本が増えたなという印象。

「動物園にできること」への言及もあり、あの本が、批判的に乗り越えられることは、実に喜ばしいことだと思う。


それにしても、今年は、動物園本の当たり年だなあ。

「日本動物園」だけでも、画期的だと思っていたのに、年の瀬になって、あらたな重量級読み物が投下されるとは思ってもなかった。

日本の動物園日本の動物園
価格:¥ 3,780(税込)
発売日:2010-07-10
動物園にできること (文春文庫)動物園にできること (文春文庫)
価格:¥ 690(税込)
発売日:2006-03-10


ディア・ドクター

2010-12-25 00:11:01 | 日々のわざ
ディア・ドクター [DVD]ディア・ドクター [DVD]
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2010-01-08
例によって娘と。
しかし、娘にはむずかしかったみたい。
一方、ぼくにはすごく面白かったんだけど。

鶴瓶が演じるニセドクターは、どのように「彼女」を満足のいく死に導くつもりだったのか。緩和ケアとかやって、苦痛を最小限にして……とか考えて勉強していたのか。

井川遥のお医者さんも、キリッとして、しかし、上記の疑問をやはり抱いて、揺れている。

でも、ラストシーンはきっと、賛否別れるね。

ぼくは割と好きだったけど。八千草薫のフクザツだけどうれしそうにもみえる顔が。

さ、次は娘の要求通り、蒼井優でいくか。


東海大学出版会のフィールドの生物学シリーズがとてもよい件(とりあえず「サイチョウ」を紹介)

2010-12-24 20:55:33 | ひとが書いたもの
サイチョウ―熱帯の森にタネをまく巨鳥 (フィールドの生物学)サイチョウ―熱帯の森にタネをまく巨鳥 (フィールドの生物学)
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2009-11
すでに既刊は4冊なのかな?
これからも続いていくらしい(非公式ながらたぶん確実な情報)シリーズで、その第一弾として去年でたのが、「サイチョウ」。「熱帯アジア動物記」と同時発売だったはず。

両方ともすばらしい出来映えなのだけれど、とりあえず、先に「サイチョウ」を紹介。
舞台は、タイのカオヤイ国立公園。

ここはぼくも行ったことがあって、なにしろヒルが多いところ(この前いったボルネオのヒルなんてまったく問題ないって思えるくらい、多い印象だった)。それだけ豊かな動物相をほこる場所でもあって、著者はここでサイチョウ相手のフィールドワークを繰り広げる。
のべ1000日。

フィールドの研究者でも、本当に長期間現地調査に費やすことができるのは、大学院生だとかごくごく若い内だけなのだそうで、それをとことん、やってしまった著者は、筆ののりといい、実際に書かれている内容といい、魅力的な「若き研究者像」を描出するのに成功していると思う。

もちろんただサイチョウを追っているだけでは、今の研究にはならない。森林生態系の中でどういう役所を演じているのかが大切になってくる。だから、途中は話はどんどん植物にシフトしていくのだけれど、それまた、興味深し。

フェノロジー(生物季節学)をかなり無手勝流にやってしまったり、ほんと、若いってすげえなあっという素朴な感動を抱いたり。

なお、作中に時々、顔を出す、ブタオザル・マスターの女性のセンパイやら、ブタオザルをボタニカル・モンキーとして「使う」話やら、サイドスートリーのおもしろさてんこもり。

なにがよいって、結局のところ、すでに大学教授になって久しい大御所ではなくて、つい最近研究者コミュニティに参入してまだバリバリの「現役」であるフィールドワーカーが、学生時代の初々しい気持ちを保ちつつ、思いの丈をぶつけてくれているというのにつきるかも。

ほんといい本です。
いいシリーズです。

このスジに目をつけた編集者、偉い!



ニュージーランドらしい作品が読みたい(子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから6)

2010-12-23 10:38:46 | インポート
月刊「子どもの本」に6回にわたって連載した「子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから」というエッセイの最終回を公開します。


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6、ニュージーランドらしい作品が読みたい

 ニュージーランドは本の値段が高い。

 国内で本を作る場合、人口が少なく部数をたくさん刷れないからコストがかさむし、海外の英語圏の本を取り寄せる場合も当然、輸送費が上乗せされる。だから、日本で出版される本に比べると5割り増くらいの感覚がある。ニュージーランドの作家にしてみると、部数は伸びず、海外勢に押され、専業でやっていくには苦労するらしい(知人の証言)。
 ましてやニュージーランド固有の絵本や児童文学というのは、ジャンルとして層が薄いようだ。

