さてさて、このような本が出ました。
国立・精神医療研究センターの三島和夫さんとの共著です。
90年代から画期的な進歩を遂げている睡眠の科学について、ぼくが話を伺う形でまとめてあります。
もとはと言えば、ナショナルジオグラフィック日本語版のWEBサイトで毎月連載している研究室訪問(http://nationalgeographic.jp/nng/web/laboratory.shtml)で、三島さんに話を伺ったのがきっかけ。
それが面白い、面白い!
睡眠については不思議がたくさんあって興味津々な人も多いのだけれど、驚かされたのは、今、分かっていること(睡眠の科学としてコンセンサスを得られていること)でも、あまり一般には届いていないということ。
ということで、追加でまたお話を伺ったりするうちに、本になることなったとさ、です。
例えば、どんなことが「届いていない」かというと……
人間に必要な睡眠は8時間という俗説が、間違いであるどころか、かなり有害だということ。
ぼくが三島さんとはじめて話した時点では、あちこちの医療系解説サイトで、そう書かれていたし、今もまだ結構あるみたい。
三島さんが憤っていたのは、実は、眠る時間は年齢差、さらに個人差があり、8時間きっちり眠れるのはせいぜい十代前半までということがとっくに分かっているのに、「8時間眠れない」ことを気に病んで、逆に不眠になってしまう人(特に高齢者)が続出するなど、悪影響があるのですね。
人間の体内時計の周期が25時間だという説も、否定されて10年以上たつ古い説なのに、もうそこかしこに溢れていて、生物学系の国立研究所のサイトで、バリバリの研究者が「なぜ25時間なのか」と古い説に基づく解説記事を書いていたり、なにか睡眠学の外側に「伝わっていない感」がありありなのでした。(その後、まもなく、研究者による「25時間解説記事」は消えた)。
というわけで、この本の中の「新常識」は、例えば、たったひとつの研究で示唆された「その可能性があるね」というレベルの議論ではなくて、研究が積み重なり、コンセンサスが得られているものです。
それでも、一般には余り知られていなくて、どうかそれを知って欲しい。というのが、ひとつのポイント。
それによって、自分自身の睡眠の改善にも役立つし(個人的にはすごく役だったし、編集者もすごく役だった。これは、N=2ですww)、社会問題としての睡眠問題というものにも気づくことができるし、ということは公衆衛生問題、労働問題(シフトワークなど)にも繋がっていくわけです。
睡眠にまつわる類書は、いろいろあるものの、たぶんこの本の特徴は下記のようなかんじ。
・知識として、センスオブワンダーを感じられる、というか、著者(川端)がセンスオブワンダーを感じたことを強調して書いている。
・睡眠の科学が最近明らかにしたことで、ベーシックなことを紹介している。コンセンサスが得られていて、著者の立場に引き寄せた解釈はあまりない(あっても、分かるように書かれている)。
・個人の睡眠を改善するための背景知識が得られる。直接的な「ライフハック」指向の書籍とは違い、むしろ「万人に通じる正解なし」の立場だから、自分で工夫する背景知識重視。
・医療が必要なケースとして、認知行動療法についての紹介を分厚くしている。
・社会の中での睡眠問題という視点がある。
・子育ての中での睡眠問題という視点がある。
・ビズネスパーソン、「仕事を持つ女性」、学生、高齢者にとっての睡眠という視点がある。
・経営者、読んでおいたほうがいいぞ!
羅列するとキリないですが、そんな特徴を持つ本です。
ざっと、見た限り、類書に見えるものの中に類書なし、という感覚は抱いています。
是非是非、お手にとってご覧下さいませ。
なお、表紙の帯を脱がせると……こんなものが出てきます。
これを、「雲から飛びおりようとするペンギン」と見る人がすでに発生しており、ぼくも編集者も「公認」の立場です(笑)。
言われてみると、そう見えてならない……。