眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

ダンス・ウィズ・ドリブル

2020-01-21 16:41:21 | ワンゴール

「随分な遠回りだったな」

「得意の形でした」

「だが、ゴールには至っていない」

「シュートは打てました。紙一重でした」

「ポストを叩くことは闇に消えるよりはゴールに近い」

「はい。それは指針になりますからね」

「相手にとっての脅威、自分にとっての指針になる。だがね」

「何か不満げですね。とても」

「その必要が、本当にあったのだろうか?」

「いったい何がです? 必要とは?」

「遠回りだよ。君は遠回りしただろう」

「ドリブルのコースが良くないというのですか?」

「随分とゴールから遠回りしたように見えたな」

「最短距離は最も突破が困難だったからです」

「そうだったろうか」

「急がば回れと言うじゃないですか」

「とても急いでいるようには見えなかった」

「どう見えたと言うんですか?」

「楽しんでいるように見えたな。遠回りを」

「楽しくないということはないです」

「やはりな」

「でも、何が近道で何が回り道かなんて、どうしてわかるんです」

「自分で選んだ回り道を楽しんでいたんだな」

「それがエゴだと言うんですか。もっとはっきり言ってください」

「では、はっきり言おう。君は中に切れ込んでシュートを打ちたかったのではないのか?」

「それが何ですか?」

「そのために、他のあらゆる攻撃手段を切り捨ててしまったのではないか?」

「僕は選んだだけです」

「敵の警戒を言い訳にして、自分の好むプレーを選択したのだ」

「他にどうしろと?」

「その場でターンできたはずだ。中を向くことができれば、味方を使うこともできただろう」

「そこに味方はいたでしょうか? 間に合っていなかったのでは?」

「ちょうど走り込んで来る選手がいた。君の背中には映らなかっただろうがね」

「確かにターンはあったかもしれません。そこからシュートも打てたかもしれません。でも、僕は手数をかけるために、戻ったというわけでもありません。少なくとも自分にそのような意識はありませんでした」

