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「科学と疑似科学の哲学」の伊勢田さんの著書故、気合いを入れて読み始めたら、実に骨がある!
ぼくは、途中で流した部分もあるけど、得るところは多かった。
倫理学に興味があるけど、イマイチよく分からない人はぜひ食らいついてみてほしいし、ザ・コーヴでイルカ漁についてもやもやしている人などは、イルカ漁に反対する人たちの論理的なよりどころがいかに形成されてきたのか(あるいは、いかに、形成しそこなっているのかも)理解できるのでお奨めだ。
で、ぼくもまさに後者の方。
倫理学そのものより、ケモノ道の方に興味がある。
基礎編では、倫理学にはとりあえず、功利主義的なものと(ベンサム系)、義務論的なものとがある(カント系)ということをはっきり意識できたのは大きい。これまでも薄々、感じてはいたのだけれどね(笑)。その際に、価値が、そのものに内在するか、功利計算によって決められるのかという面での違いがあるというのも、まさに自分の問題意識に引きつけられるものだった。。
また、一見矛盾するふたつの流れをうまく折衷しようとする二層理論というのも興味深い。というのも、これは、我々が日常生活の中でおきていることだと思われるから。
我々は、ふだんは個々人の権利ベースでのルールの中で生きているけれど(義務論と親和的)、しかし、なにかコトがおきた時には、功利的な立場に立つこともある。感染症対策の現場などまさにそうだ。感染疑いの人の人権が一定期間サスペンドされることは、よくある話で、それは、その個人にはつらい体験だけれど、社会全体の安全はそれで保たれると期待される。
さらに、最近、ぼくはこういう図表をイルカがらみで紹介した。(これ内容自体は、「緑のマンハッタン」の執筆時に思いついて、講演なんかでは言ってきたことではあるのだが)。
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20100823/108270/
で、その際、自分は第一象限に軸足を置くなんてうそぶいてきた。だって、ぼく人間だもん、とか。
でも、伊勢田さんのこの本によれば、そういうのは、Why be moral?な立場といって、メタ倫理学の話になってしまうのだそうだ。なるほどね。
第二部、発展編では、動物実験、菜食主義、野生動物問題などを通して、さらに深く倫理学の森に入っていくのだが、基礎編で置いて行かれた人も、大丈夫。読める。
本論ではないけれど、キャリコットという学者が展開する議論に個人的に注目。
人間中心主義と動物解放論と生態系中心主義は相容れない三角関係であると述べられているのに対して、ぼくはさっき言及したデカルト座標的図表で考える方がもっと分かりやすい!と主張したくなったり(笑)。
だって動物解放論といっただけだと、こぼれおちてしまう動物の権利論と福利論との「あいだ」や、解放論とはあまりかさならない権利論や福利論の領域も扱えるから。
いずれにしても、様々な知的な発見がケモノ道にちりばめられていて、倫理学の見取り図をクリアに思い描くのには失敗しても(ぼくはロールズの当たりを流した、いかんやつです)、得るものは大。
伊勢田さんの、粘着するところは粘着しといて、しかし、手離れ・切り分けのさっくりした筆致は健在。
ザ・コーヴのこととか、動物園水族館のこととか、肉食菜食などについて問題意識を持っている人なら、間違いなくリコメンドできる内容です。
未読の人は、こちらもどうぞ。
ホメオパシー問題などで、「疑似科学」に興味を持った人なんから、まずこちらが先ですね。
![]() | 疑似科学と科学の哲学 価格:¥ 2,940(税込) 発売日:2002-12-10 |
追記
倫理学者って存在が、辞書的な意味で倫理的というわけではなく、普遍化可能性テストについて考えあぐねるうち、非常に邪悪な議論を展開することもあるというのは、そうじゃないかと思っていたけれと本当にそのようでもあって、ちょっと衝撃を受けた。
倫理学的に誠実で一貫した態度が社会的に鬼畜だったりすることはありえて、それを回避するために、多くの倫理学者たちはいろいろ考えをめぐらせているのだった。