眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

たんぱく面接官

2021-06-16 12:52:00 | ナノノベル
 次は自分たちの番か……。ひやひやとしながら1年がすぎ、閉店を告げられたのが2週間前だった。長年勤めた職場は驚くほどあっけなく消え、苦楽を共にした仲間とは会食もなく縁が切れた。
 家のローンはまだ残っていたし、3匹の猫を養っていかなければならなかった。細かい条件など気にしている余裕はない。即戦力として望まれるところなら、どこにでも飛び込むつもりだった。


「納豆を混ぜ続ける仕事です。思っている以上に根気のいる仕事ですよ」
「根気だけは誰にも負けません」
(だけということはないが、根気が欲しけりゃこれくらい言っとくか)

「志望の動機を聞かせてもらえますか」
(ふん。むしゃくしゃしてね。コピペ野郎)
 そんなことしか聞くことないか。マニュアルで決まってるのか。とっとと終わらせることもできるだろうに。時間が重みを作るとでも? 無駄な2時間スペシャルにつき合わせるつもりか。ワイプに抜かれるできすぎた笑顔が、俺を不幸にすることを疑わないのかね。駆け足でまとめれば30分で終わるよ。

「何よりも納豆が好きだからです」
「そうなんですね」
(いや興味ないんかい)
 興味なんかないくせに聞くことばかり増やしやがる。そりゃ労働時間も減らないだろうさ。

「君の長所は何ですか? 何かスペシャルは?」
(はあ? 何でも横文字にすりゃいいと思ってないかこいつ)

「おもてなしの心意気です」
「おもてなしですか」
「はい。人によくして徐々に懐に入り込みます。上手く行けば人の心を完全にコントロールできます」
「そこまでいくとやりすぎだよ。いいかね、本当のおもてなしというものは、見返りなんか求めずに、ただ尽くすことじゃないかな」
(偉そうに。そんなことを言うだけの人格が備わってりゃいいけど)

「ふーん」
「まあ、その内に糸がつながってわかってくるさ」

「実際の作業現場だけど、1時間の内15分は休憩があります。それとは別に給水タイムがあります。何かあった時の交代は5人まで。どうですか、今までの話を聞いてみてできそうですか」
(ふん。できるかどうかではない。するかどうかだ)
 何かいっぱい話した体で言っているけど、実際はたいして何も話してはいない。俺にしても話すことなんて何もないのだけれど。面接なんて、全くふざけた風習だ。

「できると思います!」

「スパイクは持ってきてるね」
「えっ?」

「持ってきてないの? スパイク」

「ああ、はい」

「バカヤロー! 遊びじゃないんだぞ! 帰れー!」
(わー、なんじゃこいつ)
 面接官はスパイクがないと聞いて態度を豹変させた。
 こんな怖い人のいるところはこちらから願い下げだ。

「はい、さいなら~!」

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ファンタジー・チケット

2021-06-16 08:15:00 | 短い話、短い歌
 人の列は数えるほどで順調に流れてすぐに自分の番がきた。

「異世界行き1枚」
「すみません、もう一度」
「異世界……」

「そんなものはない。後ろを見なよ」
 急に声のトーンが変わった。

「えっ?」
 駅員に言われるまま振り向いた。

「食われちまうよ」

 僕の背後には無数のゾンビたちが列を成していた。さっきまではいなかったはずだ。僕が先頭に立ってからしばらくの間に、状況が作られたに違いない。

「本当にないんですか」

 背中に圧を受けながら食い下がった。彼は間違いなく人を見ていた。異世界行きの切符はあるのだ。

「お客さん理由はあるの?」

 駅員が口を開くと中から鋭く光る2本の牙が出てきた。
 ああ……。それ以上声が出なかった。尖った銀色の先を見つめている内、僕は身動きができなくなった。誰かが僕の肩の右に触れ、続いて左に触れた。




