男は懐に手をやりそれを取り出したように見えた。口にくわえ親指を近づけるとカチッと音がしパッと光ったように思われた。2本の指でそっとつまんで唇から離し、吸ったものをふーっと吹くとそれらしいものが出たように見えた。「お客様こちらは禁煙でございます」男は完全に白だった。#twnovel
夜の中に光り輝く緑を手に取って1つだけ確かめたいことがあった。もしもし、「秋は、どこに行ったのですか」。けれども、見えない壁が行く手を遮ってそれ以上近づくことはできず、問いかけることも答えを聞くこともできないのだった。「見えてるんだけどな……」小さな声で、鳴いた。#twnovel
本になりませんかという熱烈な誘いに折れて、私はある日、森を離れた。「ベストセラーになれよ!」仲間の声援が風に乗って伝わる。「スミスの本棚に入れよ!」編集者の肩に担がれて進む内に、ゆっくりと日は落ちていった。もうすぐ私のいない森にも、いつものように夜が訪れるだろう。#twnovel
ゴールはまだ遥かに遠く、渇き切った肉体を前へ前へと運ぶ2本の脚を支え続けているのは、すぐ先の未来に待っている微かな楽しみだった。約束の場所を通りかかった時、ランナーが少しだけその走りを緩めながら、伸ばした手の先には夕刊が置いてある。今入ったばかりのニュースだ。 #twnovel