眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

仮装マンション

2020-01-10 09:11:00 | 夢追い
 3日振りに帰ってきた。
 エントランスを抜けてしばらく行くと通路は記憶よりも長かった。エレベーターが3つに増えている。ボタンを押すとすぐに下りてきて扉が開いた。10人は乗れるほど広い。すぐに7階に着いた。乗り込んでくるスーツの男に無言でおじぎをした。特に反応はなかった。区役所に来たようにざわついている。何か様子がおかしい。705号室の入り口はどこにもない。

不良少年課、交通トラブル課……。なんだ? ここは警察か? きょろきょろしているとちょうど孤独な部署に腰掛けて彫刻を掘る社員の姿が目に入った。売り出し中の若手芸人のように素朴な顔だ。近づいていくと青年は手を止めて顔を上げた。

「どうなってるの? ここはマンションじゃないの?」
「変わったそうです。一度出ていってもらって後から順に呼び戻されるそうですよ」
 そんな……。
「えーっ? じゃあそれまでどうすればいいんですか」
「いやー。僕はちょっと……」
 青年は気まずそうに言って顔を伏せた。
 それが答えか。
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モーニング・メモ(夢にまつわる)

2020-01-09 22:05:00 | 夢追い
 突き刺さるようなフレーズが飛び込んでくる。まるで今の自分のためにあるような。どうしても覚えておきたい。触れたい。とどめたい。保存したい。重々しく体は動かない。

これは夢だ! 誠残念。

 だが、夢の中で夢という自覚がある場合、持ち帰るチャンスはまだある。その時、二つの世界はそう遠くない。記憶を現実の領域に紐づけることを意識してみること。
 上手く行けば、目覚めた瞬間にメモをとることができる。
 そうして夢から持ち帰った「言葉」が本当に自分にとって価値あるものかどうか、すぐにはわからない。雪山の天女現象であることも多い。
 夢の中のときめきが醒めてしまっても、失望する必要はない。もしも夢と現実の間に橋を架けることに成功したなら、既にそれ自体が興味深い体験ではないか。
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新着レストラン

2020-01-09 10:43:00 | 短い話、短い歌
 タブレットの中を深くのぞき込めば、表面がとろけそうな親子丼が香りながら訴えかけてきた。ちょうどそろそろ親子丼が食べたいと思っていた頃だった。最後に親子丼を食べたのはいつだろうか。先月だろうか。いや、もっと前だ! クリスマスよりも冬よりもずっとずっと前だぞ! よし、じゃあ決まりだ。指先がふわふわの卵の上に……。
「注目の天とじ丼が登場!」
 突然、新しいメニューが割り込んできた。せっかくの決断がリセットされてしまう。
「いま注目の冷やしうどんが登場!」
「もちもち、ゆでたて、新食感!」
「今考えたばかりのアイデアで勝負!」
「ライブ感覚の新かき揚げ丼が新登場!」
「あなたへのおすすめ丼!」
 周りを見渡せばテーブルに着いて熟考している人の姿が目に付く。
「たったいま注目の親戚丼が登場!」
 なんてメニューの回転が速い店だ!



親子丼
他人丼ぼく
インドカレー
自分も食えよ
肉そばあるで

(折句「お大事に」短歌)
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サイダー・フィッシュ

2020-01-08 08:14:00 | 夢追い
「押入に布団がない!」
 突然たずねてきた男が訴えた。どうやら上の階に住む男のようだ。
「そんなの関係ない!」
 腑に落ちない様子で男は引き上げていった。借家暮らしも楽ではない。
「大変ね。色々」
 遊びに来ていた姉がそう言ったのは昨日のことだった。
「ほー。そんなことがあったのか……」
 関心を寄せている父は天国から一時帰省しているらしかった。



 ばあちゃんの家に遊びに行くと池から魚が飛び出してきた。歓迎するようにぐんぐん飛んで身を寄せてきた。以前はもっと人見知りだった気がするが、しばらくすると変わるものだ。魚に負けまいと僕も上昇した。魚はなおもぐんぐんと上昇して体を当ててきた。
「冷たい」
 冷たくて人懐っこくて、昔飲んだサイダーのことを思い出した。ばあちゃんの家の前の川にはいつもサイダーが沈んでいるのだ。そのサイダーのなんて冷たいこと! どんな冷蔵庫でもばあちゃんの川ほどにサイダーを冷やすことはできない。
「もうしつこいな!」
 魚は僕のことを知っているようだ。何かを話しかけているように空ではしゃいでいる。
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今年の目標(有効期限=1ヶ月)