うたかたの読者になってさまよえばカクヨムは異世界の趣

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誰も見てないんちゃうかシンドローム

2021-06-15 19:12:00 | 短い話、短い歌
 昨日あんなに拾ったはずなのに。
 散乱した紙屑を見て私はため息をついた。

「さあ始めるぞ」

 吸い殻1つも見過ごすことはできない。最初は小さなところから始まって、だんだん大きなものへとエスカレートしていく。それが世の常だ。
 捨てることには2つの罪がある。1つ目は世話になったものに対する不義理だ。中身がある内はありがたく傍に置いていたものが、用が済んだ途端に自分から切り離してしまう。そこには感謝の念が欠けている。もう1つは好き勝手に捨ててしまうことでスペースを潰してしまうことだ。世界のスペースが無限にあるのなら、問題は少ない。しかし、現実のスペースは限られている。何かがそこに存在することは、それ以外のものの存在に干渉してしまう。無闇な廃棄を繰り返せば、スペースはあっという間に失われ、明日には歩く場所もなくなるだろう。

「全く困ったものだ」

 ポイ捨て衝動を引き起こすもの、その主な要因は『誰も見てないんちゃうかシンドローム』だ。元は若者に多く見受けられたものだが、最近では世代の枠を越えて蔓延しているようだ。それほど大人になりきれない老人が増えている。

「もう少し考えればいいのに」

「まあ地道にやっていくさ」

 空き缶、紙パック、古雑誌、右手袋、折れたストロー、ギターピック、サンダル、折れた傘……。
 無情に捨てられたものを見るのは誰にとっても気分のいいものではないだろう。1つ1つを拾い上げ街のスペースを回復していく私たちの仕事は根気がいる。好きでなければとても勤まらない。

「あれは……」
 何であれその正体を見定めてから手を伸ばすのが決め事だった。近づいてみると少し厚みがある。ハンカチではない。

「いつかのアベノマスクですね」
 こんなものまで……

「全く、命が惜しくないのか……」




不織布のガードをかけてがっちりとアベノマスクが口を封じる

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雨うた

2021-06-14 21:19:00 | 短い話、短い歌
 賑やかなほど疎ましくなる。明るいほどに虚しくなる。思いやりに満ちた助言も、愛を称えるメッセージも響かない。僕の内部の共感装置は壊れっぱなしだった。音が近づくように窓を開ける。雨粒まで部屋の中に入ってきたとしても構わない。(どうだっていい)無気力が突き当たりまで行くと心を広くする。雨音だけが意味もなく僕を許し、眠りへと導くことができる。遠い遠い昔から。




ぽつりつぶやく一言が歌になるアプリを持って歩く地下道
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ハエとりの将

2021-06-12 21:21:00 | 短い話、短い歌
 虫には善い虫と悪い虫がいる。善い虫は憧れの的となり描かれ歌われ、物語の主人公にもなる。悪い虫は憎悪の対象となり、叩かれたり撃退されたり、いなくならされたりする。あくまでそれは人間の都合によるもので、善悪は容易に入れ替わる。
 棋士たちが話し始めたのは部屋にハエが出たからだった。盤を挟んだ二人が声を出すのは、ほーとか、ひえーとか、通常はあまり意味のない言葉に限られる。特別な理由なく話し始めたとすれば、既に勝敗が決した時だ。ハエの出現は、1つの緊急事態に相当したのだ。室温の1℃、光の射し加減、座布団の厚さ……。長い一日を通して集中力を保つためには、繊細な環境設定が必要となる。ハエは、直接的に邪魔を働くわけではない。どちらか一方に肩入れして助言したり、駒を操作することはないが、集中を妨げる要素にはなる。たかがハエ1匹として見過ごすことはできない存在だった。恐らくは換気のために開いていた隙間から侵入したと推測された。

「とにかくこいつが……」

 矢倉の上を遠慮もなく飛び回る。地に足をつけぬ存在は、どんな大駒よりも厄介だ。

「昼休みに何とかしましょう」

 立会人は難しいハエ取りを任されることになった。




肌につく
夏の序章に
見え難き
筋を飛び交う
緊張の朝

(折句「ハナミズキ」短歌)

