川端裕人のブログ

旧・リヴァイアさん日々のわざ

「新大学生にすすめる本」と「前立腺がん──早期発見の落とし穴」

2012-03-27 22:29:22 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
日経 サイエンス 2012年 05月号 [雑誌]日経 サイエンス 2012年 05月号 [雑誌]
価格:¥ 1,400(税込)
発売日:2012-03-24

大学の新入生に勧める本という企画があって、それに書いた。3冊のお奨め本、プラス、自分が大学生時代に読んで、影響を受けた(?)本を紹介、というパターン。
ぼくのはほとんど定番で、お奨め本は──
市民のための疫学入門―医学ニュースから環境裁判まで市民のための疫学入門―医学ニュースから環境裁判まで
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2003-10
代替医療のトリック代替医療のトリック
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2010-01
素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~
価格:¥ 2,730(税込)
発売日:2004-08-26



自分がカツンとやられた本として──
1973年のピンボール (講談社文庫)1973年のピンボール (講談社文庫)
価格:¥ 420(税込)
発売日:2004-11-16


人に奨めてるのと、自分がやられちったものが、食い違っているといえる(笑)。
それはそれとして、特集の「前立腺がんの早期診断」の件は、このお奨め本と関連する内容だ。

前立腺の早期診断が、公衆衛生的にも、受けた個人としても、ハッピーなものであるかどうか、かなり疑問がありそうな気配。「無症状の人の受診はすすめない」というのがアメリカでのガイドラインになっているそうで。

一方、日本ではアメリカよりは「前向き」なものの、厚労省と泌尿器学会のガイドラインが食い違うという、興味深い状況になっている。
泌尿器学会の方がアグレッシプに「やるべし」派だ。

ぼくは……受けんでおこうと、思いを新たにする。


ゼンメルワイス博物館

2012-03-15 20:25:50 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
Img_3793
産褥熱の原因をつきとめたので有名なゼンメルワイスの生家が博物館になっている。
産褥熱について書き込みのある本などが展示されてたけれど、実際のところは医学誌博物館であった。
Img_3774
ちなみにこれ、瀉血に使われたらしいんだけど、ものものしいな。痛そうだな。

で、なにげに評判がいいので、写真を付け加えてみる。
Img_3772
なにはともあれ、医学はヒポクラテスから始まるらしい。

Img_3783
そして、これは19世紀に使われていたという外科手術用のなにかだ。ものものしい痛そう。

Img_3784
そして、これをわすれてはならないよね。
ゼンメルワイスの直筆の書き込みだそうです。産褥熱関連。

土壌調査で得た結果をチェルノブイリの汚染区分に当てはめることについての素朴な疑問

2011-08-09 19:36:20 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
昨日、発表された木下黄太グループによる、土壌調査について。
素朴な疑問をいくつか。このエントリは、疑問が解消されれば消すかもしれないし、有益だと思えば手を入れて残すかもしれない。

いずれにしても、ぼくが確定的な意見を述べるというよりも、足りない部分もありつつ、疑問に思っていることをリストアップする形式をとる(Twitterでツイートしていても、面倒なので)。その中で、明らかに良いと思ったものについては良いと言い、明らかにダメと思ったらダメというかもしれない。

さて、木下グループ(放射線防護プロジェクトという冠と、木下氏の関係がよく分からないのだが、ブログ、Twitter、Facebookなどを通じて、木下氏の求心力のもとに、自発的に組織された印象を抱いており、ざっくりと木下グループと呼ばせていただく)の調査をぼくは基本的に、市民による調査、それもかなり統一した方法で行った調査として、良い仕事であると捉えている。

まず土壌調査についてはこちら。マップもテーブル形式も両方PDFでみられる。
http://www.radiationdefense.jp/investigation/metropolitan
これをもとに、木下グループは、首都圏の汚染を訴えており、ぼくも、ここで見つかった土壌汚染の大きな場所は、精査の上、除染を進めてもらいたいと思う。その点において、本当に「良い仕事」だ。

その上で、気になっているのは、チェルノブイリの汚染区分との比較。

この結果をもって、チェルノブイリの第○区分といったふうに説明するのは、リスクコミュニケーションとしてどうなのだろう。

木下グループは警鐘をならしているつもりだと思うけれど、リスクについてどう考え、どう伝えるかという意識を持つのはとても重要。分かりやすければそれでいい、というのでは、いけない。

ぼくが素朴に疑問に思っているのは2点。

1.チェルノブイリでこの汚染区分ができたのは、事故から5年後の1991年で、かつ、汚染のゾーニングの基準になっているのはセシウム137のみ。半減期が2年と短めの134はカウントされていないが、木下グループはこれも足しあわせて「汚染区分」と比較している。

2.木下グループが測定した土壌汚染の値は、そのまま地域を代表させてよいものか、という点(これは本当に分からない。チェルノブイリではどうやってゾーニング際の値を決めたのか)。


1について。
現時点において、福島事故で放出された、半減期30年のセシウム137も、2年そこそこのセシウム134も、だいたい同じくらいの量残存しており、今の汚染を考えるには、137と134を足すというのは、合理的かも、と理解できる。

その反面、チェルノブイリ汚染区分と比較したいなら、やはりミスリーティング(知らされた人を違った結論・決断に導く)と思う。特にマップは、地域全体が汚染地帯に見えてしまう印象を人に与え、センセーショナルだ。

東京でも第○汚染区分とした述べる場合、「東京でもチェルノブイリ並の被害がでるかもしれない」と警告が含意されているように思う(もっとも、チェルノブイリの被害についての見解は、もの凄く幅があって、どれが落としどころなのか、ぼくには判じかねる)。

しかし、実際、チェルノブイリで今の汚染区分ができたのは事故から5年たってからであり、その時点では、土壌の流出や、セシウム134の2半減期によって、随分、汚染が軽くなっている状態であるはず。その状態での区分だということに留意しよう。

そういうものに、今の東京を当てはめると、どうしても東京の汚染を過大に評価することになる。事故後半年の水準では、チェルノブイリ第4汚染区分の地域は、今の東京の当該地域よりもっと汚染されていただろう。また、カウントされないセシウム134も東京より多く、汚染区分のみからでは見えない実質的な被曝はさらに大きかったろう。

まあ、くどくど書くまでもなく、今回の木下グループ調査で、セシウム137だけで考えると、多くの場所が汚染区分からはずれる(ざっと数えたら、第4から半分くらいがはずれそう)。「あなたの住んでいる地域は、チェルノブイリの汚染区分にひっかかるほど汚染されているから、移住したほうがいい」というのは、ぼくはおかしいと思う。(もちろん、汚染区分と関係なく、とても心配で、移住したくて、かつ、できる人は移住すればいい。それは個人、家族の選択だ)。

予防原則として、大きめに見積もるのが問題なしという立場はありえるが、その場合は、ちゃんと大きく見積もっていることを明示しないと不誠実である。

ぼくは、むしろチェルノブイリがどうのと言う問題ではなく、危険なところを発見したら、ちゃんと処理していこう、という姿勢が大切と思うし、そのきっかけをくれたことが、この調査の重要性と見ている。
(追記、セシウム137と134を足しても、誤差は倍くらいにしかならない。何十倍という話ではない。だから、そんなに目くじら立てることじゃないと思い当たった。しかし、ここでぼくがあえてこういうことを書いたのは、チェルノブイリという言葉が、人の心理に作用するマジックワードと化している今、使うのは慎重に、という意味が強いと書いてから気づいた)


2について。
これは本当によく分からない。
木下グループは植え込み・庭など、わりと高い値が出やすいところを測っている場合が多い。これは、個人による測定なので、そうなったと解釈している。

しかし、町中が植え込みや庭であるはずもなく、高い値と低い値がまだらになっていることがほとんどだろう。また都市部では、土が露出している部分があまりないことも多く、単純に、「植え込み」「庭」などの値を代表させるわけにはいかないだろう。

この点、チェルノブイリの汚染区分ではどうやって具体的な測定をしたのか。是非知りたい。
航空機から線量・スペクトルをみて調べたというツイートをみたが、本当かどうか分からない。
勢い余って、ウクライナの政府系機関にメールしてみたけれど、今の所、返事はない。

ぼくの今の予測で、木下グループではここでも、結果的に、東京の汚染を大きく見たて、チェルノブイリ汚染区分の領域に引き上げたことになったのではないか、と予測している。
(追記、先の追記との関係で、この部分での疑問は、結構重要かもしれない。なおTwitterで実際に木下グループの土壌調査に参加した方からコメントをいただいたので、追記4参照)

また繰り返すけど、チェルノブイリと関係なく、汚染された場所を見つけたらなんとかしましょう、というのは変わりない。

なお、チェルノブイリの汚染区分については京大の今中氏が、いろいろと書いてくれているので、ぼくは基本的情報の多くを彼の文章から得ている。
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Nas95-J.html

以上、木下グループの土壌調査について、「チェルノブイリ汚染区分」のあてはめが、比較として適切か、リスクコミュニケーションとしていかがなものか、という素朴な疑問を書いた。

今のところは、適切ではない、というのが結論。
比べるなというのではない(比べるのは重要)。比べ方が適切ではないという意見である。

中には、本当に疑問のままの部分もあるので、ご存じの方はぜひご教示を。随時反映させるつもり。または、自分の根本的な疑問が解消したら消すかも知れない。

よろしくお願いします。

追記
ツイートでのやりとりで、東京レベルの土壌汚染は、むしろ、チェルノブイリ原発事故の際のスウェーデン、ドイツが参考になるのではないか、という意見をいただいた。住民に情報が与えられず、長期間ノーガードのまま危険にさらされたベラルーシやウクライナに対して、ドイツやスウェーデンは当初から様々な対策を行ってることも注目に値するとか。