 図書館に行っても、マオリの神話などをモチーフにした国産絵本のコーナーはあったものの、ほかの英語圏と分けてニュージーランドの作家の作品を置いてはいなかった。使われる言語も同じわけだから、区別する必要はないと感じる人がほとんどなのだろう。それゆえ、ニュージーランド固有の環境に則した絵本は、ジャンルとして確立しにくいともいえそうだ。

 というわけで、児童書、というか、特に絵本については、ニュージーランド滞在中、地元図書館で手当たり次第借りる中、ほとんど地元作家の作品に出会わなかった。唯一といってよいのが、Rebecca S. Wheelerの"How Absurd"。頭の中でいろいろな動物をくっつけて、変な生き物をつくってしまうユーモア系作品で、ぼくたちはずいぶん楽しんだ。もっとも、著者はニュージーランド生まれながら、オーストラリア在住だ。出てくる動物も、ニュージランドの生き物は一種類もなくて、むしろ、カンガルーなどオーストラリア産のものが登場する。

 ニュージーランドの不思議な生き物を魅了されているぼくとしては、ニュージーランド人によるものではないけれど、『カカポ──月のこども』(うちだいずみ・さじちあき)をまずす奨めたくなってしまう。内田さんは、長年ニュージランド在住で、ぼくも大好きな飛べないオウム、カカポを主役にした絵本を出した。これは英語版あるのだったけ?

 一方、絵本を卒業して、文字の多い本を読むようになる子どもたちにはどんな作品があるのか。

 ニュージーランドの児童文学は、エスター・グレン賞とか、ニュージーランドポスト児童文学賞(後者には絵本カテゴリーの賞もあると最近知った)といったものもあり、そこそこ充実しているはずなのだが、それでも層の薄さ、浸透度の低さは否めない。

 身の回りの子に、どんな本を読んでる?と聞いても「国産」が話題になるのは希だ。"The whale rider"(『クジラの島の少女』)を読んだというおませな子がいた程度。それよりも、北米発のベストセラー「ミスター・アンダーパンツ」(邦訳では『パンツ・マン』)を挙げる子の方が普通だった。

 結局、ニュージーランドに住みながら、ニュージランド固有の絵本や児童文学にはほとんど触れられなかったのが残念。そのかわりと言ってよいのか分からないが、帰国後、ニュージーランド作家によるニュージランドを舞台にした作品『ハンター』(ジョイ・カウリー作 大作道子訳)が翻訳され、楽しく読んだ。2006年のニュージーランドポスト児童文学賞の受賞作で、19世紀と現代、2つの時代を舞台に、それぞれ自然の中でサバイバル的な状況にある子どもたちが、時を超えた交流をしつつ、危機を乗り越える。

 現代の子どもたちは、飛行機の事故でフィヨルドランド地方の浜に取り残されている。3人のきょうだいのうち、末弟は腕に怪我をしており感染症がひどい。一方、19世紀の子どもは、身よりのないマオリの少年で、捉えられて奴隷として使役されていた村から逃走中。21世紀の子どもたちと同じ浜の周辺で、200年も先で起きている遭難事故を透かし観る。まったく「自然派」とはいかない現代のきょうだいが、19世紀の少年から得た知識で、釣りをして魚を得、サシミとして食べたり、サンドフライ(血を吸う迷惑なブヨの一種)よけになる樹液を体に塗ったり、感染症を悪化させた弟のために抗菌作用のある葉を使って手当てしたり、という場面は、実に臨場感があってわくわくした。

 いわば、15少年漂流記的な感覚。作中でも、主人公たち(現代の3きょうだい)が、「スイスのロビンソン」を引き合いに出すシーンがある。ここで「15少年」が出てこないのは、やはり、前にも書いた通り、ニュージーランドではなぜか「15少年」が読まれていないからなのだろう。「うーん、著者に伝えたいぞ!」と脈絡もなく思ったのだった。

 いずれにしても、ニュージーランドの自然と歴史にしっかり根ざしたよい作品だった。こういう作品は、ぼくが知らないだけで、まだまだあるような気がしていて、ぜひ邦訳してほしいと思う。

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この文章を書いてから、ニュージーランドの児童文学で、言及した以外でも邦訳があるのを知ったのだけれど、それは後で紹介することにして、とりあえず、このエッセイの中に出てきた本。

