眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

12月の運動

2012-12-26 19:44:42 | クリスマスソング

「クリスマスソングでもかけようか?」

「少し早くない?」

「早いと言えば早いけど、何が早いんだろうね」

「最後に足りなくなってしまうとか?」

「君はラスト・クリスマスしか知らないんだろう」

「ワンダフル・クリスマスだって知ってるわよ」

「世界中には星の数ほどクリスマスソングがあるんだよ」

「だいたいどれくらいあるの?」

「星を数えてみればすぐわかることだよ」

「今日は無理みたいね」

「宇宙に行ってみればいいんだよ」

「他に知る方法はないの?」

「君はいったい何を知りたいんだ?」

「確かクリスマスソングのことだったと思う」

「それが確かだとして、君はそれで宇宙にまで行くと?」

「確かあなたに勧められたような気がするけど」

「僕が言いたいのはね」

「クリスマスソングをかけるんでしょ」

「いいやそんなことじゃない。他人の話に簡単に乗りすぎるのはどうかということだよ」

「宇宙に行くのはやめておくわ」

「果たしてそれでいいのだろうか?」

「どういうこと? まだ何かあるの?」

「僕が言いたいのはね」

「まだ何か言い足りないのね」

「他人の話に簡単に流されるのはどうかということだよ」

「でも人の話を聞く柔軟さは大切でしょう」

「宇宙に行くか行かないか、君は君自身で判断すべきなんだ」

「それはそうね。でも私は、後でちゃんとそうするつもりだったのよ。最後にはね」

「まだ少し早いけど」

「かけてもいいんじゃない? クリスマスソング」







 12月の人々はそれぞれにテイクアウトを好み、12月のショップに足を運んではそれぞれ目当ての商品を注文する。12月の思考の中では、意思決定もままならず、注文カウンターにたどり着いてからなかなか12月の注文が定まらない人もいて、そうした12月の人々の後に長い行列が続いてしまう。まちびとは12月の家を出る時には、目的の商品を決めていて、それはもう前の日の晩から欲しいと思っていたもので、12月の夜を通過してもその決定に少しの揺らぎも生じなかったのだ。
 12月を重々しく着飾った人々の中を、まちびとは12月の長々としたマフラーを巻きつけて歩くだろう。凍りつきそうな12月の道の上には、いつも12月の手袋が片方だけ落ちていて、捨てられた悲しみからかおかしな形をして手を開いているのだろう。慌しい12月の道の上では、誰1人それを拾い上げて、持ち帰る人はいないだろう。一瞬気をとめたとしても、すぐに12月の本題を思い出して、早々に12月のブーツを踏み出していくのだ。
 12月の本題、それは間違いなく、目当ての商品を無事にテイクアウトすることに他ならなかった。
 まちびとは12月の注文カウンターにたどり着いて、正確な12月の発音で注文を告げる。返事はない。けれども、目と目で会話が通じたことを信じてまちびとは、そのままそこに留まっている。まちびとはお金を取り出して、12月のカウンターに向けて差し出そうとするが、届かない。札は、硝子に跳ね返って12月の自分の中に戻ってくるだけだった。身寄りのない犬が、12月に震えているのが見えて、撫でようと近づく。まちびとの手が触れようとすると、犬は12月のように逃げ出してしまう。逃げた距離だけ近づくと、12月の犬は待っている。再び撫でようとすると、犬は12月のように身を引いてしまう。まちびとは、すっかりテイクアウトのことを忘れて12月の犬とかけっこをしながら、12月の街の中に溶け込んでしまった。



「久しぶりに、いい運動になった」
 12月の犬は、逃げているのではなく、まちびとを運んでくれていたのだった。
 導かれるように店の中に入る。店の中には12月にふさわしいロックビートが流れている。
「ここは俺の席だ!」
 まちびとが12月の席に座っていると、後から入ってた12月の男が怒鳴りつけてくる。すぐに店員も駆けつける。
「お客様、先客がいらっしゃいますので」
「俺が先約じゃないのか!」
 まちびとは、別の場所に12月の移動をしてもいいと伝えたが、12月の店員はそれも認めなかった。
「ここはお客様の席ですのでどうぞお座りください」
 12月の犬が入ってくるとまちびとの隣に座り、12月の鋭い眼光を正面に向けた。12月の男は不満げな様子だったが、12月の犬に恐れをなして、渋々別の席に移動する。
「ホットレモンティーと12月の苺ショートを」
 12月に束の間の平和が訪れた。12月の窓の外では、12月の車が徐行しながら狂ったように人の名前を連呼している。

