眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

幻の銀

2021-05-24 10:42:00 | 将棋の時間
 ずっと温めていた焦点の捨て駒。取れば端角を打って詰み。取れなければ寄りは近い。敵の読みにはあるまい。私は確信を秘めながら敵陣深くへ指を伸ばした。
 着手の瞬間、それは私の指から離れて飛んだ。

「5二銀!」

 秒読みでもないのに私は咄嗟に叫んでいた。とっておきの一手が逃げて行くような気がしたのだ。脇息の向こうの方に、飛んだと思ったのに、銀は見つからなかった。敵は平静を装っているのか置物のように固まっていた。ゴミ箱の中をのぞき込んだが、そこにもなかった。
 タブレットに表示される持ち時間を見た。記録の少年が首を少し傾けているように見えた。私は一旦座布団に座り直した。
 その時、4枚の銀が盤上に確かに存在するのを私は見た。

(待ってくれー)
 落ち着くのだ。
 私は手を伸ばして記録用紙を求めた。
 手番はまだ私のままだった。
(助かった)
 私は悪手も反則もまだ指していない。
 そうだったか……。
 記憶をたどって、私は過去の将棋を読みすぎてしまったようだ。

コメント
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