「意識以上のことを、時に体はやってのけるものだ」

「考えている暇はありません」

「そうだ。だからこそ、正しい動きを身につけることが重要なのだ」

「体が覚えたものは忘れませんからね」

「そのために必要なことは何だと思う?」

「勿論、練習です」

「それは日々の積み重ねだよ」

「ああ。そうですか」

「朝起きて、君は最初にどうするのかね?」

「まずは顔を洗います」

「なぜ、そうするのかね?」

「目を覚ますためでしょう。強いて言うならばですが」

「それほど自分の顔が大事だと言うのかね?」

「はあ」

「その前に雑巾掛けをしようとはしないのかね?」

「雑巾掛けを? 突然ですか?」

「突然とは何だね? 君は突然顔を洗うのだろう」

「目覚めてすぐにそんな体力はありません」

「そんな言い訳が通用するとでも? 君は本当にアスリートなのかね?」

「何時間も眠っていたんですよ。誰だってそうですよ」

「果たしてそれが理由かな?」

「他にどうだと言うんですか?」

「君は部屋という全体よりも、顔という個人的なスペースを優先したのではないか?」

「普通じゃないですか。まさか、それがエゴだとでも言うんですか」

「まあ、君が言うならそれはエゴの一つに違いあるまい」

「とてもそれが悪いことだとは思えません」

「まあ順番はいい。君はいつ雑巾掛けをするんだね?」

「……」

「部屋の掃除をしているのかと言っているんだ」

「まあ、たまにしています」

「だから駄目なんだ! 大事なのは日々だと言っただろう」

「そんなに掃除が大事なんですか? 他にもすることが色々と」

「また言い訳か。それではいつになったらゴールが決まることか」

「ゴールとどんな関係があるんですか?」

「何を言うか。私がゴールと関係のない話をしたことがあるのかね?」

「本気で言っているんですか」

「雑巾掛けをするには、何よりも根気が必要だ」

「それはそうでしょうけど」

「何よりも継続性が重要だ」

「それもそうでしょうよ」

「それはとても良い行いだ」

「はい。それでどうなるんです?」

「部屋の中がきれいになる」

「それはそうですよ。それが掃除です」

「だが、他にもきれいになるものがあるぞ」

「他にも? いったい何が……」

「それは心だ」

「はあ。そうですか」

「良い行いを続けていると、知らず知らずの内に心の中までがきれいになっていく」

「それでゴールが決まるんですか?」

「まあ、そう先を急ぎすぎるな。急がば回れだ」

「さっきは遠回りを非難したくせに」

「手をかけて磨くことで、やがて浄化は空間を越えていく」

「そういうものですかね」

「大切なのは、正しい行動を習慣づけることだ。運動が学習を手助けする。それが自然にできるようになれば余計なものも消えていくだろう」

「余計なものですか」

「正しいことだけに集中するのだ。やがて邪念は消え、自身も消える。少しはゴールが見えてきたかね?」

「よくわかりません」

「自身が消えて、ディフェンスの目からも見えなくなるだろう」

「本当にそうなりますかね」

「疑うくらいならまずは試みてみることだ。君は邪念が多すぎる。テレビを見てごらんよ」

「どうしてテレビなんですか?」

「テレビでは悪いのかね?」

「そういうわけでは」

「人々はみんなクイズに夢中だ。どうしてだと思う?」

「正解が知りたいからじゃないですか?」

「考えることは楽だからだ」

「問題が簡単だったら、まあ楽でしょうね」

「難解さは重要ではない」

「そうでしょうか。難しければ……」

「考えられることは、考えられないことよりも遙かに楽だ。楽しいと言ってもいい」

「はあ。そういうものでしょうかね」

「答えがある場合は更に楽だ」

「確かにクイズには必ず正解がありますね」

「クイズのことを考えている間は、それ以外のことを考えることができない」

「時間切れになってしまいます」

「考えなくていいというのは、それもやはり楽だ」

「今度は考えないことが楽なんですか?」

「そうだ」

「監督。大丈夫ですか? 何か矛盾しているようですが」

「人々は考えているようで考えていない。考えないことによって考えているのだ」

「何が何やら」

「それが集中するということだよ。そして、その結果どうなると思う?」

「正解を答えるんですか?」

「何が消えると思う?」

「邪念と自身ですね」

「その通りだ。だからこそ雑巾をかけねばならない」

「クイズの話はもう終わったんですか?」

「終わったと思うかね」

「正直、わかりませんね」

「油断しないことだ。すべてのことは同時に進行しているのだから。攻撃は守備であり、守備もまた攻撃なのだ。今が試合の真っ直中にあるということを忘れないように」

「勿論です」

「床を綺麗に保つためには、常に怠ることなく磨き続けなければならない」

「はい」

「床をもっと前に押し進めるためには、もっともっと磨き続けなければならない」

「床を前に? どういうことでしょうか?」

「運動が学習を後押しするということだよ。わかるかね」

「わかりません」

「その先に敷かれるものは何だ?」

「?」

「油断するなと言ったはずだ」

「抽象的な問題は苦手です。僕はストライカーだから」

「しあわせにつながる道だよ」

「床から道へとつながっているんですね」

「そうだ。運動が絶えず続いていくためには、その先のビジョンが大事なのだ」

「なるほど。そういうものですか」

「その道がどこへつながっていると思う?」

「まだ続くんですか?」

「続くのが道だからな」

「海でしょうか」

「ゴールだよ」

「ゴールか……。惜しかったな」

「いつか道はゴールへとつながるのだ。それが休まず続けていくことの理由だ」

「はい」

「さあ、君はどうする? 今、君はこんなに大勢の敵に囲まれているじゃないか」

(ボール、ボール、ボール、ボール♪)

「みんなボールだけを求めて寄って来ます」

「そうだ。君は狙われているぞ」

「本当にしつこい奴らだな」

「君がボールを持っているからな」

(ボール、ボール、ボール、ボール♪)

「ボールの亡者たちめ。ボールのことばかり考えている奴らに誰が渡すもんか」

「そうだ。渡してはならない。体を張って、君はボールを守らなければならない」

「みんなボールに食いついて来ます。こいつら、ボールばかり欲しがりやがって」

「この場所においてそれは普通だ。ここはそういう場所なのだ」

(ボール、ボール、ボール、ボール♪)

「ボールがすべてなんておかしくはないですか? 本当にそれで正解なんですか?」

「ボールがすべてである時、ボールはいくつあると思う?」

「勿論、ボールは一つです」

「ボールがすべてである時、ボールはボールであるというだけでなく、他のあらゆるものでもあるということだ」

「あらゆる?」

「よって、正解は一つではない」

「そんな、まさか……」

「ボールは石だ。ボールは星、ボールはキャンディー。ボールは炎、心、そして、猫だ」

「ボールが猫だなんて」

「どうする。君は猫を手放すか?」

(ボール、ボール、ボール、ボール♪)