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ミックス・チャーハン

2021-06-11 20:11:00 | 短い話、短い歌
「我々は現実を直視する必要がある。数字を見ればそれは明らかです。打ち負かされた示しとしての撤退は、早ければ早い方がいい。一刻も早い撤退こそが、立ち直るために必要だ。金ではない。行動しなければ意味がありません」

「先生の自主的な研究成果の発表に対して、まずは拍手を送りたい。実に素晴らしいお考えだと思いました。いずれにしろ、我々は人類の夢と希望、冒険と友情、愛と絆、そういった様々な要素をミックスさせ、未来へと運んで行かなければなりません。そのためにできることを……」

「何かこのテレビ調子わるいわね」


「はい、ウーバー飯店です。金のチャーハン3、プロテインチャーハン2、安心チャーハン4。住所は、選手村、5丁目。毎度ありがとうございます!」


「そろそろ限界かしら、ねえおじいさん」

「おばあさん、そんなことより仕事仕事!」

「はいはい。始めますか」




人類の非難の中に袖を振る命をかけた貴族の遊戯
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【コラム・エッセイ】焼きそばパンを手に取って

2021-06-10 04:45:00 | フェイク・コラム
考えたところで
それほど届きはしない

根を詰めて考えるのは
とても面倒だ

それに
僕の考えることなど
似たり寄ったりだ

ならば考えるのをやめて
焼きそばパンを食べよう

どうして焼きそばパン?

別に何でもよかった
ホットドッグでも
ランチパックでも
よかったし
ドーナツでもよかったのだ

焼きそばパンは頑張ってる

焼きうどんパンよりも
ざるそばパンよりも
名が通っているし

焼き魚パンよりも
焼き飯パンよりも
出回っている

何でもいいのに焼きそばパン

本当はずっと
UFOを
カップ焼きそばを
食べたいのを我慢してた

だからちょっと
その反動なのかも

あまり
考えたって仕方ない

焼きそばパンを食べよう

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ラッキー・モーニング

2021-06-09 23:54:00 | 短い話、短い歌
 駅ナカの朝は激しい競争社会だ。無難な店づくりをしているだけでは、置いていかれる。斬新で人目を引くサービスがないと生き残ることは難しい。

「おめでとうございます!
 ラッキー・パンをお選びいただきました!」

 そうして私は特等席へと案内された。誰よりも高くゆったりとした席で、手厚いおもてなしを受けることになった。スープに玉子にウインナー、お供のわんちゃんまでついてきた。

「よろしければお読みください」
 週刊誌は好みではなかった。

「ナンバーとかあります?」
「ナンバーズでしたらございますが」
「それでもいいや」
「すぐお持ちします」
「それからこの子、散歩に連れて行ってあげて」
「かしこまりました」