2020-01-08 05:17:00 | 【創作note】
 短い話を書こうと思う。ツイノベほど短くなくていい。だけど1行であってもいい。地の文を書きたい。昔話のように「いました」と言いたい。言い切りたい。短いつもりが多少長くなってもいい。どんどん長くなってもいい。そんなに好きなものを見つけたのなら、どんどんそちらに流されてもいい。だけど短い話がいい。次から次に、次へ次へと行きたい。強い侍が細い道を駆け抜けたみたいに、書いてみたい。うそになる。うそになると思う。目標なんてそんなもの。そうとわかった上で目標を立てたい。短い話を書く。パッと始まりさっと萎む。寂しくなる。すぐに寂しくなる。そして、それからの話。
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高飛び

2020-01-07 06:58:00 | 夢追い
 モバイル・バッテリーが鳴っている。着信だ。えっ?
「なんで? かかってこないよね」
 簡単なはずの質問に父は答えなかった。
「くるの?」
 父は渋い顔で頷いた。理由があって契約がしてあると言う。
「出るな」
 理由があって出てはならないらしい。
 もしも出たとしても名を教えてはならない。そして、そのせいで怖い思いをしたらごめんなと父は詫びた。うん。よくわからない。
「さあ、もう行け」
 父が去るのではない。僕が行かねばならぬ。
 
 駐車場まで逃げたところでボールが飛んできた。よけたせいで額に直撃した。いてっ!
「すみませーん」
 拾って投げ返すと大暴投で青年の遙か頭上を越えていった。ああ。
「すみませーん」
 青年はボールの行方を追うよりもボールを当ててしまったことをまだ謝っていた。バッティングセンターは制服姿であふれていた。きっと何かの試合が近いのだ。軽く一周して帰路に着いた。途中は人の畑になっている。真ん中を歩いてはいけない。
「踏んだな!」
 後ろでおばあさんの声がしたので小走りで逃げた。

 最初は空いていた店内もあとからあとから押し寄せる客であふれた。地べたに座りコーヒーを飲んでいる人も見える。テーブルの数が少ない。スペースはあり余ってるのにおかしな店だ。僕はコーヒーを飲み切ると早々に席を立った。店員は背を向けて地べたの客と話し込んでいた。店長らしき人が飛んできてレジに入った。
「860円です」
 えっ?
「コーヒー1杯が?」
「お通し代込みになります」
 えっ?
 テーブルを振り返って見ると確かに小皿に盛られたナッツが見えた。そっか……。
「今気づきましたよ」
「ありがとうございます」
 ふっふっふっ……。

 信号は赤だし横断道はやたらと長い。すぐ近くに歩道橋があったが誰も渡っている者はいなかった。ためらっているとハリガネのような男がすいすいと上って行くのが見えた。大丈夫そうだ。一歩足を踏み入れると思った以上に細い。所々に苔が生えている。危ない! 注意しないと滑りそうだ。あの男はここを本当に通って行ったのだろうか。今見た光景が既に信じられなくなっていた。鉄はすっかり錆び付き、足下がぬるぬるとする。進むほどに細くなり、半身にならなければ通れなくなった。振り返れば暗闇で、だから進む他はなくなっていた。もはや橋ではなく木を登っているようだ。危ない! 踏み外しそうなところを蔓に手を伸ばしてなんとか持ちこたえた。もう駄目だ。上ることも下りることもできない。
「どうしてこんなことになった……」
 ニュースで見たことのある(困った人の映像)が思い浮かんだ。なんてことだ。それは自分じゃないか。
「おおーい! 誰か!」
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自動人間

2020-01-06 06:07:00 | 短い話、短い歌
 もう何もする必要はなくなった。何も考えなくてもいい。待ち望んでいた夢のような生活。効率を追求し、善悪に悩む時代は終わりを迎えたのだ。私たちの仕事は設定を済ませること。唯一それだけのことだ。あとはアップデートを待つくらいのことだ。軽微な問題もすぐに見つけ出され改良される。更新を重ねる内に日々はよりよくなっていくばかりだ。
「おめでとう」私たちから言うことは他に見つからない。
「おめでとう」私たち自動人間。



AIの
道徳観が
支配した
車が走り
去る12月

(折句「江戸仕草」短歌)
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春の夜明け

2020-01-06 05:45:00 | 川柳または俳句のようなもの
「もう駄目ね」ささやき開く第一章
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信頼の無茶

2020-01-06 05:32:00 | 【創作note】
僕のpomeraはおんぼろpomera
底についていたゴムは取れ
電池の蓋はかぱかぱしている
文字盤はかすれ
水面に映る月みたいにぼやけている

「いつ壊れてもいい」
新しいpomeraの存在も知っている

僕はマイpomeraを無茶に使う
片手で持ち上げてぶらぶらしたり
不安定な膝の上に載せたり
指先で回しながら踊ったり
冷蔵庫に立てかけたり
どのように接したとしても
pomeraはいつも平然としている

