「基本指圧」に憧れて ― 村岡曜子のブログ

我が国固有の指圧を広く浸透させ、社会の保健と福祉の増進に寄与したい。

「レッテルの有効期限」と題した藤原一枝先生の巻頭言

2010年12月05日 | 分類なし

 「発達教育」という月刊誌があります。発達にハンディキャップをもつ人たちの、さまざまな形での自立を促す活動を目的として発達協会(社団法人精神発達障害指導教育協会)がありますが、そこの機関誌の名前です。

 今回、発達教育12月号に、藤原QOL研究所代表・藤原一枝先生が巻頭言をお書きになり、私が二分脊椎症児童の排便改善に取り組んだことに触れておられますので、以下に紹介させていただきます。ことに「早く貼られた大きなレッテルで、才能を発揮できなかった例がほかにないことを願う」と書かれた末文には非常に感慨深いものがあります。

 

   ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

   巻頭言

 

  レテ ルの 有 効 期 限

 

   元・都立墨東病院脳神経外科医長 

  藤原QOL研究所代表          藤 原 一 枝

 

 

医師は診断して、患者さんに病名というレッテルを貼りますが、そのレッテルの有効期限を伝えてはいないことをご存知でしょうか。

 

○○さんの病気は名前を変えて、「病気の○○さん」となって、そのうち病気が○○さんの代名詞になっていたりします。そんな大きすぎる剥がしにくいレッテルは差別を生みますが、さらに怖いことは「本人の可能性まで奪ってしまう」ことです。

 

病名は、治療や今後に備える便宜的な、一時的な分類です。しかも小児の場合は発達途上ですから、本来持っている本人の力や環境因子でも、「変化する部分は大きい」のです。

 

たとえば、「しゃべれない」「落ち着きがない」「歩けない」「排尿排便に問題がある」など否定的な表現でレッテルは貼られますが、それぞれ時期が来ると、「コミュニケーションは取れる」「好きなことには集中する」「移動手段(杖や車椅子、時にはロボットの介助!)はある」「習慣付けや器具や薬でコントロールできる」と進化します。レッテルは小さく剥がしやすくし、見直したいものです。

 

脳神経外科で、生後まもなく手術する二分脊椎という病気があります。腰部の脊髄神経の一部に機能障害があって、足の変形を伴い、歩き出しても不安定歩行です。尿失禁、尿閉、便失禁、頑固な便秘なども伴いがちです。それぞれ、習慣付ける処置や薬や器具や手術があります。「異常があるのだから仕方が無い」と、医師たちの提供するものはリハビリを含め、停滞していました。

 

ところが平成21年の学会で発表されたのは、歩き方を変えるために「ナンバ式骨体操と指圧」に取り組んだ中学生男児が、安定歩行と同時に自立排便を獲得したという劇的な結果であり、誇らしいご当人の登場でした。

 

左右に大きく揺れるつま先優先の歩行を通学路で見かけた指圧師の「何とかしてあげたい。きっと良くなる。」という確信と報酬抜きの申し出に、家族も本人も熱心に応えた11ヵ月でした。効果は、足底を十分地に着ける重心の安定した歩行に早く現れました。頑固な便秘には、既に小学校2年から生理食塩水4リットルを使う洗腸が続いていました。お腹が動き出したとの指圧師の感触があり、プログラム4ヵ月後には硬便の失禁があり、次第に「長い便も出る、便意を感じる、腹圧をかけられる」となり、ついに自力排便になったのです。効果は体操や指圧を中止して2年経っても持続しています。

 

発想や熱意や持続力を讃えつつ、医者が損傷されていない成長する神経の機能を無視してきたことに思い至ります。二分脊椎の人に便意や腹圧を認識できる場合や時期があることを忘れていたのです。また、歩行にも自分の身体感覚を研ぎ澄ます古武術のようなアプローチがあることも示されたわけです。

 

そこで、浣腸を行なっている高校3年生の車椅子の男性に、この話を紹介すると、「春から一人暮らしをするので、是非チャレンジしたい」と3回指圧を受けました。すると、便意が出現し、便性も変わり、便秘がなくなりました。

 

これらは稀な例ではなく、指圧や体操が潜在能力を発掘したのだと思います。そんなわけで、早く貼られた大きなレッテルで、才能を発揮できなかった例がほかにないことを願う立場です。

 

  ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

ふじわら かずえ・医師(脳神経外科)。愛媛県出身。小児脳神経外科医として、おもに都立墨東病院に勤務し、平成11年から非常勤。最近は小児の高次脳機能障害の支援に関わっている。絵本に「雪のかえりみち」(岩崎書店)がある。

発達協会 月刊誌 「発達教育」 2010年12月号 巻頭言より

 

写真は月刊誌「発達教育」

 

  

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 魅せられたペーパークラフト... | トップ | 12月は「指圧の未来を確かな... »
最新の画像もっと見る

分類なし」カテゴリの最新記事