スウェーデン情報は多少こちらにある。
http://blog.goo.ne.jp/yoshi_swe/e/40ff41f6ef9ce6da50cffd378d430701

興味深いのは、都市部住民が受けた内部被曝は、チェルノブイリ原発事故の1年後にピークになるのだが、それより以前に1965年あたりにもっと大きなピークがあることだ(大気中核実験が一番多かった頃)。

追記2
東京のことより、福島の方が先だろうという指摘をいただいた。
どちらか一つを選ばねばならないとしたら、そうだろうと思う。
でも、これは、あれかこれか、二者択一の問題ではないので。

追記3
本文に書くの忘れた。でも、わりと大事なこと。
上の京大・今中氏が掲げている「放射能汚染ゾーンの定義」では、土壌汚染密度だけではなくて、年間の被曝量も併記してある。

それによると、第3区分の「移住権利ゾーン」は年間1mSv以上の地域(日本での一般人の年間限度以上)、第4区分の「放射能管理強化ゾーン」は0.5mSv(日本での一般人の年間限度以下でもここに入る)で厳しい基準だ。

チェルノブイリの汚染地域ときくとそれだけでビビるけど、ここのとこも見ておいた方がバランスがよい。

なお、第2区分の「移住義務ゾーン」は年間5mSv以上。20mSvから1mSvを目指す福島は、本気でそれを実現してほしいと切実に気づかされると、いう部分もこの基準にはある。

追記4
Twitterにて、調査に参加した方から、「採取の際に、雨樋の下とか、たまってそうな場所とか、特に高そうなとこを選ぶのはやめて下さいと前もってアナウンスがありました」とコメントをもらった。
それは、たしか木下ブログにも書いてあったような気がするし、ぼくは、そういう意味で、「特別高い所」を狙って採集したとは思っていない。散発的な野良計測をするのではなく、統一したやりかたで意味のある測定をしようとしている人たちなわけで、それくらいの期待も信頼もしていますので。

で、その上で、庭や植え込みは、すぐに洗い流されがちなアスファルトの上とは違うだろうし、特に都市部などでは、「代表値」として使うのはどうだろうと思っている、というのが本文中の懸念です。

また、チェルノブイリの汚染区分と比較するなら、チェルノブイリでの測定法を知りたいと言っておるわけです。

追記
8月10日の時点で、航空機モニタリングの結果を利用してチェルノブイリとの比較をしてる人がいました。
http://genpatsu.sblo.jp/article/47289931.html

また、海外での9.11(震災半年)のnature記事でも同様に、Cs137を用いての比較が。
http://blogs.nature.com/news/2011/09/directly_comparing_fukushima_t.html


「放射線の健康影響をどう考えるか」ささやかな考察(「科学的」にもはっきりしない低線量被ばくの健康影響

2011-07-14 13:17:50 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
(Twitter、コメント欄、はてぶのコメントなどを取り入れてVer3になりました。ver2 →3になった際、本質的な計算ミス、勘違いを修正。詳しくは最後の追記かコメント欄をどうぞ)

【能書き】
5月15日に、国際大学グローコムにて、「見えない不安に立ち向かうセミナー・保護者と教師のための放射線学」という勉強会を開いた。

その際、岡山大学の津田敏秀教授に登壇してもらい、疫学的な観点から、放射線の健康影響をどう考えればいいのか「統計科学における確率の考え(Vs ゼロリスク)について」と題して、ご教示いただいた。

その時の様子は、ウェブで動画でも見ていただけるし、また、使用したスライドもPDFにしてご覧いただける。さらに、最近、講演を書き起こした。というわけで、スライドを見つつ、テキストを読んでいただくのも、動画を見ていただくのも可能。
https://sites.google.com/site/radiology3871/seminar20110515/jiang-yan-hua-xiang-zi-liao

基本的に、それを見てもらえればいいのだけれど、小説「エピデミック」を書く前から、疫学の「門前の小僧」なっている感のあるぼくとしては、津田さんの講演の中から、特に強調しておきたい部分も出てきた。

ここから先、津田さんに大いに影響を受けつつ、基本的には川端裕人文責による「ささやかな考察」を行う。
なぜ「門前の小僧」がこんなことをするかというと、日本の放射線疫学の知見をふんだんに使いつつも、日本の疫学者は(もっとも活躍すべき放射線疫学者も、疫学の手法に熟知しつつも少し離れたところから、様々な解説をしうるその他分野の疫学者も、ほとんど沈黙を守っており、「なんで黙ってるわけ?」というフラストレーションが高まっているから。
(群馬大中澤准教授よりコメントあり。国立がんセンター http://www.ncc.go.jp/jp/ には東大疫学出身者がかなりおり、かなり早い時期から組織として一般向けに発言をしてくれているとのこと。たしかにこのサイトはよく見ました。ありがとう!感謝なり)

津田さんにすべてお任せというわけにはいくまいし、また、一人にお任せなのも問題だ。

だから、津田さんの議論をベースにしながらも、門前の小僧が調べたり、考えたことを述べる。

基本的に、話題にするのは表題通り1点。

・「科学的」にもはっきりしない低線量被ばくの健康影響について有り得る「幅」を知っておくこと


それぞれ、人間の健康影響について因果関係に推論するための「唯一」の手法である疫学的な観点を中心におくように努力する。小僧なりに。

ささやかとはいえ、前振りがこれだけ長いのでも分かる通り、そう簡単には終わらない。
かなり長文になるけれど、一気に書かないと意味がないと思うので。
***********
まずは、「科学的」にもはっきりしない低線量被ばくの健康影響について有り得る「幅」を知っておくこと、について。

まず最初の注釈は、ここでいう「科学的」とは、主として「疫学的」という意味であるということ。

くりかえすけれど、こと、人間集団を対象にした健康影響について、一番、信頼できる情報を提供するのは疫学だ。

それについては、WHOの下部機関で、がんのリスクについて評価するIARC(国際がん研究センター)の基準で、グループ1(=発がん性あり)と認定されるためには、 疫学証拠が最重要視され、動物実験などは傍証的に扱われることは、納得いただけるだろうか。
http://monographs.iarc.fr/ENG/Preamble/CurrentPreamble.pdf
(この22ページにグループ1になるための条件がある。十分な(sufficient)な疫学証拠は単独でグループ1分類の理由になりうる。また疫学証拠が十分でない場合には、十分な動物実験・その物質が人体に作用する機序の強い証拠などと合わせ技で分類に記載されうるが例外的。動物実験だけでは、グループ1にはならない)

発がん性、とひとことで言っても、動物によって感受性は違う。
有名な例として、ヒ素は、人間には発がん物質であるが(グループ1)、動物実験でがんを発生したことは今のところない。

というわけで、放射線の人体影響を語るのは放射線疫学、ということになる。
現代の放射線疫学の基礎は、日本の広島・長崎の原爆・被爆者調査が基礎になっている。被ばくした人の数といい、その後の追跡期間といい、これだけの人が、性別、年齢をとわず、一斉に被ばくし、長期にわたって観察されたことは、それまでなかったのだから、当然のことともいえる。

20110511slide1_2
その前提で、まず最初のスライドをみてほしい(津田さん作成、以下別ウィンドウにて常に参照することう推奨します)。

横軸はこの場合シーベルト(Sv) で被ばくした量。
もっとも、シーベルト単位で被ばくはなかなかないので、ミリシーベル(mSv)だと思っておいてほしい。

縦軸は、被ばくから何年もたってからあらわれる(晩発性影響というそうです)病気のリスク比だ。もともとの病気の発生数を1としたら、被ばくの影響でそれが何倍になるか。よく研究されているのは、がんなので、この場合も「がんによる死亡」とする。津田さんのグラフはタイトルが「がんの過剰発生」となっているけれど、「がんによる超過死亡」と読み替えておいてください(理由は後述)。

津田さんが描いてくれたこのグラフで、定規があたっている部分は実際に観察されたリスクで、点線になっている部分は、はっきり分からない部分。だいたい100mSvを境界にするようだ。

描いてある複数の点線がY軸と交わるところで同じ所(y=1のところ)に収束しているのは、今問題にしている環境中の人工放射線の影響がなくても、その前からあるがん死亡のリスク。

そこには、自然放射線の影響や、その他の影響(タバコ、大気汚染、アスベスト、飲酒、遺伝要因、その他色々なものが絡まっている)があるはずだが、とりあえず、原発などからの人工的な放射線がなくとも一定数のがんは発生してそれを「1」として基準にしている、ということ。

ということで、y軸(つまりX=0で自然放射線のみの状態)から、100mSvあたりまでが「よく分からない」とされる世界。

なぜ、はっきり分からないかというと、その程度の被ばくでは、もともとこの世の中にある「がん」という病気から人工由来の放射線によるがんによる増加分が検出できるだけの数にはならない(症例の数が少なく、ほかの要因でがんになった人もたくさんいる集団の中での寄与分をしっかり割り出せない)ということ。

だから、もともとこのあたりの発がんリスクは、気にしようにも「定量的に気にするのが難しい」領域といえる。
とはっても「絶対安全」ともいえないわけで、様々な説が乱れ飛ぶ場となっている。ぜひ、定量的が指標がほしいところなのだが、なかなか悩ましい。

