“氷姿雪魄”に背のびする……しろねこの日記

仕事の傍ら漢検1級に臨むうち、言葉の向こう側に見える様々な世界に思いを馳せるようになった日々を、徒然なるままに綴る日記。

本の紹介:『ラパチーニの娘』

2014-02-03 21:17:21 | 日記
今晩は。

漢字分野とは全く異なりますが(英米文学です、興味のある方はご覧になってください)、
検定が一段落着いたら、お正月に読んだ、恩師の翻訳書で、近年出版された、


『ラパチーニの娘 ナサニエル・ホーソーン短編集』
阿野文朗(あのふみお)[訳]
松柏社
\1700


について、簡単にご紹介したいと考えていました。
この本は、昨年、日本図書館協会の選定図書にもなっているそうです。


■収録作品■
・ウェイクフィールド
・痣
・ブルフロッグ夫人
・僕の親戚モリノー少佐
・若いグッドマン・ブラウン
・ラパチーニの娘


上記6篇は、『緋文字』(1850)のアメリカ作者である、
ナサニエル・ホーソーン(1804~1864)の手による短編です。
これらを翻訳された阿野先生は、ホーソーン研究を続けてこられ、アメリカで1996年に〈七破風の家〉ナサニエル=ホーソーン賞を受賞されています。
そのときにホーソーンの一族の方々に囲まれ、阿野先生が写っていらっしゃる集合写真を、私は拝見したことがあります。
素敵な人生だ、と思いました。
私は大学2年のときの一般教養の英語の講義で、じゃんけんで勝ち抜き、定員に収まり、阿野先生の講義を受けることができました。
「アンビバレンス」という言葉はこのときの講義で強く記憶に残る一語となり、人間の相反する感情の葛藤について、改めて考えさせられました。

話は戻りますが、簡単にあらすじをお話すると以下のとおりです。


・ウェイクフィールド

舞台:ロンドン
登場人物:
ウェイクフィールド
ウェイクフィールド夫人
ストーリー:
ウェイクフィールドはある日旅に出たまま帰らず、実はすぐ近所に住まいを借りて、そこから妻の様子を長年観察し続け、みんなが彼を死者と見なしたずっとあとになって、ある日なんでもなかったように帰宅する。
群衆の中の孤独や、個人と共同社会とのかかわりについてのお話。


・痣

これも舞台:ロンドン
登場人物:
エイルマー(卓越した科学者)
ジョージアナ(エイルマーの妻で、片頬に小さな手の形をした痣がある)
アミダナブ(エイルマーの助手で、科学のかの字も実は分かっていない。そしてこの人物が、すべての真理を物語っている)
ストーリー:
エイルマーは、美しい妻ジョージアナの頬の痣を欠点として憎み、自らの研究のすべてを注いで、痣を彼女の頬から取り除こうとする。
私はこの話からは、中国の混沌が、よかれと人間に七つの穴をあけられたとき、とうとう死んでしまった話をすぐに連想しました。


・ブルフロッグ夫人

登場人物:
呉服屋ブルフロッグ
ブルフロッグ夫人
御者
ストーリー:
ホーソーンのユーモラスな一面を紹介した作品。私はこの話でニヤリとしてしまいました。
新婚のフルブロッグ夫妻を乗せた馬車が、ハプニングで転倒した。するとそれまで、何とも愛らしく貞淑なフルブロッグ夫人が、…あらあらあらっ??!
これは夢か幻か………。
しかも、馬車に持ち込んでいたバスケットの傍らにあった新聞記事には、婚約不履行の裁判と、5千ドルの行方が……。


・モリノー少佐

舞台:アメリカ独立革命前夜のニューイングランド
登場人物:
若者ロビン(田舎町出身、モリノー少佐の親戚)
紳士(路上で遭遇)
ストーリー:
ロビンがはるばるモリノー少佐宅を訪ねるため、方々を探して歩き回る話。読んでいて一番疲れたが、一番文学的かもしれないです。
読み切ったときは、好きな作品になっていました。


・若いグッドマン・ブラウン

舞台:マサチューセッツのセイラム村農村地帯17世紀末セイラム魔女事件を下敷きにしている。
登場人物:
若者グッドマン・ブラウン
フェイス(グッドマンの若くて可愛い妻)

良識のある村人みんな
ストーリー:フェイスを愛するグッドマンは、妻をひとり自宅に残して、浮かない表情で、男と連れ立ち、会合に出掛ける。その会合に出席する人々とは……。
一部、『ローズマリーの赤ちゃん』っていう古い洋画を思い出します。


・ラパチーニの娘

舞台:イタリア
登場人物:
ラパチーニ博士(医師、学者)
ジョヴァンニ(パリオーニ先生を訪ねて、ラパチーニの家の庭に面するアパートに越してきた医学生)
ベアトリーチェ(ラパチーニの娘)
リザベック婆さん(アパートの管理人)
ピエトロ・パリオーニ先生(ジョヴァンニの父の友人で、医師、学者)
ストーリー:
アパートから見える庭には、ラパチーニと、世にも美しい娘がいたが、その娘ベアトリーチェに近寄って飛びかう羽虫は弱って死に、握られた花は萎れる……。そのわけは。そして、ジョヴァンニとベアトリーチェの悲劇は。
これはとっても絵になる美しいお話です。


全体的に、お話の枕、或いは、本題に入ってからも時々挿入される、ホーソーンの分析的な眼がまたおもしろく、思わず頷く場面も多いです。


以上、漢検とは無関係なようですが、読書がお好きでこのジャンルに抵抗の無い方、この拙いレビューで心動かされ方は、是非一度、お手にとってご覧くださいね!!