How AbsurdHow Absurd
価格:¥ 1,652(税込)
発売日:2007-07-20

カカポ―月の子ども
価格:¥ 1,529(税込)
発売日:1993-04
ハンターハンター
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2010-06-03
The Adventures of Captain UnderpantsThe Adventures of Captain Underpants
価格:¥ 526(税込)
発売日:1997-09


これは面白い!「子どもスパイ大作戦」的シリーズが出ていた。

2010-12-21 18:38:24 | ひとが書いたもの
英国情報局秘密組織CHERUB(チェラブ)〈Mission1〉スカウト英国情報局秘密組織CHERUB(チェラブ)〈Mission1〉スカウト
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2008-02
つい最近、教えてもらった、「子どもスパイ大作戦」系の作品。
これがめちゃくちゃ面白かった。
痛快にして、切なくもあり、ぼくたちの「今」にもリンクした作品でもある。ハリー・ポッター以降で、久々にあった快作だとまで言ってしまおう、というくらい気に入った。

恐ろしいことに、もう5巻まで邦訳が出ていて、それなのに、爆発的な人気にはなっていないよう。
しかし、潜在力充分とみた。

自分の子にも、クラスの子にも、奨めたいな。
でも、どっちかというと、自分で見つけてほしい系統の作品でもあって、悩ましいところだ。


「大先輩」バトラーの農場を訪ねて(子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから5)

2010-12-20 12:40:49 | 自分の書いたもの
月刊「子どもの本」に6回にわたって連載した「子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから」というエッセイの第5回目を公開します。


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5、「大先輩」バトラーの農場を訪ねて

 ニュージーランドは「15少年漂流記」の国だと前回書いた。「家」のような物質的なものであれ「社会」のような無形のものであれ、自らの手で作ることをよしとする誇り高き15少年の末裔が住んでいる、と。半年間の滞在を通じて、それが間違いではないと今も確信している。と同時に、別の面が見えてきたのも事実。より正確には、自分とこの国との関わりかたにおいて、別の面が出てきた、ということ。

 触媒の役割を果たしてくれたのは、サミュエル・バトラーの「エレホン」だ。

 バトラーはヴィクトリア朝時代の英国人作家で「エレホン」は代表作。のちに「すばらしい新世界」など反ユートピア小説のモデルにもなったと言われる傑作だ。主人公はある島国の牧羊者で、牧草地の遙かかなたに見える山脈を探検し、隠れ里のごとき「エレホン」を発見する。これは、英語のNowhere(どこにもない)をほぼ逆に綴って"Erewhon"としたもの。実際に「これあり得ないよ!」と言いたくなるような奇天烈な社会が描かれている。

 この国では病気になることは罪で、裁判の上、厳罰を下される。反面、盗みや詐欺などの犯罪は、我々の社会の「病気」と似た扱いで、同情され、治療の対象になる。「進歩」を敵視し、科学は禁止。機械類は徹底的に排斥さる。「音楽銀行」という、現実社会ではまったく役に立たないが名誉とされる貨幣を扱う銀行と、通常の商行為に使われる貨幣を扱われる銀行が並立している。主人公は寄宿する金満家の次女と恋に落ちるが、結婚は長女から先にと決められており障害が立ちはだかる……などなど。ぼくは高校生の時に「ユートピア小説・反ユートピア小説」に凝っていた時期があって、おもしろ半分に読んだ。しかし、今読み返してみると、バトラーがヴィクトリア朝時代の「三大権威」、宗教・親・機械を強烈に風刺しているのだと理解できる。

 なぜ、これがぼくにとって「触媒」となったか?

 実はバトラーは、1859年から64年まで足かけ6年間、ニュージーランド南島、それもクライストチャーチがあるカンタベリー地域で暮らした「大先輩」なのだ。そして、「エレホン」の舞台も、あきらかにニュージーランドだなのだった。

 バトラーの渡航のきっかけは、厳格な父との軋轢だったと聞く。親に頼らずに生活するため新天地で一攫千金を狙った。牧羊できる土地を探し、農場として軌道に乗せてから転売する。それがビジネスモデルだ。しかし、バトラーが到着した時期は本格的な入植開始から10年ほどたっており、クライストチャーチ周辺の便利な所は、すべて誰かが所有していた。やっとみつけた山奥の土地でなんとか踏ん張って牧羊を成功させ、6年間のニュージーランド暮らしを終えて帰国する。「エレホン」の導入部の探検譚に描かれるのは、どう見ても彼自身が踏破したニュージーランドの山々だし、つまり、エレホンは南島アルプスの隠れ里だ。そして、彼はその社会の造形に「母国」への強烈な批判を込めた。