標準的には、疫学証拠があるところからY軸まで、そのまま直線(リニア)を引いて、どこかで急に影響なしになったりしない(閾値なし)モデル、つまり、リニア・ノン・スレスホールド=LNTという仮説を取る。

けれど、それよりも楽観論、悲観論は、専門家と称される人たちの中にも常にあり、混乱させられる。

まずは楽観論から見ていこう。


放射線ホルミシス

スライドの中でも、一番の楽観論。
縦軸が1(Y=1)の部分が、疫学指標の相対リスクとして、益もなければ害もなし、という境界なのだが、放射線ホルミシスの論者は、1を大きく割り込んで、「1と0」の間で議論をする。

つまり低線量の被ばくは、むしろ、体にいい、という。
一般的な説明として、よく引き合いに出されるのは、ラドン温泉の健康効果であるとか、ラドン温泉地域やほかの自然放射線が多い地域で、自然放射線による発がんの増加がはっきりと観察されていないこと、日本の原発労働者など一般人よりは被ばくしている人たちで、むしろ発がんがやや少ないという報告があることなど(原子力発電施設等 放射線業務従事者等に係る疫学的調査 http://www.rea.or.jp/ire/pdf/report4.pdf)。

この中では、原発労働者の件が本稿のメインテーマである疫学研究だ。これは、研究者自身が、選択バイアスのひとつ「健康労働者効果」だろうと結論している。原発で働く人はまず健康であることが前提。一方、対照群は一般の人たちなので、健康な人たちが多い集団と、健康な人と病気がちな人が混じっている集団を比べていることになる。そのバイアス(=偏り)の範囲内であろう、と。

放射線ホルミシスについてのwikiの記述も、気になる人は参照してください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ホルミシス効果

ぼくが知る限り、ホルミシスを支持する証拠は、マウスやラットの動物実験がほとんどだ。動物実験の結果はそのまま人間に適用できないので、疫学証拠がほしい。

そこで、Pubmedで調べた。1990年以降、"radiation hormesis" とepidemiologyのキーワードにかかるのは9件。中にはアブストラクトすら見られないものもあったけれど、ぱっと見たかぎり人間集団を対象にした疫学研究はなかった。
もちろん、このキーワードに引っかからない疫学研究があるなら、ご教示を。
(**コメント欄にひとつの論文が紹介していただけた。内容は微妙なものだったけれど興味のある方はコメント欄をどうぞ)

一方、2005年のBMJに掲載された、WHOの下部機関、国際がん研究センターのCardisらの論文は、放射線ホルミシスに不利な結論を導いているように思える。(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17388693 これPDFをどこかで落とせたのだけど今見つからない)。日本を含む15カ国での調査をとりまとめ総計60万人について総合した研究(メタアナリシス)で、はっきり発がんリスクが確認できている。つまり、ホルミシス効果はここでは否定させれている。
疫学では最高レベルの雑誌BMJに出ているのに、今のところそれほど有名になっていないのか、評価を知りたい。
(*はてぶより、この論文中の15カ国中カナダのデータが問題視されているとのこと。確認済み。そこのところを評価しなおした論文が今年か来年に出るとか。それがどのようになるか興味深いが、現時点でホルミシスの疫学証拠が薄いのは、事実だと思っているので論旨は変わらない。)

まとめ。
これは門前の小僧であるぼくの個人的な見解であるから、参考までに。
ホルミシスは原理的にあり得ないわけではないが、今のところはっきりしない。
ひとことでいえば、分からない。だ。
なによりも、放射線防護の観点からは「使えない」説でもある。
そして、今この時点で、「ホルミシス効果があるから、むしろ放射線は安全」などという人は、危険だと思う。(原発事故報道のきわめて初期だが、ある地方局に呼ばれた放射線ホルミシスの研究者が、自説はすでに確定した定説として、『福島第一原発』の正門前に行ってもむしろ体に良いくらいだ、と述べていたのには驚愕した)。


閾値がある、という考え

放射線の被ばくが減るとだんだん健康影響は減じ、あるところでゼロになる、というのが「閾値あり」の考え方。津田さんの図では、「閾値(フランス)」という矢印で示されている考えだ。

ちなみに、フランスでは、世界で唯一政府の見解として「閾値あり」モデルが採用されていて、それに応じた放射線防護策が取られているらしい。

この閾値があるかどうかも、疫学研究では分かっていない。

閾値ありモデルを主張する人は、動物実験や、生物学的なメカニズム論(放射線に被ばくした際の修復機能を見込んでいたりするらしい)から閾値があるはずだと述べていると認識しているが、人間集団では観察できていないのは(原理的に観察しにくい)のは、ホルミシスと同様。


ICRP勧告は直線・閾値なし、か

さて、日本で放射線防護施策の基準となっているのは、国際基準といってもいいICRPの勧告だ。
一般にこれはLNT 「直線・閾値なし」の仮説だと言われている。

でも、安易にLNTと呼ぶには首を捻らざるを得ない部分もあってややこしい。
というのも、この直線の実線の傾きが1だとして(実際に観察されている疫学研究ではそれくらいになる。グラフでは津田さんは、1.1としている)、破線部(100mSvの部分)は、低い被ばくだからということで、低減効果を期待して、2で割っているのだ。これには、線量・線量率効果係数(DDREF)という、いかめしい名前がついている。

つまり傾きは0.055。これを「名目リスク係数」と呼ぶそうだ。

で、なにはともあれ、ICRPの勧告に従うと、実線と破線は繋がらない。
ある閾値(100mSv)で急に害が半減するという閾値モデルといえなくもない。

このモデルにおいて、名目リスク係数の考え方は、総量1Svの被ばくをした人は、将来の発がんの可能性が0.055(5.5%)増えますよと言っていると解釈してよいと考えてしまっていたのだが、ちょっと複雑らしい。
Twitterでの指摘を受けて、ICRP2007を再確認したところ、名目リスク係数は、広島・長崎で被ばくした人たちが、のちに発がんして亡くなったり、QOLを低下させたりした「損失」を総合的に考えたもの、と理解した。

その上で、ICRPは放射線防護上は、将来的にがんで亡くなるリスク係数「致死リスク係数」0.05を使うように言っている。さっき、グラフを「がんの過剰発生」ではなく「超過死亡」と読み替えてくださいと書いたのは、そのせい。
また、今後、傾きも0.05として読み替える。

さて、この「致死リスク係数」0.05は、具体的になにを意味するか。
これもそう簡単に言えない側面があるのだが、粗く言ってしまえばある集団が1Svの被ばくをすると、トータルで5%がんによる死亡が増えるということ。
もっとも、1Svの被ばくはなかなかする機会がないので、20mSvで考えるなら、50分の1として、0.1%の増加ということになる。

もしも、1万人が住む町があったとする。
その町の1万人をずっと追跡したとすると最終的には3000人(30%)が、がんで亡くなる。(これは、毎年100万人が亡くなり30数万人はがんによる死亡である日本の現況がこのまま続くという粗い仮定に立った話)。

ところが、その町の住民が平均20mSvの放射線を浴びたとする。
すると先ほどの3000人に加えて、放射線による超過死亡が生じる。
これはさっき計算した通り、人口の0.1%だから、10人だ。結局当初の1万人中、3010人ががんでなくなり、そのうち10人が、放射線による超過死亡ということになる。

あくまで放射線影響にかぎって考えれば、1万に10人。もっと単純化して1000人に1人というのが本質的なところ。(要するに0.1%ということです! ただ、この議論は非常に粗くて、桁が合っていればいい、くらいのものであるご理解を)。

ICRP2007が言っている致死リスク係数というのは、だいたいこんなこと。

【注・もちろん、これが乳幼児、子どもになると、影響がもっと大きくなると想定される。ここはICRPから逸脱するが、かりに係数を10倍するとして(この係数についてのICRPは3倍とどこかで言っているらしいが、発見していない。ここは桁が違うという前提で)、1万人の子どもが被ばくしたら、将来、100人の放射線由来のがん超過死亡が加わることになる。こと放射線の影響という部分だけで考えると1万人に100人、つまり100人に1人ががんで死亡するのだとしたら、実に重たい。若齢での被ばくが早期での発がんに繋がるとしたら、がん死としても人生に与える影響はさらに大きいと考えるべき。しかし、繰り返すが、これは元々不確実なICRPの基準をラフに使ってなおかつ、勝手に10倍したものなので、本当に参考の参考程度。リスク評価は、門前小僧は自粛する】

本当の意味でLNTなモデル
参考までに、アメリカで放射線のリスク評価をしているBEIR(電離放射線の生物学的影響に関する米国科学アカデミー委員会)はICRPと同じような証拠をもとに議論をした上で、1.5で割っている(ICRP)よりも厳しく見ており、本当の意味でのLNTに近い。(なぜかぼくはBEIRは、本物のLNTと誤解していた)

ドイツでは1で割っていると、指摘を受けたが、今のところ未確認。正しければ、本当の意味でのLNTになる。


悲観的な考え
ホルミシスや「閾値あり」とは違い、破線部が上に凸な形状になると仮定する人たちがいる。
津田さんが描いてくれた図では、こんなかんじ。
こういったモデルを主張する代表格は、ECRR(欧州放射線リスク委員会)だ。各国政府や国際機関の組織ではなく、独立した市民活動的側面を強く持つグループである。

