眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

高飛び

2020-01-07 06:58:00 | 夢追い
 モバイル・バッテリーが鳴っている。着信だ。えっ?
「なんで? かかってこないよね」
 簡単なはずの質問に父は答えなかった。
「くるの?」
 父は渋い顔で頷いた。理由があって契約がしてあると言う。
「出るな」
 理由があって出てはならないらしい。
 もしも出たとしても名を教えてはならない。そして、そのせいで怖い思いをしたらごめんなと父は詫びた。うん。よくわからない。
「さあ、もう行け」
 父が去るのではない。僕が行かねばならぬ。
 
 駐車場まで逃げたところでボールが飛んできた。よけたせいで額に直撃した。いてっ!
「すみませーん」
 拾って投げ返すと大暴投で青年の遙か頭上を越えていった。ああ。
「すみませーん」
 青年はボールの行方を追うよりもボールを当ててしまったことをまだ謝っていた。バッティングセンターは制服姿であふれていた。きっと何かの試合が近いのだ。軽く一周して帰路に着いた。途中は人の畑になっている。真ん中を歩いてはいけない。
「踏んだな!」
 後ろでおばあさんの声がしたので小走りで逃げた。

 最初は空いていた店内もあとからあとから押し寄せる客であふれた。地べたに座りコーヒーを飲んでいる人も見える。テーブルの数が少ない。スペースはあり余ってるのにおかしな店だ。僕はコーヒーを飲み切ると早々に席を立った。店員は背を向けて地べたの客と話し込んでいた。店長らしき人が飛んできてレジに入った。
「860円です」
 えっ?
「コーヒー1杯が?」
「お通し代込みになります」
 えっ?
 テーブルを振り返って見ると確かに小皿に盛られたナッツが見えた。そっか……。
「今気づきましたよ」
「ありがとうございます」
 ふっふっふっ……。

 信号は赤だし横断道はやたらと長い。すぐ近くに歩道橋があったが誰も渡っている者はいなかった。ためらっているとハリガネのような男がすいすいと上って行くのが見えた。大丈夫そうだ。一歩足を踏み入れると思った以上に細い。所々に苔が生えている。危ない! 注意しないと滑りそうだ。あの男はここを本当に通って行ったのだろうか。今見た光景が既に信じられなくなっていた。鉄はすっかり錆び付き、足下がぬるぬるとする。進むほどに細くなり、半身にならなければ通れなくなった。振り返れば暗闇で、だから進む他はなくなっていた。もはや橋ではなく木を登っているようだ。危ない! 踏み外しそうなところを蔓に手を伸ばしてなんとか持ちこたえた。もう駄目だ。上ることも下りることもできない。
「どうしてこんなことになった……」
 ニュースで見たことのある(困った人の映像)が思い浮かんだ。なんてことだ。それは自分じゃないか。
「おおーい! 誰か!」

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