 異国の違った環境に身を置くと、これまでと違ったことが見えてくる。バトラーは遠い山脈を見ながら、母国への批判を研ぎ澄ました。ぼくも、ニュージーランドの社会の中で、とりわけ子どもたちが通う学校や保護者とのかかわりの中で、日本の教育やらその他諸々についていろいろ言いたいことが出てきてしまった。ニュージーランドがよくて日本がダメというわけではなく、違う文化に身を浸すことで、それこそ身体感覚的なレベルから文字通り視野が広くなり、自分たちの社会の問題点もより広く深く見えてきた、というか。これについて、近々に本にまとめるつもり。「エレホン」のように洒落た小説にはならず、あくまでノンフィクションだけれど。

 まあ、それはそれ。滞在中にのある朝、ぼくは思い立って、「今からメソポタミアステーション」にいくぞー、と子どもたちに告げた。メソポタミアステーションは、バトラーが拓き、今も羊や牛が放牧されている大規模農場のこと。クライストチャーチから車で3時間半くらいと地図を見て予測した。

 子どもたちはちんぷんかんぷん。「15少年」ゆかりの地を探すのはとは違って「昔の作家が住んでいたとこを探す」と説明するしかない。「エレホン」は子どもたちには難解だ。

 4時間ほどかけてたどりついた。もう10代目以上になる現在の所有者が、バトラーの手作りの家が建っていた場所を教えてくれた。そこには、今は全校児童わずか2名だけの小学校があった。鍵すらかかっておらず、自由に出入りできる。子どもたちは、「全校2人、おまけに2人は兄弟」という学校のあり方に驚き、教室の中ではしゃいでいた。「エレホン」ゆかりの地が、今は学校なんて! なんだか不思議な符合を感じ、ぼくもはしゃぐのだった。

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なおエレホンは、今、日本ではなかなか手に入りにくい。
もしも、興味のある方は図書館を頼ったほうがいいかも。ぼくが高校生の時にはじめて読んだ時には、普通に本屋にあった。
エレホン―倒錯したユートピア (1979年)
価格:¥ 2(税込)
発売日:1979-12
エレホン―山脈を越えて (1952年) (岩波文庫)
価格:(税込)
発売日:1952


なお、すばらしい新世界は、今も「現役」ですね。
すばらしい新世界 (講談社文庫 は 20-1)すばらしい新世界 (講談社文庫 は 20-1)
価格:¥ 650(税込)
発売日:1974-11-27
すばらしい新世界 (中公文庫)すばらしい新世界 (中公文庫)
価格:¥ 1,300(税込)
発売日:2003-10
ちなみに、この物語は、社会的リスクをミニマムにするために、とんでもないことがごく普通に行われ、最大多数の最大幸福のために一部の人たちがひどいめにあうユートピア的ディストピア小説として読め、今の日本のご時世でも、示唆を得る部分が大きなものだと思う。

ちなみに、原題はBrave New World. Braveにこういう意味合いがあるのを、この本ではじめて知った。

懐かしい名刺

2010-12-19 22:54:04 | 日々のわざ
Img_4155この5年ほど、名刺を持たずに暮らしいてるぼくも、1990年代の大部分は会社員で、こんな名刺を持っていた。
きょう、実家に帰った際に、母が発掘したのをもらい受けた。
科技庁担当だったときのものだ。

もう科技庁はないし、記者クラブも文科に統一されたのだろうから、おそらくつながらない番号だけど、いちおモザイク。
大代表も今は変わった。確認してみたら、現在は使われていない番号みたい。

だからといってどうってわけでもないんですけどね。
オモエバトオクヘキタモンダ。


2010-12-17 23:40:47 | 日々のわざ
昴-スバル- 特別版 [DVD]昴-スバル- 特別版 [DVD]
価格:¥ 3,980(税込)
発売日:2009-09-09
黒木メイサに始まり、黒木メイサに終わる昴。
娘が、バレエ好きなので、しっかり楽しめました。

コミックの昴を読んでいる分には、ちょっと物足りない部分もあるのだけれど……桃井かおりがいいね!