 下を通る人が羨望を込めて私の席を見つめて行く。幸運はトングの行方次第。明日はあなたにだってチャンスがあるかも。

「サービスのギターソロでございます」

 凄腕のギタリストが冷めかけたコーヒーをもう一度沸騰させた。やはり朝はロックに限るな。

「痛くないですか?」

 心地よい指先が先入観に凝り固まった肩を優しくほぐしてくれる。これも私のたった1つの選択によって与えられた褒美だ。

「デザートの抹茶アイスでございます」
「ありがとう」
 まぶしい光を浴びながら私の朝は終わろうとしていた。

「それではこれを着てください」

「えっ? なんで」

「あなたは1日店長に就任されました」

「えーっ、聞いてないよ!」

「日当は40万となっております」

「よろしくお願いします!」
 1ヶ月でもいいけど……。

「コラーッ! 店長を呼べ!」

「下でお客様がお呼びです。1日店長」

「えーっ、私?」




人流の歪みに浮いたボーナスの元を辿ればみんなのがまん

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ドアマン

2021-06-07 11:24:00 | 忘れものがかり
それぞれのドアから
人々が出て行く

後ろ手に閉めたドアが
跳ね返って開く

誰も後を振り返りはしない
出た後の世界に興味などないのだ
自分のゴミを置いていく者もいる

開いたままのドアを1つ1つ
閉めていくのが僕たちの仕事だ

「立つ鳥跡を濁さず」

そんな言葉もあったと思うが

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普通にあるラーメン

2021-06-07 05:11:00 | 短い話、短い歌
「虫たちは光の下に集まってきます。けれども、私たちはそうではありません。自由研究は金を生むでしょうか。そうです。私たちに必要なもの、それは金の他にありません。安らかなものはすべて、夢も、希望も、金の下に集まってきます。テレビも人も車も、すべては金によって動きます。金にまみれ、金にひれ伏し、金に焦がれて踊るのです。私たちの汗も涙も金集めの道具に過ぎません。今まさに私たちの頭の中は金で埋め尽くされました。だけど、まだ足りません。もっともっと持ってきてください。一人一人が金の運び手となって、この国の中心に金を集中させてください。ブレーキは昭和の時代に壊れました。だから皆さんで一斉にアクセルを強く踏みましょう。潤わなければ何も始まりません。私たちは未来のために、命をかけて金を取りにいきます」

「はい、ラーメンお待たせ」

「どうも」

 ここのラーメンはこれと言って特長があるとは思えない。だけど、私は気がつくとよくこの場所に来ている。客はだいたい私を含めて2人か3人くらいのことが多い。何か落ち着く場所だ。私はこのテーブルが好きなのかもしれない。首の苦しげな扇風機がずっと回っている。スープを一口いただく。何か懐かしい味だ。ずっと昔に、どこかの商店街で口にした気がする。画面はそんなに美しくない。きっとブラウン管だ。

「続いてお天気情報です」

 できればなくならないでいてほしい。
 私は普通でいいと思う。そんなに長居するわけではないけれど。大将、どうか無理はしないで。




金のない暮らしの向こう祭典に群がる夏のゴールド・ラッシュ

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一夏のアルマゲドン

2021-06-06 10:56:00 | ナノノベル
 荒れ狂う夏が破壊者を降らせた。商業施設は化け物たちによって踏みつぶされ、学校、図書館、劇場等はすべて宇宙人たちに占拠されてしまった。地上にも地下にも安全と言える場所はどこにもなかった。

「もしかしてあそこなら……」

 微かな望みではあったがあきらめる前に試す価値はある。私たちは40人1組となり揃いのスーツで身を固めた。団長を先頭に立たせ『選手団』の旗を持たせた。
 迷いや自信のない素振りは疑いを招く。私たちは人類の代表であるかのように堂々と胸を張りゲートへと歩を進めた。スプレーで手を除菌し体温をクリアするとすんなりと受け入れられた。(何だこんなものか)それぞれに競技種目まで言えるように準備をしていたが、身分証の提示さえ必要なかった。

「どうせなら何か美味いものでも食べれたらいいな」

 安全な村の中に入って、私たちは急に楽観的な気分になった。
 人類を打ち負かすものは、ここにはいない。

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PKフォー・ザ・ディナー

2021-06-05 21:21:00 | ナノノベル
 立て続けに2人が失敗してPK戦は不穏な空気に包まれた。
 芝はめくれシューズは脱げ選手は転倒して気分が悪くなった。
「ボールを変えてくれ」
 とりあえず変えられるものはボールくらいのものだった。
 それでも流れは変わらなかった。気づけば10人も連続で外していた。蹴れば蹴るほどボールは大きく枠を越えて明後日の方向に飛んでいく。

「俺たちは悪くない」
 なぜならみんなプロ中のプロであるから。
 失敗を生む原因がこの環境のどこかにあるはずだった。ボールを変え、シューズを変え、みんなが顔色を変えた。しかし、結果だけがついてこない。いったいなぜ……。

「風向きを変えてくれないか?」
 キャプテンの提案により俺たちは主審にサイドを変更してもらった。芝の状態も向こうよりはいいようだ。さあ、これで結果が変わる。そう思われたが、次のキックからも失敗の連鎖は途切れることなく続いたのだった。

「誰かが決めないと終わらないぞ」
 俺たちは奇妙な自信喪失の中にいた。蹴っても蹴っても入らない。ある者はキーパーに優しくパスをするようだった。ある者は初めてボールに対したように上っ面を蹴った。誰一人プロ選手であるようには見えなかった。思い切った環境変化がなければ、この局面は変わりそうもなかった。しかし、俺たちにはもうこれ以上のアイデアは思い浮かばない。