2011051slide22

根拠は、疫学的には、ヨーロッパの核施設(イギリスのセラフィールド、フランスのラアーグ、ドイツの各原発周辺)などで子どもの白血病の多発(多発とは、平均よりも多く罹患者がでるという意味。疫学でいうアウトブレイクは感染症のみならず、ある疾病が通常以上の頻度で発生することを言うことに留意)などが旧来から言われている。

なお、これらの研究や報告などは、被ばく量の推定が難しかったり(低い被ばくではなかったかもしれない。イギリス、フランス)、他の要因を考慮する余地があったり(イギリスとフランスについては人口混交効果なるもので説明しようとした研究者がいた。また、ドイツについては原発に近くに住む子ほど白血病になりやすいという結果を導いたものの、研究された各原発のまわりの空間線量は低く、社会経済的な要因なども指摘されている)、決定的な研究とはいえない。

また、ECRRはチェルノブイリの事故後、スウェーデンでのがんが増えた(セシウム137の100kBq/m2の放射性物質降下に対して、がんの比率が11%(95%信頼区間 3-20%)とするTondel論文を重く見ている。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1732641/pdf/v058p01011.pdf
しかし、この論文もこれだけで決定的なものとは言い難いようだ。

ちなみに、この論文について痛烈な批判を書いた日本のブロガーがおり、(http://d.hatena.ne.jp/buvery/20110520#1305851134)、これはこれで疫学のことをあまり知らないまま、統計は読める人にありがちな罠に落ち込んでいるようにぼくには見える。ただ、門前の小僧であるぼくは彼(or彼女)の批判を詳細に検討するのも身に余る。また、批判が的を射ているかもしれないとも思う。ぜひ、ブロガー自身が、論文が出た雑誌Epidemiol Community Healthにコメントを送ってほしいと願う。また著者トンデル氏に直接問い合わせもいいかもしれない。メールアドレスは、論文の冒頭に出ている。著者自身やエディターの意見が聞くことかできれば、世界中の人にとって有益であろう。(この件は、別にこのブログに限らず、査読付き雑誌に出た論文の瑕疵を見つけたなら、せっかくだから著者や雑誌にレターを送ってみればどうかと最近真剣に思っている)。
もっともすでに、同様のツッコミが別の筋からアカデミックに行われているなら、ご教示いただけるとさいわい。

いずれにしても、人間集団の中で、100mSv以下の被ばくの影響を見積もるのは本当に難しい。
ECRRの考えの一部(全部とはいえない。後述)は、悲観論側として、ありえなくはない、とぼくは考えておくことにしている。

なお、「二相性モデル」について、ECRRはペトカウ効果だとか、バイスタンダー効果だとか、ぼくにはよく分からない生物学的機構を用いて説明しようとしている。これについては門前の小僧ですらないので論じられない。素直によく分からないと述べておく。
津田さんも同意見だったが、内部被曝込みの影響か、外部被曝中心の評価か、の違いでいいんではないか、とは思う。

さらにいっておくと、ECRRの勧告はICRPと比べて厳格すぎて、今の日本の現状では「役に立たない」。一般人の年間被ばく線量限度について、ECRRは0.1mSvを勧告する。この数字だけが一人歩きし、ECRRはけしからんとか、逆に日本政府の対応は生ぬるいとか、いろいろ言われるようだけれど、どっちにしても、この基準を勧告されても、今の福島などでは実現不可能だ。

さらにさらに、ついでに書いておくと、よく誤解されるけれど、年間被ばく線量限度とは、環境中の人工線源による(自然放射線や、医療用などを除く)被ばくだ。西日本の人が、今、自分が住んでいる場所の自然放射線を年間積算して0.1mSvを超えたと、さわぐのはおかしい(そういう人がいるか知りませんが)。


シーベルトという単位について少し
そもそもSv(シーベルト)という単位は、人体影響をあらわすために特別に作られたもので、外部被曝にせよ、内部被曝にせよ、正しく人体影響を換算できていれば、本来なら、被ばく量(シーベルトが単位)と健康影響は比例するはず。本当は各種電離放射線からの換算係数(外部被曝の場合)、ベクレルからの核種ごとの換算係数を見直せ、ということなのかもしれない。

ちなみに、ICRPが内部被曝のベクレル→シーベルト換算用に使っている係数はこちら。
http://www.remnet.jp/lecture/b05_01/4_1.html
また、こちらでは、簡単に計算をしてくれるページを作ってくれている。
http://testpage.jp/m/tool/bq_sv.php?guid=ON


幅を考えること
以上、楽観的なホルミシス説から悲観的なECRRまで、ざっと見てきた。

いろいろな意見があるが、じゃ、どれが正しいのかと問われると困る。

ひとつ言えるのは、今、専門家が同士が緊急に議論したとしてもすぐさま合意に至るわけではなかろうから、すでに国際基準として日本が採用しているICRPの最新勧告を最低限のラインに、公共の放射線防護施策、公衆衛生施策(衛生というと変かもしれないが、パブリックヘルスと思ってください)は、考えて欲しい。

で、個人的な信念については、自分が納得できる考え方をご自由に、ということになる。
いずれにしても、今、世の中には、これだけの見解の差があることを知っていると、自分の信じていることとは違う意見に出会っても、うろたえずに済む。

ただし!
申し訳ないけれど、ホルミシスからECRRまでの、「幅」を定量的にしっかり示す能力はぼくにはない。
門前の小僧、ここに力尽きるだ。

せめて、自分が聞かされてきたこと、周囲で支配的だった意見とまったく違うことを言っている人がいても、ああ、「この人はあれか」と分かるだけでも、放射線と健康をめぐる見通しがよくなるのではないかと思ってここまで書いた。

なお、科学的に(疫学的に)はっきり分からないからこそ、専門家の意見が大幅に食い違う。
分からないのは、影響が小さすぎて、もっと大人数の調査でないと検出の限界を超えてしまったり、ほかのノイズに埋もれてしまうからだ。

だから、大したことはないのだともいえる。
実は、いろいろな情報にさらされて、怖くなりすきて引き起こされる、いわば放射線情報ストレスというのも、確実に健康被害をもたらしているかもしれないと感じており(今のところ証拠はないが、ストレスが様々な病気のリスク要因になるのは常識レベルだろう)、「心配しない方が得!」とも言えるだろう。

もっとも、これまで紹介した中で、ECRR的悲観論に立つ人は、これに納得しないと思う。
また、福島で子を持つ人も、納得しがたいだろう。
後者については、徹底的な放射線源の撤去(土や植物など含む)を含めて、日常的に被ばくする量を減らして欲しいし、「子どもがいる家族」で引っ越したい人、留まりたい人、双方に公的支援を願いたいと思う。


急性障害について
そうそう、「幅」を考えるにあたって、ECRRの主張をはるかに超える立場があるのを思い出した。

関東や関西や、時には九州ですら、「放射線被曝の急性障害として鼻血や下痢が!」「関東で甲状腺障害!」といった情報がネットで乱れ飛ぶことがある。

これはこれまでの放射線疫学の常識では(たぶん放射線臨床の常識でも)ありえないことだが、人間集団を観察する疫学の立場としては無視できない。(だからといって、放射線の急性障害が起きていると短絡してはいけない)。

個人的には、そういう心配をしている人には、心配する方が体に悪いと言いたいが、本当に心配だったら、とりあえずは通院してもらいたいと切に願う。

ひょっとすると、放射線由来かどうかは関係なく、重たい病気の兆候ということもありえる。

なによりも、そのような症状の人がたくさんやってくれば臨床医が多発に気づく。
それがおかしいと感じれば、医師会で問題になったり、保健所が動いたりする。結果、実地疫学的な調査が行われ、多発が確認されるかもしれない。その上で、原因も分かるかも知れない。

原因候補は、放射線と思いたい人もいるかもしれないが、いろいろありえる。前述したストレスの他に、感染症だとか、アレルギーだとか。


**********
以上、放射線の健康影響について、議論されている「幅」について議論した。
低線量放射線が体によいという放射線ホルミシス(実に魅力的な説で、電力会社などから予算を得た研究者がかなり熱心に研究している。公の性質がある放射線影響研究所や、放射性医学研究所にも研究者がいる)は、そうだったらどれだけいいだろうと思うけれど、疫学証拠は薄く、少なくと現時点で防護の考えとは馴染まない。

ICRPは、当面よりそっていくべき指標だと思うけれど、単に20mSVの被ばくでも、水道水での平時の基準「10万人に1人が、生涯リスクで水道水がもとで死亡しないようにする」ということを(日本の水道局はそれを実現してきた)考えるといかにも高い。関東以西はほぼ心配する必要はないけれど、福島はやはり心配だなあという印象。
その一方で、我々がふだん、どれだけのリスクをあまり意識することく受け入れてきているか、ということとの比較は重要。単純にリスクの比較を拒む人がいるけれど、定量的な比較は判断の基準になる。受動喫煙やアスベストや、様々な生活習慣との比較もできるので、それはほかのサイトを探して、自分なりの指針を構築するのに使ってみてほしい。

ECRRは、前述のとおり、かりに彼らの懸念が当たっていたとしても、「使えない」局面が多すぎる。
彼らの勧告をすべて真に受けると、福島県全域とさらにその周辺での避難も検討されなければならず(関東も含むだろう)、彼らが考える放射線リスクのほかに、避難やストレスのリスクも当然極大化する。