「嫌だ。絶対に渡さない。これは僕のボール。僕だけのボールなんだ!」

「ボールだけのボールと思っていては守れないぞ!」

「僕のドリブルで、僕は僕のボールを守ります!」

「そうだ。ここではボールがすべてだ!」

(ボール、ボール、ボール、ボール♪)

「渡さない! 誰にも渡さない!」

「もう、ドリブルのためのドリブルだけはするな」

「大切なものを守るためのドリブルです」

「そうだ。もっと先へ進むためのドリブルだ」

「なんだか体がとても軽く感じられます。みんなの動きが止まっているように見えます」

「そうだ。それでいい。ドリブルを楽しめ。踊りのように」

「踊りのように」

「踊る人は楽しい。楽しい人は踊るのだ」

(ボール、ボール、ボール、ボール♪)

「僕は踊ります。ゴールへ向けて踊ります」

「私もここで踊ろう。ゴールのための前祝いだ」

 

 

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ヒット麺

2020-01-21 07:35:00 | 短い話、短い歌
 時代劇と現代劇をミックスしそこにボサノバと紙芝居の風味を加えた。涙に笑いご飯にパン、パスタに、スープにシャーベット。監督、脚本、主演、助演、エキストラ、すべてを務め、レッドカーペットを一人歩きするとアカデミー賞を総なめに。カンヌに渡るや拍手喝采、熱狂的な大フィーバーの後、ベルリンに渡るや瞬く間に金字塔を打ち立てる。「きみこそが真のサムライ!」ピピピピピ……。ありゃあ夢かいな。ふぁー疲れた。あれに見えるは! 金ちゃんを見つけてケトルの元へ駆け出した。夢の中で活躍した後は思い切り腹が減る。お湯を注げば香り立つゴールドな一日のはじまり。



アラクレを
七人飛ばし
沸々と
ラ王に注ぎ
いきるサムライ

(折句「アジフライ」短歌)
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裏通りの占い師

2020-01-21 03:18:00 | ポトフのゆ
 トライアングルの中をふらふらと歩いていると暗い夜道に出てしまい、とろみがかった白身魚のフライがチラシを配る周りには、夜の魔物たちが群がっているのだった。この世は恨みつらみばかりでござんしょとスライムが言い、随分とつらいことがあったようだねと村井が言ってちらりとマラソン選手の方を見たが、その時にはもうマラソン選手は走りすぎていて、小枝がゆらゆらとしているだけだったので、スライムはケラケラと笑った。「コースを間違えたかな?」と村井は言い、「いつから参加していたの?」とスライムはくらくらとした。「参加するにはカードがいるのよ」そんなことも知らないのとスライムは馬鹿にした口調で言った。「だったらどうしたらいいんだい?」少しへらへらしながら村井は訊いた。「だったら村一番の占い師のところへ行くのね」

 裏通りより更に裏手に入ったところにその占いの館はあった。
 占い師は散らかったテーブルの上を片付けると、胸元から小さな箱を、そしてそこから取り出したものをテーブルの上へ並べ始めた。

 いくつもの歌はいつまでも伏せられたまま呼吸をすることがやっとの状態だった。本当は自らひっくり返りたいのに裏こそが表であるのに、強い風が吹いて、あるいは誰かが強くその上を叩いてひっくり返してくれる日を、ただ耐えて待ち続けているのだった。「伏せられたまま命尽きるのは嫌」けれども、伏せられたままの歌声は大地を少しだけ湿っぽくせただけだった。誰の心にも届かなかったのである。

「裏を返してごらん」
 と彼女は言った。
 村井は一枚のカードを選びひっくり返した。そこにあるメッセージを見つけるために。
「はっ、何もない!」
 老婆はわが意を得たりという表情を浮かべた。
 老婆は言った。
 しかし、その僅か前に村井が言った。
「どういうことだ?」
「それで残念に思う人もいれば、それで助かる人もいる。そういうことさ」
 と言って老婆はうがい薬を差し出した。
「さあ、家に帰ったらこれで口をすすぎなさい」
「どういうことだ?」

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