花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展」(4)

2005-03-21 02:09:49 | 展覧会
ラ・トゥールの生きた当時のロレーヌ地方は30年戦争の戦火にみまわれ、傷ついた人々、乞食などがごく普通に目に付く状態だったようです。盲目のヴィエル弾きが歌いながら物乞いをする姿を同時代の画家・版画家であるジャック・カロも版画に描いており、参考作品として展示されていました。

さて、ど素人感想の続きです(^^;

★『ヴェイエル弾き(「楽士たちの集い」の断片?)』(油彩、カンヴァス、85.5×58.5cm)ブリュッセル・ベルギー王立美術館
このヴィエル弾きは目が開いています。複数の楽師を描いた作品の断片のようで、後世の人が1枚の作品にするため背後を黒く塗りつぶし、更に目まで直してしまったようです。しかし、弦の切れたヴィエルや持つ手の描写はさすがに素晴らしく、特にヴィエルを描く絵具面の滑らかさは「夜の情景」に通じるような気がしました。
で、比較するのもなんですが、CARAVAGGIO「リュート奏者」(エルミタージュ&MET)のリュート写実描写の方がリアルだと思いました。贔屓目でしょうか?(^^;;

★ 『肩掛け袋を置いたヴィエル弾き(ラ・トゥールと工房作?)』(油彩、カンヴァス、161×98cm)ルミモン(仏)フリリー美術館
小石の上に足を乗せ調子を取るヴィエル弾きの調べと歌声が聞こえてきそうです。全体的なバランスがちょっと悪いような気もしますが、握り拳でコブシを回しているような描写に哀切感が漂います。ラ・トゥールと工房の合作説が有力のようですが、真作であるナント作品と並べて見たいと思いました。
ところで、モンセラート美術館にあるピカソの「年老いた漁師」にラ・トゥールのヴィエル弾きが似ているような気がしたのですが、ナント作品自体もムリーリョやリベーラ、スルバランと言ったスペイン人画家に帰属された経緯があるようです。
私自身も特にリベーラ的なリアルな人物描写を強く感じます。ナポリでCARAVAGGIO作品から触発され直接影響を受けただろうリベーラを考える時、ラ・トゥールも直接同じような触発を受けたのではないだろうかと思いました。リベーラはそのリアルさと精神性をスペイン人らしく直情的に鋭く追求して行きますが、ラ・トゥールは戦乱と疫病の襲うロレーヌという地方性の中で、そのリアルさを見据える写実志向からフランス的(ロレーヌ的)なシニカルさと内省的な絵画世界へと傾いて行ったのではないかと思われるのです。以上、ド素人のたわ言です(汗っ)

★『犬を連れたヴィエル弾き』(油彩、カンヴァス、186×120cm)ベルグ(仏)市立美術館
他のヴィエル弾きと違った筆致です。どちらかと言うと初期の作品「豆を食べる人々」の筆致に近いのではないでしょうか?同じような筆致を「金の支払い」に感じます。
さて、ヴィエル弾きが連れている上目使いの盲導犬がかわゆいのですよね!それゆえ、なお一層、足を踏ん張りながら歌い弾くヴィエル弾きの哀切さがひしひしと伝わって来ます。この作品の構図はかなり興味深いです。部屋の角を背後中央に、前方からの光を受け、ヴィエル弾きの影が彼の孤独感を映すとともに、俯瞰する画家の目線はヴィエル弾きの寄る辺のない立場の弱さを冷徹に見据えているような気がしました。必死に生きるヴィエル弾きの切なさが心打つ作品です。
ところで、離れて観たら、足元の犬や調子を取る踏み石の何気な色彩や形状が、全体の色調のリズムや構図を引き締めていることに驚きました。

今回も、独断と偏見の感想文でした(^^;;;