急性障害については、現段階ではないと言い切ってよいと思う。もしも本当にあったら新たに発見された放射線影響というこになる。それはそれで、すごいことである。もしも、鼻血が出たり、下痢が止まらない人は、心配なら、とりあえず受診してください! 鼻血や下痢の原因候補は、放射線を疑う前にゴマンとあるけれど、実際に多発しているなら、なにはともあれ臨床医に「発見」してもらわないと。

というのがまとめ。

ここから先、オリジナルのエントリでは、個人と家族の防護と公衆衛生(public health)について語っていたのだが、今回はそこを削除する。
今後吟味してまた、付け足すかもしれないし、独立した別エントリで議論するかもしれない。独立させた方が読みやすかろうとは前から思っていたし。


追記
本文中にも述べたが、公衆衛生的な発想での対策の落としどころはどこか、となると、やはりICRPを基準にしていくしかないと思う。今議論しても、話がまとまる前に自体はどんどん動いていく。既存のコンセンサスとして、ICRP勧告の位置づけは重たい。
先の話として、考え方の見直しが必要な部分が出てくるにしても。

追記2
放射線のリスクについてばかり延々と書いてきたけれど、リスクは放射線だけではない。
さまざまなリスクの中で我々は暮らしており、東京だと大気汚染もばかにならない。
喫煙は自分で吸うのも、人の煙を吸い込むのもとても大きなリスクだ。
福島での放射線リスクよりも上だろう。
そして、さらに今のところ定量化されていないと思うけれど、放射線を気にし続けるストレスの健康影響について、かなり大きなものになのるではないかと心配している。
これはまた、別のテーマ。

追記3
最初、ICRPの0.055という「名目リスク係数」を、放射線による発がんの過剰発生の係数として使い議論した。これが厳密には「ちょっと違う」ことは本文中に書いた通り。そこで、「致死リスク係数0.05」を使い、書き直した。でも、結果的には、内容はほとんど変わらなかった。なぜか、分かった人は鋭すぎです。
簡単に言うと、がんに罹患する人についての統計は、意識せずに年齢調整済みの数字を使ってしまっており、がんで死亡する人についての「致死リスク係数」で議論しなおした今回、年齢調整していない実際の数を使ったから。(それらが偶然、近かった)
どっちが適切なのか、門前の小僧にはわかりません! いずれにせよ、「考え方」について述べる論考ゆえ、許してたもれ。

追記4(2011.7.11)
このエントリを書こうとおもった直接のきっかけは、6月、1週間をへずに、以下の2つの体験をTwitterでしたからです。
・極端な悲観派の方が、都内での健康影響にそれほど心配をしていないぼくに対して、「あなたが食べた放射性物質が、排泄され、最終的にはわたしにも届く。迷惑!」という主旨の非難をされた。
・かなり楽観派で、おそらくはホルミシス支持している自称理学博士より、「疫学は知らない。放射線は危険ではない。わたしは理学博士で、あなたは文系」(超まとめ)と言われた。

正直、このAさんとBさんが(仮名)が直接議論してもらいたいものだと思いつつ、この幅ってすごいよなあ、と思ったのでした。

追記5(2011.7.14)
ひどい間違いをやらかしていたことが発覚。
リスクの計算をする時の母数を間違い、結果的に2桁も安全側にふれた「デマ」を流したも同然。
みなさんすみません。
粗い見積もりをやっているつもりが(それは大事なこと)、結果的に桁が違うくらいのミスは、やった意味がないということなのです。
真面目に読んでくださった方に陳謝。

「シーベルト」をめぐる混乱要素を、距離と速度の関係として理解してみる

2011-03-16 23:41:10 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
本日、息子とした会話より、なんだかややこしい「シーベルト」という単位の使われ方について、距離と速度の関係を考えると分かりやすいかもしれない、と思い書き留めておきます。

まず前提として、ニュースなどで時たま(いやしょっちゅう?)耳にすること。キャスターや解説員が、舌足らずのことが多いのですね。
たとえば──

******
福島第一原発の3号炉付近で、400ミリシーベルトの放射線が観測されました。400ミリシーベルトは、人体に急性障害が起きるレベルの放射線量です。
******

さて間違いはどこ?
中1の息子に聞いても、当然、見破ることはできません。なぜなら、彼はシーベルトという単位についてまだ何も知らないから。

では、さらに質問、

シーベルトという単位は、もしも、距離、速度といったものと比べるとどちらに似ている?

それでも、息子は分からないですね。これまた当然、シーベルトという単位について知らないから。

とりあえず、2つ目の質問について先に答えると、シーベルトは距離、速度の関係の中でいうと「距離に似ている」が正解です。

なぜなら、シーベルトというのは、生体への被曝の大きさの総量を指す単位だから。

時間当たりではなく、「総量」って意味です。
速度の単位は、時速ならkm/h (1時間あたり何キロメートル)とか、秒速ならm/s(1秒あたり何メートル)とか時間当たりを示す/hや/sがつくけれど、距離(kmやm)と「生体への被曝の大きさ」(sv)は、時間で割られたりしない量なわけです。

具体的な例を挙げれば……
高速道路を、ある時には時速100キロで、ある時には渋滞にはまって時速10キロで走りつつ、最終的に何キロ走ったかという「総和」が距離。「生体への被曝の大きさ」をあらわすシーベルトもそれと似た「総和」の単位なわけですね。

とすると最初に問うた「どこがおかしい?」という問いの回答も分かるはず。

******
福島第一原発の3号炉付近で、400ミリシーベルトの放射線が観測されました。400ミリシーベルトは、人体に急性障害が起きるレベルの放射線量です。

******

の中の誤りとは……

正門前で観測された放射線量は「400ミリシーベルト」とはいいつつ、本当は速度に相当する時間当たりの数値だということです。明言されていないので、それが「時速」なのか「秒速」なのかも、分かりませんね。
結局、「毎時」で語るのが標準のようなので(時速に相当)、そう理解するのが自然なようです。

そして、二度目の400ミリシーベルト(人体に急性障害をもたらす)への言及はあきらかに「生体への被曝の大きさ」の「総量」(距離に相当)を示しています。毎時400ミリシーベルトなら、1時間そこにいて到達する「総量」であり、毎秒だったら……1秒で一気にいきますので、すぐに急性障害ってことになるでしょう。

きのうきょうあたりから、このあたりに自覚的な書き手や話し手が多くなってきて、「毎時」とか「1時間あたり」などと、ちゃんと言ったり書いたりされることが多くなりました。
これはよいこと。

でも、両方とも同じシーベルトという言葉が使われるので、なんだか一瞬でもその場所にいるとまたたく間に急性障害になりそうな気がしてきません?

たとえばさっき例文を、ちゃんと正しく修正してみます。

******
福島第一原発の3号炉付近で、1時間あたり400ミリシーベルトの放射線が観測されました。400ミリシーベルトは、人体に急性障害が起きるレベルの放射線量です。

******

正しく言っているのに、シーベルトの単位を意味を知らない人が聞いたら、やっぱりすぐに急性障害になると思っても不思議ないと感じます。
実になやましい。

結局、情報の受け手側が勉強しなきゃならない部分も結構ある、ってことなんでしょう。

そこで、息子との会話の中で有効だと感じたのは、距離・速度との比較かなあ、というわけ。

高速道路を走っている車をイメージして、

******
目指すところは400キロ先にあるヨンヒャクミリシーベルト・ポイント。
ある時には、スピード違反して時速140キロで飛ばし、ある時にはオービスを警戒して時速100キロ未満で、またある時には渋滞で時速10キロに……と速度は変わるけれど、結果的に400キロを走り終えたら、ヨンヒャクミリシーベルト・ポイント到達。
*******

てなかんじ。

当然ですが、もしも、時速400キロでずっと走り通せる車があるならば、1時間で走破ってことになるわけですよね。

なんかぐるぐるとした変な論理構成の文章となりましたが、そういうことを、息子と一緒に話していた午後でした。
Make sense? 

追記
書いていて分からなくなったのは、毎時400ミリシーベルトなどと述べる時、単位面積あたりで受ける量なんだろうか、それとも標準的な体格の人間を想定して言っているのだろうか……やっぱり、素人です、わたくし。

追記2
調べました。正解は、1キログラムあたり(質量当たり)のようです。
もともとSvを弾き出す元になるグレイ(Gy)は、1キログラムあたりのエネルギー(ジュール)吸収、という定義なのですね。
つまり、質量あたり、というのが単位の中に隠されている、と。


メチル水銀被害総説で感じた違和感(ミナマタ条約って、その資格あるの?ってはなし)

2011-03-06 02:11:20 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.0901757

昨年8月、EHP(NIHの下部機関、Enivronmental Health Perspectives)にメチル水銀中毒症について、フェロー諸島のコホート研究で有名なGrandjean教授と日本の3研究者(佐藤洋東北大教授・村田勝敬秋田大教授・衛藤光明元国立水俣病研究センター長)による総説論文が出ていると知った。

さっそく読んでみたのだが、かなーり驚いた。
Environmental health lessons from methylmercury(メチル水銀から学ぶ、環境と健康の関係のレッスン)というおおきな括りのなかで書かれている総説なのだが、そのレッスンが、あまりに現実と乖離している。

ストーリーの軸は水俣病であり、まとめをかのGrandjean教授が行ったという形式なのだろうが、日本の3研究者からの情報提供、あるいは直接的な執筆を、教授は本当に納得したのか不思議で仕方がない。

