「基本指圧」に憧れて ― 村岡曜子のブログ

我が国固有の指圧を広く浸透させ、社会の保健と福祉の増進に寄与したい。

藤原一枝先生の愛情あふれる一冊、ぜひ読み聞かせたい絵本を紹介

2014年11月19日 | お知らせ

 絵本「ちょうかいちょうのキョウコちゃん」は、脳神経外科医の藤原一枝先生が、動物園で実際にあった、ニシキヘビのキョウコちゃんが便秘で苦しむ姿をとおして、教示しようとされたものです。運動不足は便秘の原因、体操も必要、それに加えてマッサージがとてもいいことを経験に基づいて書かれた、いわば「快調な腸」を保つための絵本です。

 先生は東京都立墨東病院で、長年にわたって脳神経外科医長として活躍。その間にホモ・ルーデンスの会を立ち上げ、1999年からは藤原QOL研究所を設立。高次脳機能障害の方の相談・支援を行っておられます。ご存知のようにQOL(クオリティ・オブ・ライフ)とは、人がどれだけ人間らしい生活をおくることができるか、その生活の質を考えるということです。医療でいう場合は、病気や障害を持ちながらどれだけの生活の質を保つことができるか、ということなのでしょうか。
 先生は医師であると同時に絵本作家、エッセイストとして活躍され、多数の著書があります。絵本「まほうの夏」は、夏休みにお母さんのいなかに行き、虫取り、海水浴、木のぼり…海釣り! 大自然のなかで思いっきり遊んだ、「ぼくと弟のまほうの夏」の想い出を描いた絵本です。英語、中国語、ハングル(朝鮮語の文字)、その他の外国語にも翻訳され、世界で親しまれているものです。

 私は指圧師をしていますが、ふとしたきっかけから二分脊椎症患者の「排泄障害」改善に取り組むようになりました。そのとき、ボランティアで施術を始めた少年の縁で先生にお目にかかり、勧められるまま学会発表(口演は藤原先生)もさせていただきました。
 ところが思いもかけず、私が脳出血で倒れるという事態になりました。夫の話では、緊急搬送された病院で「開頭手術」を言い渡されたたそうです。夫が先生に電話で相談したところ、錦糸町から川越の病院まで来てくださり、相談の上、東京警察病院への転院手続きまでしてくださいました。
 退院以来、私はこれも藤原先生の紹介で、某国立リハビリ病院で、言語聴覚士(ST)の方から失語症のリハビリを受けました。ところがある程度日時が経過して、回復の進展がそれほどはかばかしくなくなると打ち切りです。そのあと藤原先生のご厚意で、先生の研究所に隔週通い、音楽療法のリハビリを続けています。先生との出会いがなかったら、私が倒れた時に開頭されていたでしょうし、現在の自分はなかったかと思うと、いつも感謝しています。

 実は今回、週刊薬事新報に「ちょうかいちょうのキョウコちゃん」について、「週刊薬事新報に連載中の『今日のクスリは』の(141)(145)からすてきな絵本が生まれました!」として、編集室風栞舎の柏原怜子氏によるたいへん素晴らしい書評が掲載されました。
私の思いも伝えたいと思ったのですが、読むほどに実に立派な書評です。下手な私の文章を伝えるより、長くなりますがいっそ全文を紹介したいと考え、以下に引用させていただいた次第です。
    
     

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   ちょうかいちょうのキョウコちゃん


                        作:藤原一枝 絵:岩永 泉
                        定価:本体1,200円+税
                        発行:偕成社 2014年5月

いわゆる医療(医学)的科学絵本とでもいうべき作品は、そう珍しいものではない。中でも名作と言われるものには、マリー・ホール・エッツ女史(1893~1984年)の『赤ちゃんのはなし』(1939年)がある。人間の生命の誕生を、感動的に描いたもので、アメリカ医学協会の機関誌で激賞されたという絵本である。
マリーは結婚後まもなく夫を病で失い、30歳を過ぎて再婚した相手が医者であった。彼の医学的アドバイスを得て、受胎から出産までを正確に、リアルで美しい彼女の手による絵と共に生み出した作品である。
日本においても、加古里子の『人間』(1995年)など、このジャンルでの優れた絵本もある。しかし、やはり数としては少ないことは事実である。今でこそ、いろいろな意味での、いわゆる科学絵本というものは、種々、世に送り出されてきているが、全体としては決して多くはない。

