物事には何にだって終わりがあるもんでござんす。夏に終わりがあるように物語にも終わりがある。世界だって例外じゃあござんせん。さて世界の終わりがきたらどうするか、古来人類の空想を刺激するテーマであったんだが、事が世界じゃあ問題が大きすぎるってんで、いくら考えてもきりがないんでございます。きりがないのが空想のいいとこだって? お前さんもいいこと言うようになったじゃねえか。空想ばっかりしてねえで、たまには世の中のことでも勉強しやがれ。時に、世界の終わりってのは突然くるようなんでござんす。
チャカチャンチャンチャン♪
「せっかくだから焼き肉食おうぜ」
「こうなったらもう腹が破れるほど食うぜ」
「おー、じゃんじゃん持ってきて!」
まあ、最後の晩餐と申しましょうか。何を置いても生き物というのは、最後の最後まで食べることは大事な楽しみなんでござんす。しかし、世界の最後まで働いている従業員というのも、見方によっては立派なもんでござんすね。それに比べてただ食ってる方は気楽なもんでござんすよ。できることなら最後は楽な方で行きたいもんでござんすね。
チャカチャンチャンチャン♪
「月がきれいだな」
「ああ、こうして改めてみるときれいなもんだ」
「見納めだぜムーン! これで最後なんだな」
「残念だがな」
「しっかり目に焼き付けておこう」
「馬鹿野郎。焼き付けて何になるんだ。もう世界は終わっちまうんだぞ」
「だからそうするんじゃないか」
「ロマンチストかよ」
「何だよ。何が悪いってんだよ」
みるものすべてが改まってみえてくる。考えようによっちゃあそれは物事を最初にみた時の視点と同じであるのかもござんせん。とかく私どもは日常に埋もれちまって、何もかもを当たり前のようにしか感じなくなるもんでござんす。何とも罰当たりなもんでござんすよ。そうじゃござんせんか。えー、どーなんだーい!
チャカチャンチャンチャン♪
「ああ、悪くはないよ。じゃあな」
「えー、もう帰るのか」
「疲れたから帰って寝るよ」
「えーっ、もったいない、絶対もったいないって!」
「何テンション上がってんだよ」
「俺はもっとしたいことがあんだよ。海にも行きたい。買い物にも行きたい。野球もしたい。釣りもしたい。バイクにも乗りたい。ギターも弾きたい。遠出したい」
「それで満足か」
「トマトを育てたい。ゲームをしたい。鉛筆を削りたい。靴紐を結びたい。フランスに行きたい。腹筋を鍛えたい。将棋がしたい。穴熊に入りたい。うどんを打ちたい。仮装したい。ジェットコースターに乗りたい」
「欲張りだな。無駄に怖い思いすることないじゃん」
皮肉なもので、もう何もできないとなった途端、やりたいことが湯水のようにあふれてきたりするもんでござんす。しかし人間の体はたった1つでございます。何でもかんでもできるもんじゃあござんせん。器用な人でも二刀流、三刀流くらいが限界なんでござんすね。悪いことは言わねえ、皆さんもまだ時間があると思える内に、1番やりたいことの1つでもみつけなすった方が身のためでござんすよ。気がつけば人生はジェットコースターのように過ぎて行くもんだい。ゴトゴトゴトゴト、ダーッ♪ってなもんだい!
チャカチャンチャンチャン♪
「あれもしたいこれもしたい」
「とても無理だろ」
「もっと、みたい、知りたい、聴きたい」
「意味ないだろ。どうせ明日終わるんだから」
「どうせって何だよ」
「終わるから意味ないって言ってるんだよ」
「その前はあったのかよ」
「知らねえよそんなことは」
「じゃあ意味ないんじゃなくて知らないんじゃないかよ」
「何わけわかんないこと言ってんだよ」
「お前がどうせとか言うからだろうよ」
「お前勝手にやりたいこと探せよ」
「言われなくてもそうするよ」
「じゃあな。俺は帰って寝るから」
「ああ、帰れ帰れ! 寝てる内に終わればーか!」
「ああ、探せ探せ! 探しながら終わればーか!」
生き方というのは最後まで人様々でござんす。この2人の場合は、探す派と寝る派にわかれるわけでございますが、だいたい世の中の人間というのは2通りに分かれるのかも知れません。暇を惜しむように四六時中動き回っているのもいれば、いつでも時の真ん中にゆったりと構えているような者もございます。苦労して探し回って幸せをみつけようとする者もいれば、最初からそれをみつけてしまっているような者もございまして、果たしてどちらが本当に幸福なのかと申しましても、そんなことは私なんかにわかるわけがござんせん。ところであなたはおわかりかい? よーっ、どーなんだい!
チャカチャンチャンチャン♪
「ふー、ようやく独りになれたぜ。
何を今になってすることがあるってのよ。
ほー、こうしてあたたかな布団に包まれて、
眠るほど安らぐことが他にあるかよ。
夢みるほどに素晴らしいことがあるかよ。
あー、最高だ。
(コツコツ、コツコツ、コツコツ……)
何だありゃ、
あー、あいつの探す足音だわ。
馬鹿野郎、むにゃむにゃ、
そっちは、天国への階段だぞ」