 その時、主審は突然笛を吹いてPK戦を止めた。
 なんだなんだ、どうする。
「私はもう帰ってもいいかな」
 どうやらディナーの約束が入っているらしい。
 誰も主審に抗議することができなかった。
(誰がわるいのか。俺たちは少しナーバスになっていた)

「よーし。次で決めよう!」
 そうだ。それはとても簡単なことだ。
 次の一人だけ決めればこのゲームは終わる。

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ワイルドカード

2021-06-04 06:15:00 | ナノノベル
「まずは安全性に拘る専門的な声を小耳に挟み、最大限に規模を縮小するように努力した結果、多くの関係者の方々に望まれ催される平和の祭典は、1つの米粒の中に収めることができました。こうなってしまえば、見過ごすことも見て見ぬ振りをすることも容易で、いざとなれば呑み込んでしまえばいいんじゃないでしょうか。安心かどうかはそれぞれの心の問題です。いずれにしろ私から個別に説明することは差し控えたい。あとはもう神に祈るのみです。あらゆる試練、逆風、犠牲を乗り越えて、どうか秋には我々が勝てますように」

「はいチャーハンお待ち!」
 おーきたきた。
 私は週に一度はチャーハンを食べないとならないのだ。
 これにビールと餃子があれば最高なのだが、時代がそれを許さなかった。それにしてもオリンピックのニュースばかりで気が滅入る。それも半分コントみたいなもんだ。

「ねえ、大将。今日野球ないの?」
 大将はリモコンの先をテレビに向けた。
 画面はすぐにサッカーに切り替わった。

「代表戦か」
「何かやってますね」
 スタジアムを埋め尽くすはずのサポーターの姿は、今は見られない。選手の声がよく響く。

「何このユニフォーム? どっちも日本じゃない」

「普通はないカードですね」

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将棋の時間(折句/短歌ハナミズキ)

2021-06-03 06:04:00 | 短い話、短い歌
 思わぬところで敵の歩が突っかかってきた。このタイミングなのか……。それは読みにない手だった。素直に取るべきか。(取るにしても同歩か、同銀か)歩で取るのは自然だが、後の継ぎ歩は何よりも恐ろしい。銀で取るとコビンが開き気持ちが悪い。ここは手抜いて攻め合いか。(玉頭の歩を手抜く。私は正気だろうか?)

 それにしても応手が多すぎる。たくさん手があって正解が一つという時、人間は誤りやすい。(当然のことだろう)直感だけを頼ることはできない。読みの精度にも限界がある。だけど、少しでも最善に近づいていきたい。勝つこと(強くなること)を信じて読み耽る。それが私の本文だ。

「佐々木先生、残り3時間です」
 ああ、もう残り半分になった。




8筋の悩ましき歩をみつめては
過ぎ行く時は
金なり

(折句「ハナミズキ」短歌)

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【コラム・エッセイ】さよならテレビ

2021-06-03 01:52:00 | フェイク・コラム
 最近の若者はあまりテレビを見ずSNSで何かを発信することの方を好むらしい。中でも人気のジャンルは野球と詩歌だ。一度記事を書けば瞬く間に世界中のユーザーの目に留まり、無数の反応が得られるのだから百年前からは考えられない世界になった。それではここで1つ。

権力者突き進む打ち負けた道

 最近の家電の進化は凄まじく、ぼーっとテレビを見ていると画面の中からモンスターが飛び出してきて魂を吸い取られてしまう恐れがある。しかし、恐ろしいのはSNSの世界も同じ。今朝は海外からと思われるコメントが貼り付き、寝ぼけたまま得体の知れないリンクを踏んでしまった。それから5分もすると非通知で電話がかかってきた。
「私は機械である。有無を言わずアンケートに答えなさい」
 というようなことがあり、僕は恐ろしくなってすぐに電話を切った。テレビをつけると麒麟が出た。それでは最後の歌を聴いてください。

電話や一か八かで出るなかれ

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