「行けるところまで行こう」

こんな無茶
きっと新しい友達じゃできないね



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書くこと書きたいこと

2020-01-05 20:29:00 | 【創作note】
書くことがたくさんある
例えば今日何もしなかったことについて

無について語ることはきりがないから
できるならもっと実のあることを書きたい

書くことはいくらもあるが
書きたいことかどうかはわからない
今日書きたいと思っていたことが
明日にはそうでもなくなっている

思いついたものは書き留めたい
書き始めたものは書き終えたい
書いている内に気持ちが離れていくことがある
書いている内に書きたいものになっていくことがある

書いてみないとわからない
わからないから書くしかない
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もうかえるところがなくなった

2020-01-04 13:37:00 | 夢追い
 打者一巡の猛攻が続いた。そこから先はよく覚えていない。打者は幾度となく巡ったようだ。その間にユニホームは何度もデザインを変えた。季節は巡り打者は年老いて流し打ちが増えたが、また巡りながら成長し世代を変えていく者も現れた。僕は独り火だるまになりながらマウンドに立ち続けた。ブルペンから駆けつける者も何人かはいたが、その度に強風が吹いたり怪獣が現れたりして、結局たどり着く者は誰もいなかった。体調を気遣って集合していた仲間も、次第に足が遠退いた。燃えていることが一つのステージとして定着してしまった。スコアボードは何度も反転し桁を増やしついには分解されて崩壊してしまった。高く打ち上がったピッチャーフライを見上げている内にゲームが成立したようだ。あー負けた負けた。(とっくに負けていた)フライはいつまでも落ちてこなかった。僕はベンチに帰った。
 誰もいない。そこはすっかりイオンに変わっていた。監督もコーチも控えの選手も誰も残っていない。

「みんなどこに行ったのですか?」
「まあ。迷子になったのね」
(かわいそうに……)
 振り返ったところに強い日射しはなく、大観衆の影も消えていた。


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やい! 待ちやがれ!

2020-01-03 14:20:27 | 夢追い
 出発を待っていると反対のホームに別の電車が入ってきた。座っていた人がバタバタと席を立って駆けていく。きっと向こうの列車の方が先に出るのかもしれない。急ぐわけでもないが、それほど皆が行くのならば……。流されるように僕は席を立った。その時、他の人もそのように思ったに違いない。多くの人が終着駅のように降りていく。勢いに押し出されるように僕はホームに運ばれた。それにはとどまらずにホームを越えて新しくやってきた電車の屋根にまで押し上げられたのだった。「うわーっ!」上にまで乗ったのは僕だけだった。なのに、誰も僕の方を見ていない。その時、既に電車は動き始めていた。「あっ、待って! 降ります! 降りまーす!」叫んでも電車は止まらない。宙に浮かぶと闇の中に弧を描き始めた。それはスパイを振り落とそうとする時の仕草だった。「酷いじゃないか! 僕はただ乗りすぎただけだぞ!」
 
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独りになりたい夜もある

2020-01-03 02:31:00 | 忘れものがかり
部屋の中では
ずっと雨が降っている

天井に憎たらしい顔が浮かぶ
電気をつけても
窓を開けて空気を入れ換えても
なかなか消えない
目を閉じても
まだその辺に気配を感じる

ずっと雨が降っている
それはあいつの声だ

テレビをつけても
お気に入りの曲を再生しても
それは消えてくれない

「気になるのはその人のことを好きだから……」
 おいおい
 悪い冗談はやめてくれよ
 そりゃそういう場合もあるだろうけどさ
 そうじゃない場合の方が多いに決まってんだろ
 (思い出したくなんてないんだよ)



独りになりたい時
僕は
独りの部屋を飛び出して
フードコートへ

そこにいる
見知らぬ人たちに囲まれて
僕はようやく独りになれる

もう独り怯えることはない

背筋を伸ばして 僕は独りだと言おう
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野生の記憶

2020-01-02 10:31:00 | 忘れものがかり
猫の顔は
もう忘れてしまった

3日ペンをはなしたら
馬もライオンも
輪郭を見失った

だけど
ラーメンを思い出す

遺伝子に深く刻まれたものは
忘れないのだ
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酷い人

2020-01-01 00:39:00 | 【創作note】
「だいぶ凝ってますね」

どこからどこまでが
肩だろうか

そこまで行けば他人
そこまで行けば街
そこまで行けば県外
自分を離れれば
そこが肩でないことはわかる

そこまで行かなくても
頭も足も肩ではない

「ずっと肩が痛くて」

どこがどのように痛いのか
自分でもはっきりしない
首も背中も肩の一部のように感じる

「これは酷いね」
「やっぱりそうですか」
「これは酷すぎる」

手は肩を離れて街へ向かうようだ
ああ 置いて行かないで

肩をとらえることは難しい

人の心はなおとらえ切れない
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