インフルエンザ21世紀 (文春新書) 価格:¥ 1,313(税込) 発売日:2009-12 |
これはごつい本です。
マッチョにして繊細。昨年の日本における新型インフル騒動の際の各キープレイヤー(ちなみに、プレイヤーと言ってしまうと、ぼくら全員だ)を丹念に追いかけている部分と、糖鎖について生化学的な専門領域に下りていく部分のバランスもよし。
日本の書籍だとつい放置されがちな数理的な部分にも踏み込んでいるし、公衆衛生的な発想ではワクチンがどのような意味を持つのか、ということについてなど、非常に分かりやすく説明されている。
ここで、西浦さんが登場している目配りのよさ。
そして、通底する「作品」としてのテーマは、「我々はみんなつながっている」だ。
感染症の制圧というのは、個人の問題ではなく、社会の問題であり、世界の問題。
自分が感染防護するのは、自分の問題だけでなはく、家族の問題で、社会の問題で、世界の問題。
こういったことがシームレスにイメージできるかどうか。
地球温暖化やら、諸々の環境保護やら、いろいろ契機はこれまでにもあった。
けれど、感染症ほど、短期間で「結果」が出てしまう、目に見えやすい脅威はない。その感染症のさなかで、個を護ることと、みんなを護ることが、しっかりつながっているのだという認識を持ち得るか、というのが鋭くも、瀬名さんらしい指摘だった。
小説よりも面白かった、などど言われると、ぼくは凹むので、もう少し正確に表現すると、小説とはまったく違うベクトルの掘り下げ方をされたノンフィクションであるのに、小説に似たカタルシスすらあった、というかんじか。
とてもよい本です。
読んでください。
追記
登場する安井さんは、感染研の情報交換会でインフル動向をリポートしてくれるとぼけたおっちゃんなのだけれど、ここに出てくる姿は熱い! イメージかわりました。