黒木、桃井、と。

そういう映画でした。感想にもなってませんが、少なくとも娘が夢中だったことは申し添えておきます。


高畠那生さんと会う

2010-12-17 22:52:39 | 日々のわざ
クリスマスのきせき (えほんのぼうけん18)クリスマスのきせき (えほんのぼうけん18)
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2010-10-16
K社の編集者を介して、ふだんから読み聞かせで愛用(?)させていただいている高畠さんと会うことが出来た。
作風から著者像を想像するというのを、ぼくは普段からあまりやらない。
きっと、そういう逆演繹(?)みたいな作業に興味がないらしい。作品は作品だし、人は人、ってかんじで。

でも、高畠さんは、お会いした瞬間に、あの飄々とした作風とリンクする雰囲気だった。
この出会いの先には、一緒にする仕事がある、というのが今のところの予定なのだけれど、うまく実現するといいな。

さて、上の「クリスマスの奇跡」は、高畠さんの最新作。
コトバが少なくて絵でぐいぐい引っ張ってくれるタイプの作品。低学年の読み聞かせにお奨め。とりわけこの時期には。

さらにぼくがいつも、「なんかあった時に使う用」として、鞄にしのばせて、読み聞かせに持っていくのは下のうちのどちらか。
でっこりぼっこりでっこりぼっこり
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2009-08
チーター大セールチーター大セール
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2006-03
どちらも、不思議なスケール感のある絵で、なおかつ、おとぼけ感全開で、読んだ後、教室がなごみますぜ。


日経アソシエ、すごい本index

2010-12-15 13:03:26 | 自分の書いたもの
仕事に効く!人生が変わる! すごい本。Index(インデックス) (日経BPムック)仕事に効く!人生が変わる! すごい本。Index(インデックス) (日経BPムック)
価格:¥ 980(税込)
発売日:2010-12-14
以前、日経アソシエに書いた(というか、話したものをまとめてもらった)本の紹介がここに採録されてます。
動物園について語ったのだけれど、さて、お奨めはなんだったでしょうか。
ご確認を。
わりと前の記事を採録してもらったので、今なら少しセレクションが違ってくるでしょう。少なくとも、石田さんの「日本の動物園」ははずせなかったなあ、と。

日本の動物園日本の動物園
価格:¥ 3,780(税込)
発売日:2010-07-10
新品の在庫は払底しいてるようですが、中古は健在。
できるだけたくさんの人が読んでくれるといいなあ。


4年生、はじめての「語り聞かせ」は星新一

2010-12-15 09:42:29 | 日々のわざ
ねらわれた星 (星新一ショートショートセレクション 1)ねらわれた星 (星新一ショートショートセレクション 1)
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2001-11
4年生への読み聞かせも、そろそろ絵本ばかりでは、ちょっと物足りなくなる頃。
ぼくは5年生以上は、絵本ではなくリーディングと決めているのだけれど、この時期は移行期間。
で、最初に読むのは、当然のごとく(?)星新一。
最近では、ショートショートセレクションのシリーズも充実しているし、気に入ったら図書室で借りるのも簡単なのだ。

食いつきは……とてもよかったです。
放課後、うちに遊びに来た子が、おもしろかった、あれ、どこで買える?って。
そりゃあ、本屋だろう、とか言いつつ、お母さんに買ってもらうと意気込んで(?)帰ってったのでした。

ちなみに、読んだのは「さいこうのぜいたく」という作品。
このセレクションでは、「盗賊会社」というタイトルのやつに入っているはず。


15少年漂流記を強力にプッシュ(子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから4)

2010-12-14 16:02:58 | インポート
月刊「子どもの本」に6回にわたって連載した「子どもと本のある風景~ニュージーランドでの暮らしから」というエッセイの第4回目を公開します。


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4、15少年漂流記を強力にプッシュ

 ニュージーランドのイメージをひと言であらわせといわれれば、「15少年漂流記」と答える。小学生の頃はじめて徹夜して読んだ本で、登場人物の少年たちの大部分がニュージーランド入植者ということに印象づけられた。


 長じて実際に訪ねると、人里離れたところでワイルドな暮らしをしている人たちも多いし、都会でも家を自分で建てるくらいは普通。自主精神が旺盛で、たとえば公立の小中高校でも保護者がみずから校長や教職員を雇用し、学校を運営する(教育委員会に相当するものがない)。まだ歴史浅いこの国で、15少年の末裔たちはしっかりと根を張って、物語に描かれていた通り、冒険心にあふれ、誇り高くあり続けている。そんなふうに感じている。

