「出雲大社ほとほとの図」 (島根県出雲市大社町)
「ほとほと」とは、小正月には尊い神が人々に祝福を与えるために来訪するという信仰から興った行事で、正月14日の夜に顔を隠した若い人が各戸を尋ね、供物を受け取って帰るというもの。中国地方を中心に行われたようであるが現在では秋田の「なまはげ」の類似の行事として知られている。広重が出雲大社のほとほとの行事を描いたことは容易に想像つくが、実際にこのような行事があったかどうかは解っていない。女性たちがそれぞれ手に持っているのは家々で飾っていた注連飾りであろうか、小正月を祝う行事の華やいだ様子を伝えている。近景の杉と3人の女性がはっきりと描かれる一方、背後の松や杉、先を行く2人の女性や鳥居などが靄で霞んで描かれ、出雲大社の幽玄とした雰囲気を効果的に伝えている。