地球温暖化については、警鐘を鳴らすメインストリーム科学者と、必ずしも温暖化専門家ではないサイエンティストからの批判が交錯し、なにがなにやらよくわからない、という人も多いのではないか。
ぼくも、それなりに本は読み、IPCCの第四次評価報告などにも目をとおしたりもしたけれど、それほどクリアに自分の意見を持てているわけではない。
だいたいのかんじでいうと、温暖化そのものに対してのリアリティは感じており(温暖化なんて嘘だ!派ではない)、しかしながら、炭酸ガスの寄与割合についてはイマイチ納得しておらず(人為の寄与レベルってどれくらいなんだろう?)、政策レベルでの削減目標についてはかなりネガティヴな印象を受けている。ましてや、温暖化をネタに原発推進なんてのは、やめてほしい……というかんじ。
本書は、こんなぼくに、確信を与えてくれる……というものではない。
そして、そのことが、この本のすばらしさの核心だ。
著者は、日本の気候モデル研究、温暖化予測研究の第一線で、IPCCの第四次評価報告にもかかわった研究者。
つまり、ばりばりの専門家。
本書で明らかされるのは、モデルを使ったコンピュータシミュレーションによる温暖化予測というのが、いかなる性質のもので、どんな前提で接するべきものか、ということ。
必ずつきまとう不確実性と、その不確実性の性質や、不確実性自体の測定についても語る。ぶっちゃけ、統計学マインドを持って数字をみれば、今の温暖化についての論争の半分くらいは、実は不毛なのではないか、と思えてくるのだった。
で、もう少し具体的に言うと、今の気候モデルできちんとモデルをつくって「計算で勝負」できるところと、メカニズムには立ち入らず、系にあたえる影響をパラメタとして組み込まざるを得ない部分があるというような話が、かなりわかりやすく書かれている。
よく批判派の人は、今の気候モデルは、雲をうまく扱えないと言うのだけれど、それは事実。
地球シミュレータでも、計算する格子は100キロ単位だから、雲のような数キロ数十キロの現象はモデルとしては組み込めない。にもかかわらず、太陽光線を反射し(冷却の効果)、なおかつ温室効果を持つ、複雑な雲の存在は、気候モデルにとってとても大事な要素。
結局、雲の影響を半経験的に見積もってパラメタとして扱って計算するしかないのだけれど、だからといって気候モデルは信頼ならないものになってしまうのかというと……必ずしもそうではないという話。適当に数字をいじくって、過去のデータにあうようにチューニングして、はい、気候モデルです、といふうに安易にはできない現実など、おもしろいです。
そして、本書のお題である、地球温暖化の予測は「正しい」か、という問いだけれど。著者の結論は、
前提条件が正しければ、不確かさの幅の中に現実が入るだろうという意味において、正しい。
というもの。
そして、前提条件について確かめつつ、不確かさの幅をせばめるのが、著者をはじめとした気候モデル研究者の仕事、というこになる。
政策レベルの話は、またここから先のこと。
IPCCの報告書も、政策の提言はしていない。
不確かさの中で判断をすることは、我々が日常生活の中でもごく普通にしていることだ。
けれど、ここにシミュレーションを核にした予測の科学があり、それを参照できるとする。
しかし、やはり、不確かさは多く、さいわないなことに、不確かさの幅はある程度わかっている。
そんな状況下、どんな判断を我々は下すのか。
著者は、
この人類史上重要な意味を持つ判断が、遅すぎることなく行われ、かつどさくさにまぎれて変な判断にならないことを祈るばかり
というのだけれど、ぼくもそう思う。