 ぼくの子どもたちも「15少年」好きだ。特に、息子は同じ著者の「神秘島物語」も愛読しており、離島冒険物に目がない。一度、ニュージーランド北島のオークランドを訪ねた際、「クイーン・ストリート」を歩き、たぶん「チェアマン寄宿校」はこのあたり、とか、スラウギ号が流された埠頭はたぶんここ、とか、あちこち探して盛り上がった。

 在ニュージーランドの日本人にこの話をすると、「あれはニュージーランドだったんだ!」と驚く人が多い。さらに最新の豆知識として、作品で南米近くに設定されている「チェアマン島」のモデルが、実はニュージーランド領のチャタム島なのではないかという説が有力になっていることも併せ伝えると、いたく感動する人もいたっけ。

 しかし、残念なことに、これが生粋のニュージーランド人にはまったく通じない。これまで何人に聞いたか分からないけれど、とにかくこの小説を知っている人は皆無だ。ほとんど、ではなく、まったく知られていないというのが正直なところ。

 著者のジュール・ヴェルヌはフランス人だから、英語圏で知名度が落ちるのは仕方ないのだが、「タイムマシン」「宇宙戦争」「海底二万里」はわりと読まれている。だから、同じ著者に「2年間の休暇」という作品があって、それはニュージーランドの子が船で漂流し、無人島で2年間サバイバルする話なんだ、などと説明しなければならない。しかし、知らない小説の粗筋を説明されても「だから?」という反応になるのが当然で、話題としてすら成立しない。

 あまりにも知られなさ加減に、クライストチャーチの図書館で調べた。1965年の訳で"A drift in the Pacific" と "Second Year Ashore"の2分冊になっているものと、1967年の訳の" A Long Vacation"が、中央図書館の書庫の奥深くに眠っていた。それ以降、新たな訳がないことも分かった。明治時代以来、数え切れないほどの訳がなされ、現在も複数の訳の版が途切れず売られている日本とは大きな違いだ。

 一度だけ、地理学の学位を持つ知人とチャタム島について議論したのが、ニュージーランド人と交わした「15少年」関連の会話で唯一の「盛り上がった」記憶。彼はチャタム島の環境評価の仕事をしたことがあり、ぼくが持参していた邦訳書中の「チェアマン島」地図を見て「そっくりじゃないか」と興奮した。「形といい、内陸に大きな湖があることといい、チャタム島の昔の地図だと言われても信じる」と。読書家の彼はヴェルヌの「神秘島物語」を読んだことがあったので、「神秘島にもたしかモデルの島があったはず。本当に几帳面な作家だ」などと話し合ったのを覚えている。しかし、これは本当に特殊な事例。

 日本では知らない者がいない「15少年漂流記」は、むしろ、ぼくたち日本人のための物語なのだ、とぼくは今では思っている。勝手にイメージを重ね合わせ、勝手に胸を躍らせる。まあ、それはそれでいいじゃないか。

 ところが! ニュージーランド在住の日本人男性で、「え、それなに? 聞いたことない」という人に出会った。年の頃は30代前半。ニュージーランド居住歴は10年ほどで、少年期は日本で過ごしている。へぇ、そういう人もいるのか! 自分の世代では「知らない人はいない」ほどメジャーなのだが、今は知名度は落ちているのかもしれない。

 そこで、強力にプッシュ。日本語補習校の図書コーナーにも邦訳を置いてきたし、また、日本でも、学校の読み聞かせ活動の中でとりあげる。スラウギ号が無人島に漂着するまでの部分を朗読して、「あとは読んでねー」と学級文庫に置いてきたりする。埋もれさせるには惜しい作品だもの。そして、常にオトナってやつは、次の世代と「何か」を共有したがるものであるがゆえ。

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以上。

数ある邦訳の中で、とりあえず、ぼくが子どもたちに推しているのはこの訳。
十五少年漂流記 痛快世界の冒険文学 (1)十五少年漂流記 痛快世界の冒険文学 (1)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:1997-10-16


また神秘島も、全訳ではなく、かいつまんだこっちの方がとっつきやすいです。
神秘島物語 痛快世界の冒険文学 (5)神秘島物語 痛快世界の冒険文学 (5)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:1998-02-20



さらに最近、妹と話して急に思い出したガボテン島。
これ、考えてみれば、和製15少年だったのね。
冒険ガボテン島 (上) (マンガショップシリーズ (11))冒険ガボテン島 (上) (マンガショップシリーズ (11))
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2005-01-31