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眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

静寂のランチ・タイム

2020-09-06 09:43:00 | ナノノベル
 近頃は何でもソーシャルディスタンスが定着している。マスクをし、距離を取り、無闇に声を上げないことが基本だ。この夏は酷い暑さの日が続くということもあって、より体力を温存しなければならない。
 無駄にリスクを冒さず、力を使わないということなら、挨拶だって不要だ。会社の朝も、コンビニのドアが開いた時も、昔と比べて随分と静かだ。

(会釈)

 この国には黙って頭を下げるという洒落た挨拶もあるではないか。
 僕と君との間にも微妙な距離ができた。こうして街を歩く時だって、会話はすべてラインを経由して行われる。文字とスタンプがあれば、意思も心もちゃんと伝わる。

「昼何たべようか」
「何でもいいけど」
「何でもいいって何」
「何でも」
「中華でいい」
「中華はちょっと」
「ちょっと何?」
「ちょっと決めすぎじゃない」
「はあ?」
「次何かあったら入ってみようよ」
「よし、じゃああそこだ」
「こんな店できたのね」

「へい、いらっしゃい!」
「いらっしゃいませーい!」
「奥どうぞー!」
 僕たちはドアを開けたまま立ち止まる。

「ここはまずいぞ」
「リアルに声を出してる」
「他にしよう」
「そうしましょう」
「撤収」
「了解」

「ありがとうございましたー!」
「ありーしたー!」
「まーたどうぞー!」