ぱっと気づいたこと──
・「熊本県が水俣湾の魚の喫食を禁止しようとしたが、国が認めなかった」とあるが。これはかなり、実際とは印象が違う。→正しくは、食品衛生法に基づけば県は独自に禁止できたが、国の見解をわざわさ問い「すべての魚に危険性があるか分からない」という厚生省見解をもとに、禁止を取りやめた。ちなみに、その時点でも、食品衛生法に基づき、浜松のアサリ中毒事件で自家採取を禁じ、成功した実績があった。

・当時、取りざたされた病因物質として、第二次世界大戦中の機雷起源説、マンガン説、セレン説、銅説などに触れているが、なぜ有機水銀が原因と認定されるまでに時間がかかったか説明しようとしていない。特徴的な病気を有機水銀と結びつけなかったかStrangeと書きつつも、Eventually(しかるのちに、とか、やがて、とか)1968年に政府が認めた、という説明。それが、チッソの水銀を触媒として使うプラントの操業停止直後だったという印象的事実は伏せられている。

・チッソが1958年の時点で有名なネコ実験を行っていたり、メチル水銀を疑っていたにもかかわらず、非協力的な態度で情報の流通に取り返しのつかないラグが生じたという説明を中心に持ってくる。そのまま、 世界的にこのようなことがおこりがち(メチル水銀中毒が認識されるのは遅れがち)、として、一般的な教訓としている。

・1977年判断基準(現在も有効)は、真正な患者を、メチル水銀曝露と関係ない別の原因でなっている患者と区別するために導入されたと書いてあるのはある意味正直。ただし、これが「少しでも疑わしきは認めず」というほど困難な基準であることは言及せず。また、「後にlikelyな患者が発見された」ので、2004年の関西訴訟判決に至ったという説明に違和感あり。likelyな患者は最初からいた。

・成人の重症メチル水銀中毒の病像を認識していなかったことが、水俣病の被害拡大につながったというのがconclusionに来ている(これは前段では書かれておらずぼくが違和感を持った点への説明か)のは、相当おかしいのでは。先にも書いたけど、Grandjean先生は、これで本当に納得したのかな。行政判断という観点からいえば、水俣病の被害拡大は、原因施設や病因物質にこだわるあまり、目の前にある、誰もが最初から、一度たりとも疑わなかった「水俣湾の(のちに不知火海)の魚を食べる」ことをストップできなかったことにある、という解釈の方が、この総説の書かれた動機である、Environmental health lessonsからして正当だろう。

このあたり、岡大の津田さんのまとめ「水俣病問題が混乱した理由について──とりわけ今後の厚生行政・環境行政を見据えて──」がずっと、まともなEnvironmental health lessonsになっていると思う。
http://ecogear.nomaki.jp/report/repo1tuda_minamata.html

なにはともあれ、水俣病か惨劇となったのは、病因物質についての情報が伝わらなかったからではなく、当時すでに整備されていた食品衛生法がきちんと適用されず、また、医学者もそれについて詳しくなかったという考えの方が、ぼくにはしっくりする。

つまり、レッスンの中心は、行政がどのように判断し動いたかという検証、そして、結局、なぜ適切に行動できなかったのか、ということにまず向かうべきだろう。

2013年に開かれる水銀規制についての国際会議招致を目指しつつ、そこで締結されるであろう条約を「ミナマタ条約」としたいという動きがあるという。

なんだか、このままでは気恥ずかしいぞ。
と思っていたら、やはり、同じことを考えている議員や記者は熊本の地元にもいた。
http://mainichi.jp/area/kumamoto/news/20110305ddlk43040552000c.html

****
蒲島郁夫知事は、水銀規制に向けた13年の国際会合の招致を目指し、条約を「水俣条約」と命名することについて「水俣病の教訓を風化させず、世界で二度と繰り返さないことを示す」……(中略)……(渡辺議員は)「健康調査すらせず、被害の全容解明もできていないのに、世界に発信できるだけの資格があるのか」と質問。蒲島知事は、11年度予算で約3億円かけ、水俣エコパークなどの電球を、水銀を使わないLEDに交換することなどを挙げ「失われた命を取り戻すことは不可能だが、問題に真摯(しんし)に取り組み積極的に行動する」と答弁した。「水俣条約」の命名を巡っては政府提案され、県や水俣市が招致を目指す一方で、被害者団体などは「本質的解決が示されない限り反対」と反発している。
****

てな話でした。

Pearlの「統計的因果推論」が訳されているのに気づかなかった!

2010-12-11 20:49:06 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
統計的因果推論 -モデル・推論・推測-統計的因果推論 -モデル・推論・推測-
価格:¥ 8,925(税込)
発売日:2009-02-24
もう1年半以上も前に訳されていたなんて!
英語版を持っているけれど、結局、拾い読み程度。
高いけど、訳書を購入してしまおう。
読めたら報告します。
しかし、疫学的因果推論についての、現時点での到達点ともいわれるこの本のこと、日本語読めるぞ、ということ自体、お知らせする価値があると考え(みんな知ってた?)、書いておく次第。

追記
注文してから気づいた。役は1st edtionだ。原著は2nd edtionが出ている。
やっぱ、訳がはやっ!と思ったら前の版だったのね……残念。
それでも、読みます。
Causality: Models, Reasoning and InferenceCausality: Models, Reasoning and Inference
価格:¥ 4,295(税込)
発売日:2009-09-14
なお、原著の方は、去年第二版になっていて、なおかつ安い。
英語の方が楽、という人はこっちですね。


ホメオパシー問題について軽く書いておきます

2010-08-18 22:00:51 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
R0013266ええっと、ですね。
ホメオパシー問題について、とっても簡単に書きます。
自分のTwitterのタイムラインじゃ、当たり前のように流れているので、つい、みんな知っていると思っていたんですが、考えてみたら、このブログを観てくださる方は、別に疫学に興味がある人(きっとホメオパシー問題についても知っている)ばかりじゃなく、むしろ、PTA関連だったり、生き物関連だったり、作品情報だったりに興味を持っている人も多いわけですよね。

そういうわけで。

で、ホメオパシーは、いわゆる代替療法です。
プラセボ以上の効果はないという疫学証拠があり、つまりは、効かないって分かっています。


でも、人間が元来持っている治癒力を引き出すという触れ込みからか、自然派なかんじの人達にウケがよくて、この前の非実在青少年条例で主要なアクター(アクトレス)だった、「バースコーディネーター」の大葉ななこ氏など、「今や21世紀育児の3種の神器のひとつ」とまで持ち上げております。

でも、実際は効かない。
プラセボ以上の効果がないということは、逆に害もないということで、別に目くじらたてることないじゃん、という考えもあり得るのですが、ホメオパシーの場合、それを信じるあまり、本来通常医療を受けるべきときに、通常医療から遠ざかるような仕組みが内蔵されているのが困りものなんです。

たとえば、好転反応という概念。
効かないレメディ(ホメオパシーのクスリですが、薬事法的にはクスリではないです。でも、クスリのように投与されます)を摂取して、症状が悪化しても、それは治癒力が高まって悪いものを排除している証拠だから、むしろよいことだ、捉えるわけですよ。

これが、ほうっておいても「自然な治癒力」で快癒する風邪くらいならともかく、がんだったりすると、目も当てられないわけで……。
実際に、命にかかわる重たい病気なのに、ホメオパシーにたよるあまり、さんざん苦しんだあげく(好転反応ですからね)、亡くなる方というのはいるようです。その際、ホメオパス(施術者)からあたかもマインドコントロールされるかのような形で、通常期医療を拒否する場合もあるようなのです。

今回ホメオパシー問題が一気に吹き出したのは、昨年、山口県の助産院で、新生児に当然投与すべきビタミンKをあたえず、レメディで代用した結果、乳児がビタミンK欠乏性出血症で亡くなったのがきっかけです。この場合、親の同意もなく、助産師がそのような処置をとったわけですが、親自身がホメオパシーの信奉者だったりすると、子どもが通常の医療を受けるべき時に受けられず、いわゆる医療ネグレクトの状態になることもありそうです。

以上、簡単な問題提起というか、「こいういことがいまあるよ」という話。知っている人は知っているけれど、まだ知らなかったという人が、たまたまここを通った時のために書いておきました。
というわけで、深入りせずに、あとはリンクを張ります。

今回がんばっている朝日新聞の記事。入門編ということで。
http://www.asahi.com/health/feature/homeopathy.html

そして、メインの記者、長野剛氏によるブログ。
https://aspara.asahi.com/blog/kochiraapital/entry/kNKQFuNbTK

さらに、悪性リンパ腫なのに通常医療を受けずに亡くなった女性についての経緯。ホメオパスと女性とのメールやりとりを読んでいるとクラクラしてきます。強烈に切なくも哀しくなります。
http://www012.upp.so-net.ne.jp/mackboxy/Health/summary.pdf

ひるがえって「ホメオパシー側」ですが、関連諸団体が、朝日新聞などの報道に対して反論を試みています。いずれも、自らに非がないことや、前述の「内蔵された問題性」から論点をずらすのに必死になっているように読めます。少なくともぼくには。
http://www.jphma.org/
http://www.nihon-homeopathy.net/
http://www.homoeopathy.co.jp/index.html

特に最後のサイトにあるこちらの記事など、
http://jphma.org/About_homoe/jphmh_answer_20100817.html
記者とのファクスのやりとりをすべて公開した上で、質問への回答はやはり論点ずらし系の対応。あるいは最初から立脚点があまりに違うので、議論が成立しない、てなかんじです。

