次は自分たちの番か……。ひやひやとしながら1年がすぎ、閉店を告げられたのが2週間前だった。長年勤めた職場は驚くほどあっけなく消え、苦楽を共にした仲間とは会食もなく縁が切れた。
家のローンはまだ残っていたし、3匹の猫を養っていかなければならなかった。細かい条件など気にしている余裕はない。即戦力として望まれるところなら、どこにでも飛び込むつもりだった。
「納豆を混ぜ続ける仕事です。思っている以上に根気のいる仕事ですよ」
「根気だけは誰にも負けません」
(だけということはないが、根気が欲しけりゃこれくらい言っとくか)
「志望の動機を聞かせてもらえますか」
(ふん。むしゃくしゃしてね。コピペ野郎)
そんなことしか聞くことないか。マニュアルで決まってるのか。とっとと終わらせることもできるだろうに。時間が重みを作るとでも? 無駄な2時間スペシャルにつき合わせるつもりか。ワイプに抜かれるできすぎた笑顔が、俺を不幸にすることを疑わないのかね。駆け足でまとめれば30分で終わるよ。
「何よりも納豆が好きだからです」
「そうなんですね」
(いや興味ないんかい)
興味なんかないくせに聞くことばかり増やしやがる。そりゃ労働時間も減らないだろうさ。
「君の長所は何ですか? 何かスペシャルは?」
(はあ? 何でも横文字にすりゃいいと思ってないかこいつ)
「おもてなしの心意気です」
「おもてなしですか」
「はい。人によくして徐々に懐に入り込みます。上手く行けば人の心を完全にコントロールできます」
「そこまでいくとやりすぎだよ。いいかね、本当のおもてなしというものは、見返りなんか求めずに、ただ尽くすことじゃないかな」
(偉そうに。そんなことを言うだけの人格が備わってりゃいいけど)
「ふーん」
「まあ、その内に糸がつながってわかってくるさ」
「実際の作業現場だけど、1時間の内15分は休憩があります。それとは別に給水タイムがあります。何かあった時の交代は5人まで。どうですか、今までの話を聞いてみてできそうですか」
(ふん。できるかどうかではない。するかどうかだ)
何かいっぱい話した体で言っているけど、実際はたいして何も話してはいない。俺にしても話すことなんて何もないのだけれど。面接なんて、全くふざけた風習だ。
「できると思います!」
「スパイクは持ってきてるね」
「えっ?」
「持ってきてないの? スパイク」
「ああ、はい」
「バカヤロー! 遊びじゃないんだぞ! 帰れー!」
(わー、なんじゃこいつ)
面接官はスパイクがないと聞いて態度を豹変させた。
こんな怖い人のいるところはこちらから願い下げだ。
「はい、さいなら~!」