雑木林を切って杉を植えた。あれから50年。今日また杉の成長を妨げる雑木を切り払った。
しかし、杉を植える前のことを思い出していた。山栗が何本か生えていた。山栗はとても甘いのだ。どんくりもあった。栗、楢、泥の木、ほうの木、クヌギの木、もみじの木、知らない名前の木がいっぱいあった。それを全部切って杉を植えた。それらの木を薪にして売った。
山から薪を、背負子で運び出すときのことだった。薪を背負った背負子のまま、大きな石で一休みしているとき、すぐそばにリスが来た。見とれるような気高さだった。が、今、ふと考えると、雑木を切らないでくれと哀願していたのかもしれない。
次は杉を切ろう。そして山を雑木林に戻そう。リスが住める雑木林に。そう妹と話し合った。
ただ、杉は切っても売り物にはならない。杉の値段より、切り出して山から製材所まで運ぶ費用のほうが高いからだ。それなら、腹をくくって、杉を切ったその場所に大きなログハウスでも作るか。材料はタダだし、運ばなければ余計な費用はかからない、その山より上には人家はないから、水も山の湧き水が使える。安全だ。
などと、途方も無いことを考えつつ、仕事を終え、各駅停車を乗り継いで帰宅。妻が駅まで迎えに来てくれた。午後10:20分。