「日本国民がホメオパシーの恩恵に与る機会を失わせるような記事が世に出るとしたら、それは大変残念」とまで書かれていますが、ぼくはその恩恵はいりません。
むしろ、今もすでに起きている害をなんとかしてほしいです。

とりいそぎ、書きました。
みなさんの参考までに。

やはり、参考書はこれですかね。
代替医療のトリック代替医療のトリック
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2010-01


もし、あなたが疫学探偵だったら(自殺マニュアルの影響をどう評価するか)

2010-04-05 14:31:52 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
有害図書と青少年問題有害図書と青少年問題
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2002-11-18
この本に書かれているところによると、130万部のベストセラーとなった「完全自殺マニュアル」を参考にして自殺した人が少なくとも2人おり、警視庁では、「自殺マニュアル」が自殺を後押しするかもしれないことを憂慮して、都に有害図書指定を迫ったとのこと。

さて、もしもあなたが警視庁から頼まれて、果たして「マニュアル」が自殺を助長しているかどうか結論を出さなければならないとします。

2人出ているのだから影響があるのだとすぐに判断したのが、その時の警視庁の判断だけれど、もっと冷静に客観的に、考えるにはどうするか。

そのためには、感染症で多用される疫学の考えが一番馴染みやすいです。というか、たぶん、これしかない。
「自殺マニュアル」をウイルスなりなんなりに見立てて、自殺マニュアルへの曝露(購入・ないしは読んだ)、非曝露(購入せず、また、読んでいない)という概念をまず持ち出します。

最初にすることは、2人以外の自殺者でどれだけが、自殺マニュアルに曝露していたか、非曝露だったかを突き止めること。

アクセス可能な情報源で、これをするとよいわけです。警視庁だから、東京都内での自殺を調べてもらいましょう。期間は、当然、「自殺マニュアル」が出た後ですね。それから、○年間などと決めるといいでしょう。

おそらく、2人というのは最初に出てきた「氷山の一角」。さがせば、たぶんもっと出てきます。
20人になるかもしれないし、200人かもしれないし、その辺はよく分かりません。やってみないとね。これをすると、同時に「曝露して自殺した人」と「曝露していなくて自殺した人」の数が分かりますね。

で、次に必要になるのは、対照群です。
自殺した人を、これまで見てきたわけなので、今度必要なのは、自殺しなかった人の群です。

年齢構成などを似た人たちをランダムに選んできてもいいし、こと、大学生の自殺とかに話を限りたいなら、どこかの大学の学生さんに対照群になってもらい、自殺していない彼ら彼女らの曝露・非曝露を調べたりします。

これで、「曝露して自殺しなかった人」と「曝露しなくて、自殺しなかった人」が分かります。

で、ここまで来て、やっとオッズ比を求めることができると。

これについては、以前、「仕出し弁当と食中毒」というテーマでこんなの書いていますので参考に。

http://blog.goo.ne.jp/kwbthrt/d/20061108

しかし、注意しなければならないのは、オッズ比が高くでて、有意に「相関あり」となった場合でも、ただちに、「自殺マニュアルは自殺を助長する」とはいえないこと。

当然考えなければならないの交絡要因など。
ひたすら本ばかり読んでいる超読書家であるとか、鬱で常に死について考えているとか、「自殺マニュアル」を手に取りやすい別の理由で、なおかつ、自殺の直接要因にもなりうる要素・属性(交絡要因候補)だってあるわけです。まあ、超読書家が自殺しやすいかどうかは知りませんが。

また、家庭状況、交友関係、恋愛関係、ゲーム脳かどうか(冗談ですからね)、とか、いろいろ要素も、自殺と関係するかもしれないですよね。これらは他の原因候補と考えられます(交絡要因候補にもなりうるかもしれません)。

だからこういったことについても、それぞれ、曝露・非曝露、発症・非発症(自殺・非自殺)を求めて、どれだけの影響があるのか調べていきます。たとえば、「幼児期に児童虐待に曝露」とか、「3ヵ月以内に失恋に曝露」とか。まあ、冗談みたいですけど、出来る範囲で。

何が言いたいかというと、人間という複雑な存在が、自ら死を選ぶという行為にいたるプロセスは当然複雑であろうと想定されるし、もしも、「自殺マニュアル」が自殺を助長していたとしても、それは「これが唯一無二の原因でそうなる」というのではないということです。
疫学の方法では、「何%の寄与」とか、「何%、数を押し上げる」といった表現で語ることになります。

ウラを返すと、「自殺マニュアル」が人の目に触れなければ、自殺はこれくらい抑止できる、という証拠(エビデンス)なら、得られる可能性はあるわけです。

まあ、そんな作業をして、「自殺マニュアルさえなければ、抑止効果大」ということになったら、都に指定要請を出すだけの強い理由になるのかなあ、と。

実際には、こういうのをすっとばして、「曝露した人が2人自殺した。これはまずい」というだけで、「悪書」としてやり玉にあがったわけで、それはいかんだろうというのは、まあそうでしょう。

人を自殺に追い込む様々なストレスやら、それを引き起こす社会に目を向けずに、スケープゴートにされちゃったという面もあるわけでしょうね。

その場での判断の難しさは、今となっては想像するしかないのだけれど。

以上、自分が書いたことが(前のエントリ)、割とツイッターなんかで、短絡的に捉えられている部分もあり、注釈めいたものを書いてみました、ということで。

非実在条例のことに興味がある、というだけの人にとっては、本質的なことではないかもしれないけれど、この際、どういう「証拠」が、信頼に足るのか、という部分で、疫学というのが非常に重要だと伝わればいいなあという思いも込めて。

推薦できる本としては、
市民のための疫学入門―医学ニュースから環境裁判まで市民のための疫学入門―医学ニュースから環境裁判まで
価格:¥ 2,520(税込)
発売日:2003-10


また、この本の後半にも、刑法犯の量刑や処遇によって再犯率がとをなるかについての疫学研究が紹介されていたと記憶します。
犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書)犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書)
価格:¥ 777(税込)
発売日:2006-12-13


たばこにまつわる話題(公立学校禁煙マップや「ニコチアナ」のゼロなど)

2010-03-18 12:12:44 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
Kinnenトゥイッターでおしえていただいた、「全国公立学校禁煙マップ」。「厚生労働科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業) の補助を受け、日本の全ての子どもが、学校での受動喫煙による健康被害から守られるた めのモニタリング(監視)を目的として作られました」とのことで、全国の公立小中学校の中での敷地内禁煙割合を調べている。

都道府県別の違いもすごいけれど(静岡や和歌山では100%達成。でも、高知25%、熊本18%)、我が東京都の23区内の違いもすごい。港、世田谷、文京などで100%なのに、渋谷、中央などで10%以下)。結局、教育委員会の取り組みいかんということか。

さらに、JTからの無煙タバコのお知らせ。

「ゼロスタイル」という名前で、とりあえずミント味だそうです。

無煙たばこの一つである「かぎたばこ」です。“火を使わず煙が出ない”という製品特徴から、周囲の方に迷惑をかけることなく、また様々な場所で楽しんでいただける、まったく新しいスタイルの無煙たばこです。「ゼロスタイル・ミント」を新たな選択肢としてご提供することにより、お客様のたばこを楽しむシーンが広がるものと考えています。

というのがJTの口上。
「たばこを楽しむシーン」というのは、たとえば、禁煙の会議中に「煙を出さずに」楽しめる、というようなことだろうか。

また「古くからたばこの楽しみ方は様々」として、

古くからたばこには“煙を吸う”だけではなく、“火を使わず無煙で嗅ぐ・噛む”といった多様なスタイルがあり、「紙巻たばこ」と共に、「かぎたばこ」や「かみたばこ」のような無煙たばこも世界中の様々な場所で楽しまれています。また、日本の多くのお客様は「紙巻たばこ」を楽しまれていますが、味・香りの品質向上のみならず、近年は周囲のたばこを吸われない方などに配慮した商品の開発も望まれています。

と述べているのだけれど、なんだか、「ニコチアナ」を強烈に想起する。
この作品で、登場させた無煙タバコも「ゼロ」だった。
ニコチアナ (角川文庫)ニコチアナ (角川文庫)
価格:¥ 780(税込)
発売日:2008-08-25


ちなみに、「ゼロ」と「ゼロスタイル」の違いは、「ゼロ」はニコチンを吸入できるような工夫がしてあることで、「ゼロスタイル」は、葉っぱをつめるだけで、とくにニコチンが遊離してるくような雰囲気がなさそうなこと。

依存性がなく、香りだけを楽しめるのだとしたら、いいですね。



芹沢一也さんブログで「PTA進化論」連載開始

2009-06-18 16:07:59 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
http://synodos.livedoor.biz/archives/794317.html

こちらです。
芹沢さんのコメントをつけつつ、何話かまとめてブロックごとの紹介をしてくださるよう。

心強いです。芹沢さんの「読者」さんたちが、どんなふうに読んでくれるのか。

ちなみに、芹沢さんの本は、こいつをさんざん紹介してきましたが、
犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書)犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書)
価格:¥ 777(税込)
発売日:2006-12-13


でも、最近では、こちらが大いに話題になっています。
革命待望!―1968年がくれる未来革命待望!―1968年がくれる未来
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-04



おしぼりやウェットテッシュ(紙おしぼり)で手を拭いた後、口を拭いていませんか?