さて、標題の絵本だが、作者は小児脳神経外科医として長年、現場の医療に関わってきた。もちろん自身が医者であるから「あとがき」にもあるように「子供の便秘をたくさんみてきた」わけである。しかも、作者は二人の息子の母親でもある。しかしこの2つの事実が揃っても、絵本が生まれるわけではない。
作者は、人並み外れて好奇心旺盛な女性で、しかも人間好き。かつ、動物好きでやさしい。だからこそ、静岡市の日本平動物園に2010年までいたというビルマニシキヘビの便秘の匂い(?)を嗅ぎつけて、電話をかけたのである。
なんと、この動物園では、体長2.5メートルもあるニシキヘビと子どもたちが触れ合うイベントをやっていたのだ。獣医さんや飼育員の人たちも、子供たちと動物とが触れ合い、たとえ大きなヘビとでも、仲良くなれることを願い、生きもの、生命についての共感や興味を抱いてくれればうれしいと考えていたのである。
子どものような心を持ち続けている作者は、早速共感し、そして、医者としての知識と母としての愛情を土台に、一冊の絵本に仕上げたわけである。もっとも、それは、便秘の苦しみならぬ、産みの苦しみを味わったうえでのことだそうだ。
ともかく、世の先入観や常識に囚われない自由な発想をする女性であるからこそ完成させ、出版にまで漕ぎつけることができたのであろう。

そもそも、子どもというのは、大人のつまらぬ常識の枠など、いとも簡単に跳び越えて、自由に飛び交う生きものである。そんなことは、母である作者は百も承知であったろう。
そして、もう一つ、作者はすでに「おばあちゃん」でもある。自身もきっと、自分のおばあちゃんが大好きで、大切に思っているだろうことがこの絵本から窺える。
絵本のもう一人の主人公、「ボク」は、自分が便秘をして困った時、「おばあちゃん」のあったかい手でマッサージしてもらったことを思い出す。
「ボクにまかせてよ」と言って、ニシキヘビのキョウコちゃんの長いおなかをそっと、押してやるのだ。
すると、ビー玉のようなウンチが1こ、次に野球ボールの大きさのが3こ、可愛い音を立てて出てきた。そして、とうとう「キョウコちゃんのからだが、ウーンとしなったかと思うと」、サッカーボールのようなウンチが、9こも出てきた。

読者は恐らく、いつのまにか、怖がっていた子どもも、眉をしかめていた大人も、ウンチの匂いも、ニシキヘビのぬるぬるも、すっかり忘れて、ほっとしたり、やった! と思ったりしているに違いない。
便秘の苦しみなど知らない子どもたちでも楽しくなる絵本。一見フラットな絵だがキョウコちゃんとウンチのボールたちに健康な暖色を使った絵の温もりや親しみやすさも、この絵本を活かしている一因だろう。なんと言っても、この絵本は、〈絵が語る〉のだ。
しかし、ここで終わらないのは、やはり、作者は医者である。ちゃんと、人間にも効き目のあるという便秘解消体操まで編み出して、ボクとキョウコちゃんとで実行するのだ。あくまでも、薬に頼り過ぎないようにというメッセージも忘れない。

毎日新聞の記事(2014年5月19日付け静岡東部版)によると、このキョウコちゃんは、せっかく便秘が治ったのに、2010年6月15日に「産みきれなかった卵を詰まらせて、6歳で死んだ」という。
何か切ない後日談だが、もしかすると、この絵本が生まれて、一番喜んでいるのはビルマ(ミャンマー)のジャングルに魂となって還ったキョウコちゃんかもしれない。元気な子どもたちに抱かれて、楽しく遊んだ動物園の時間を懐かしく思い出しているのではなかろうか。
いずれにせよ、優れた絵本は子どもにも大人にも愛される。どうやら、それは真実のようである。(編集室風栞舎 柏原怜子)


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