手技療法の寺子屋

手技療法の体系化を夢みる、くつぬぎ手技治療院院長のブログ

関節機能障害の表記について その3

2011-04-09 20:00:00 | 学生さん・研修中の方のために
≪前回からのつづき≫


脊柱のラインなど、局所ではなく広い範囲をとらえるとき、なぜ「制限」より「変位」で表現したほうが状態をイメージしやすいのか?


前回は、「T12に右側屈制限があって、そのまま胸椎は右へCカーブを描き、T1で左側屈制限がある」という例から、「制限」では全体をイメージしにくいとお話ししましたが、その理由を考えられたでしょうか。





全体の状態をイメージするとき、私たちは骨の位置を立体的にイメージします。


そのため制限で示すと、骨の位置が素直にイメージしにくくなるのです。



言葉ではいうと、ちょっとややこしいかもしれませんが、前回の例を下の図で表すと、対象となる椎骨の表記が脊柱カーブのラインに沿っていません。

T12右側屈制限 ‐ 胸椎は右Cカーブ ‐ T1左側屈制限


何だか、違和感がありませんか?





では、同じことを変位で表してみましょう。


「T12に左側屈変位があって、そのまま脊柱は右へCカーブを描き、T1で右側屈変位がある」





いかがでしょう?こちらのほうがイメージしやすかったのではないでしょうか。


変位で示すと下の図のように、脊柱のラインに沿った表現になっているので、制限と比較してイメージしやすいのです。

T12左側屈変位 ‐ 脊柱は右Cカーブ ‐ T1右側屈変位





この例は脊柱でしたが、四肢でも同じです。


「肩甲骨の下制制限と肘関節の伸展制限がある」というよりも、「肩甲骨の挙上変位と肘関節の屈曲変位がある」としたほうが、身体の状態を連続的変化としてイメージしやすいはずです。


関節の状態を「変位」で示すと、周囲の軟部組織の状態まで想像しやすくなります。


上の例なら、上部僧坊筋の緊張亢進・短縮と、下部僧坊筋の弱化・筋力低下、そして、上腕二頭筋の緊張亢進・短縮と、上腕三頭筋の弱化・筋力低下など。





このように、全体を捉えるときには、位置や状態を示している「変位」で表したほうがわかりやすのです。





全体をイメージした上で、個々の関節にアプローチするときには、変位と反対の制限の方向を見極めてアプローチするわけです。


変位と制限の使い分けについて、おわかりいただけたでしょうか。





ところで、ぜひ注意して覚えておいていただきたいことが、「機能障害」と表記されている場合です。


最近では「機能異常」という表し方もありますが、この場合、変位と制限の意味が文献によって異なっていることがあります。


そうなると前後の文脈から判断するしかありません。





このような混乱を生じないよう、手技療法の業界内で用語を統一しようという動きがあります。


最近の業界の流れでは、制限で表記する、もしくは機能障害の意味を制限の意味と同じにするという考え方が優勢になっているようです。


伝統的に変位で表記することが多かった、カイロプラクティックですら制限で示すことが増えてきているそうです。





混乱を避け、広く情報を共有するためには用語の統一というのは必要なので、やむを得ないことかもしれません。


ただ私としては、変位で表記することのメリットもあるわけですから、変位と制限の違いを明確に示して誤解の生じないようにし、使い分けたほうがよいようにも感じています。



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