「危ない!」
コーチの声に振り返るとミサイルがすぐ傍まで迫っていた。私は反射的に身をよじって直撃を避けた。まさに間一髪だった。普通の人間ならば間違いなく助からなかった。ミサイルは駐車場に着弾して炎上するとすぐに多くの野次馬を集めた。
「流石だな」
ずっとタッグを組んで戦ってきたコーチが私の肩を叩いた。
ホテルのドアが開き私たちは無事にチェックインを済ますことができた。どうせならばメダルに首を通してから死にたかった。
私たちアスリートの時間は短い。今日は上手くできても明日また同じタイムが出るとは限らない。1年後となるとそれはあまりにも遠い。瞬間瞬間、命を削るようにして生きてきた。しかし、人生には競技よりも大事なテーマもある。その大きさを前にすれば私たちの一番など霞んでしまう。
銃弾が飛び交う街をくぐり抜けてここまで歩いてくる途中、私の胸の中は大きく揺れていた。きっと皆も同じではないだろうか。私たちの向上心は、どんなステージにも影響されることなく貫けるものだろうか。いいえ、そんなことはない。私だって普通の人と同じ神経を持っている。
……「完全に切り離してコントロールする」
会長が断言した時、私は耳を疑った。私たちアスリートはゲームのキャラクターではない。二次元と三次元を分かつようできるはずがないからだ。トーキョーはどこもかしこも銃弾が飛び交っている。トーキョーだけではない。国中の至るところでだ。敵は場所も時間も選ばない。救助の手も足りないというのに、それさえも分離できると彼は言った。(戦争と運動会は関係ない)
神話か妄言か、どちらにしても気づいた時には戻れなくなっていた。大運動会開催計画は予定通り、止まらない戦車のように進められていった。
柔らかなベッドの上で私は空を飛んだ。今までで一番の記録に届きそうだった。壁だと恐れていたものはマシュマロの集合にすぎなかった。あるいは、ほんの小さな迷いだ。あとは着地を決めるだけ。人々の祝福の中心で私だけが黄金の輝きに包まれるのだ。今までの犠牲のすべてがようやく報われる。
窓を開けると見たことのない風景が広がっていた。飛んでいたのは夢ではなかった。私たちのホテルそのものが宇宙船だったのだ。
船を降りると先住民が旗を振って出迎えてくれた。誰一人として武器も防具もそればかりかマスクさえ身につけていなかった。ここには戦争も病もないようだ。
「なんてきれいな空気なんだ!」
そこはプチトーキョー。自然とテクノロジーが見事に調和した美しい都市。火星に作られた新しいトーキョーだ。私たちが知らない間に、このような計画が着々と進んでいたなんて。
「グローバル時代の大運動会を始めましょう!」
会長バンザーイ!!