2009-05-18 20:57:41 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
R0010761小ネタです。こんな時勢なので、書いておきます。
前から気になっていたのだけれど、レストランや喫茶店で出される紙おしぼり、あるいは、布おしぼり。
食事前にわざわざ石けんと流水で手洗いすることなく、出されたもので手を拭いておしまいってこと、多いですよね。
飲食店では手洗い場とトイレが分離していないところもままあるし、それはそれでよいとして、気になっているのが……つい、そのおしぼりで、口を拭いてしまうことがあること。

かつて自分自身よくそうしていて、ある時、子どもの口を拭いているときに(かなり小さかった頃ですが)、ふと気づいたです。
これって、せっかく手を拭いて、手指をきれいにしたのに、手指についている雑菌をわざわざ口になすりつけているみたいなもんだなあ、と。

一応、紙おしぼりにはアルコールなど、殺菌成分は配合されているみたい。「すべて」かどうかはわかりませんが。
http://www.jhpia.or.jp/product/papertowel/papertowel3_p2.html
しかし、きちんと殺菌を期待できるだけの量なのか分からないし、アルコールの殺菌作用って、蒸発して乾燥するときに発揮されるものだと認識しているので【注・この認識はどうも間違いぽいです。コメント欄参照】、そのまま口になすりつけて唾液とともに体に入ってしまうと、容易になにかの感染ルートになりうるなあ、と感じるのです。

ましてや、ただ湿らせただけの布おしぼりだったら……。

いかがでしょ。

インフルエンザは通常飛沫感染だと言われますが、「手指についたものが口に入る」のも有力な感染の仕方だと言われています。ノロなんかも、このルートでばっちり行くことになっています。
だから手洗いが推奨されるのと同時に、日頃から唇を指でいじらないとか、そういう生活習慣も大事かもしれません。

で、おしぼりに関しては、わりと普通に、みなさん、手を拭いてから口も拭きます。
ぼくのまわりだけなのかもしれないけれど、「お上品」な人もワイルドな人も、あまり関係なくやってます。
それを見るたび、いいのかなあ、と思ってしまうんですよね。

ぼくはといえば、手を拭いたものは使わずに、乾燥した紙ナプキンなどで拭くようにしてますが、時々、それが常備されていないところもあって、その場合、手を拭いた裏側を使ってみたり(たぶん意味ないだろうなあと思いつつ)しております。

本当は、マイナプキンやマイウェットテッシュを持っているのがベストなんでしょうが。

ちょっとしたことだけど、注意できるならしといた方がよいのでは、というレベルで書き留めておきます。

バランスが悪い水際作戦と国内対応(追記しました)

2009-05-16 22:03:12 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
Img_1478写真はどんより乱層雲。センサーにゴミがついているのが、空を撮るとよく分かる。通常のセンサークリーニングではとれないし、しかし、手作業でやる気にもなさず、どうすりゃいいんでしょ。
****************

で、本題、日本の空港などで行われている現在の検疫で、新型インフルエンザの流行が防げるとは、当局も考えてはいない。むしろ「時間稼ぎ」と説明されてきた。
だいたい、潜伏期間が最大7日あるかもしれない感染症で、国際空港の「水際」だけで防御できるはずがない。
だから、

・検疫をすり抜けたヒトヒト感染によっての感染拡大が国内で確認されたら、厳しい全頭検査のごとき機内検疫を維持するための意義(感染者のほとんどを捕捉して感染拡大を遅らせようとしても、既に国内に火種だたくさん)がなくなる。
・さらに、ヒトヒト感染によって蔓延状態になったら、検疫よりも国内対応に焦点が移る。

無限のリソースがあるならやる意味があるかもしれないが、ここから先、万全の検疫に費やしいてた労力を、国内向きに振り向けないと。
時間稼ぎした分、準備は万端(のはずですよね、マスゾエさま)。




我々の日常の中にある病気のひとつとして新型インフルエンザをとらえ、時間稼ぎして集めた情報をもとに最適な態勢をとっていただきたいもの。
そして、その「最適」は、常に新しい情報のもとに、かわっていくことに留意。

最初は超ウルトラ級のパンデミックに発展するかもしれないと恐れられた(その可能性も否定できなかった)今回の新型について、情報がつみかさなることで、それこそ「確率密度関数の雲がはれる」ようになってきたわけで、それに応じて、従来のマニュアルを修正しなきゃって時期でもあるのだ。

そして、もっと時間がたったら、今回の検疫態勢が、はたして、「時間稼ぎ」に有効だったかどうかも検討してほしい。
発生国からの旅客機を「すべて」水準で、機内検疫した国はほとんどない中で、はたして、その労力は見合うものだったのか。

ひょっとすると、新型の影で、季節性インフルや、ほかの重篤な感染症、さらには何かのリスク群で、常に気を配らねばならない人たちへのケアが手薄になり、実際に人的被害が出ている可能性だってある。
そのあたり、そろそろ(いや、ちょっと前から)心配する時期にきているんじゃないか。
*****************

追記です。
にしうらさんが、最初のほとんどhate攻撃ですかってくらいな書き込みのあと、コメント欄にあるような真意を述べてくださる新しい書き込みをいただきました。
その一部を抜粋。

今回のような流行で新聞誌上とかの1次情報を流したい報道がパニっている感は否めませんが,できる限りの事実を流すための努力をしているように思われます.最も今回に個人的に問題視している日本での対象は,ニセ専門家(ウイルス学者と感染症の理屈をわかっていない公衆衛生・疫学者)と自由なライターであって,特に自由ライターでは,ジャーナリストと川端さんのようなパターンだと感じています.例えば,不要に「マイッタ」だとか「あらー」とだけでも書かれるのは,本心であろうとも単純に煽りになる気がしてなりません.筆は凶器ともなり得ることを最も理解していらっしゃる立場にある作家ならば,正しい情報の解釈を適切な知識に基づいて行うことを心掛けられることが必要に思います.研究レベルまで理解していなくとも,政府や国際機関のStatementのミスリーディングな細部くらいまでは見抜くことができるくらいのレベルで色々と書くことができると良いのではなかろうか,と.少なくとも,あなたならそれができるのではないかと思った次第です.


ご指摘もっともな部分があって、ぼくは今回のインフルエンザがらみのエントリを書く際に、自分の持てる力と使いうる時間の10分の1も使っていません。
「仕事」としても、いっさい、かかわっていないし(編集者がいるようなメディアに書いていない)、新聞テレビからの取材も受けていません。
というわけで、「できる水準までやっていない」ことは大いに認めざるを得ません。
それでも、関連する作品を書いたことがあるが故に、準専門家のように見てくれる「読者」がいるのも事実でしょう。
筆は凶器になるという件、最近いかに、自分の筆の力が「届かない」かということについて失望することが多く、あらためて指摘されますと、はっと身の引き締まる思いです。

それよりもなによりも、自分がこの事態にどのように相対そうとしているのか、という点で、にしうらさんに揺らぎを指摘された気がいたします。
目下、自分にとってトッププライオリティではないわけです。
それを、つまみ食い的に書いているとんじゃないか、と。

なら、たしかに、偉そうなこと言えません。
本当にこのエントリを書いた最初のところにある認識は、一時顕著だった「検疫万能」な閣僚の発言や、限界にきていると言われる空港検疫の現場の報道やら、感染症情報センターでのブリーフィングやらなわけで、そこから突っ込んで取材してませんから。
にしうらさんが「逆立ちしても合意できない」という部分を、空港検疫をぎりぎりまで最大規模で維持すべし、というふうに読むとすると、「なぜ?」と思いつつ(今回の新型インフルのみの被害を最小限にすることを社会の最大目標にすえるなら別ですが)、自分がその「なぜ」を深めていく状況にないことを白状いたします。

その点、肝に銘じつつ、今後、トッププライオリティの問題になったとき(遠からずそうなる気がします)のために、情報のキャッチアップ的メモは書いていこうかと思っているところです。



NEMJやLancet

2009-05-14 07:24:36 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
R0010716新型インフルエンザにかんする信頼できる情報ソースはできるたけ一次情報をあたるべしと思うので、日本語なら感染症情報センターのページってことなるだろうし、アメリカのCDCのページは非常に充実している。登録すると新着情報もメールしてくれる。

そんな中で、疫学の専門誌も、インフルエンザ特集のウェブページを持つようになってきているよう。

Lancetは、こちら。
http://www.thelancet.com/H1N1-flu

New England Medical Journalはこちら。
http://h1n1.nejm.org/

過去のパンデミックの流行曲線(みたいなもの)を検証して今後にそなえようという主旨の論文がフルで読める。
http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMp0903906
PDF版は右上のリンクから。





結局、どれくらい重症化するの?Natureのニュースより

2009-05-08 22:21:23 | 喫煙問題、疫学など……ざっくり医療分野
R0010709こちらで/a>分かるように、アメリカでは、フィード疫学者の活躍で、「ある程度」のことが分かってきている模様。
ネイチャーニュースの表題は、「今回のインフルは、どれだけ重症化するか」というもので、最新の「成果」を語ってくれる。


R0(一人の感染者がどれだけの人数に感染させうるか)は、1.4あたり。季節性のインフルエンザが、1.5から3。1918パンデミックは「4以下」と推定されているのだけれ、いずれにしても、今回の「新型」はマイルドめ。

また、世代間隔、つまり、感染した人の感染性期間が始まるまでの日数が3-5日といったあたり。

十分に通常のインフルとして、当たり前の範囲内。

もっとも、1918パンデミックがそうだったように、どこかでいきなり強毒性を獲得する可能性はないわけではなく、警戒は必要、とのこと。