「俺は10円しか持ってないぞ!」
 12月の怒りが、またしても12月の店の中に響き渡る。
「お客様、あわあわ、あわあわ……」
「ワンコインだぞ! おまえらコインを差別するのか!」
「お客様、あわあわ、差別だなんて、そんな、あわあわ……」
 12月の収拾不能の混乱の中で、12月の天井から12月のバラードが流れ落ちた。12月の激しい音階の流れから、突然変わった12月のトーンだった。その登場の仕方で、12月の怒る者も12月の宥める者も共に、泣いてしまったのだろう。


1つの歌などで、人はどうしてあんなにぼろぼろと泣くんだろう……。
 まちびとは12月の犬を見ながら12月の疑問を抱いた。
ぼろぼろとって、どんな風?
 12月の犬は、まちびとに向かって新たな12月の疑問を返した。

「足元が大変寒くなっておりますので」
 宥めを終えた12月の店員が、まちびとのために12月の膝かけを持って来てくれる。

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12月のロケット

2012-12-26 00:48:31 | クリスマスソング

「そろそろクリスマスソングでもかけようか」

「どうでもいいけど」

「それは聞き捨てならないね」

「かければいいんじゃない?」

「どうして猫が眠くなると思う?」

「生まれつきじゃない?」

「現実世界に興味を失うからさ」

「そんなわけはないでしょう」

「そして夢の世界に旅立つ」

「眠るってことね」

「猫は夢科の生き物だからね」

「そうだったの?」

「人間だってそうさ。興味を失えば眠くなる。意欲を失えば自然と帰りたくなる」

「どこに帰るの?」

「自然に帰るのさ。自然ってのは恐ろしいね」

「自然は恐ろしいの?」

「恐ろしいばかりではないよ。自然は偉大な母でもあるからね」

「お母さんはどんな人だったの?」

「とても暗算の得意な人だった。母は先生でもあったんだ」

「夢科の?」

「教師はどんなことにも興味を持たなければ」

「どうでもいいことにも?」

「勿論そうさ」

「そろそろクリスマスソングが聴きたいな」

「少し早い気もするけどね」








 12月の街々で、12月のメッセージが12月の人々の手に配られる。どこかで耳にしたような、希望に満ちた言葉の数々を聞き分けながら、12月の人々は迷い、戸惑い、拭い切れない疑いを、クリスマスソングの中に溶かして歌い始める。光に満たされた12月の中で、歌に乗せれば言葉はより希望めいて、12月の足取りを軽くしてくれるから。強い言葉で伝えようと、12月に爪を立てれば、12月のあちらこちらで飛び交うのは12月の失言で、犬も兎もヒーローも自転車も、嫌々サンタの格好をさせられた者たちは、手に手に禁句トングを持って、12月の道々に落ちて傷んだ言葉たちを拾って歩くのだった。

「もうこれ以上、私たちの足を引っ張らないでください」

「どうして人を好きになるのだろう?」

「どうしてハッピーターンを好きなんだろう?」

 まちびとはいつも午前0時に眠る計画を立てながら、日々失敗に終わることに12月の疑問を抱いていた。ちょうどその時間にベッドに入っても、遅れることを予め警戒して早期に進入を試みても、いずれも失敗に終わっていた。いつものように0時を回れば瞬く間に1時、2時、となり、気がつくと3時になっているだろう。その間の時間の流れが上手く体感できず、自分次第でどうにでもなるはずの時間が、何だかんだで同じ時に導かれていく気になるだろう。まちびとは予言された結末を避けるために奮闘する物語の主人公を思い出す。運命に逆らって、逆らって、工夫の限りを尽くした果てに、結局はより大きな運命の力に弄ばれるように、同じ末路をたどるのだろうか。

「設計図に書いてあるんだよ」

「どのように書いてあるの?」

「君はハッピーターンを好きなキャラだと書いてあるんだ」







 雲の中を12月の月が流れていくように、階段の手すりの隙間から12月の何かが駆けてくる。その姿を確かめようとまちびとが目を凝らせば12月の何かは消えてしまい、まちびとが目を逸らしているとまた12月の何かが現れる。現れては引き付け、姿を隠しては不安にさせる。いるようないないような、あるようなないような不確かな存在に関心を募らせていることが、12月の恋かもしれないとまちびとは考える。12月の月への憧れが高まると12月のロケットに乗って飛び立った。

「外はパリパリ」

「中はやわらか」
 まちびとは合言葉を誤らず、無事12月の宇宙門を通過した。



 おしゃれなブティックが立ち並ぶ12月の火星では、着飾った宇宙人たちが12月の街並みを歩いている。宇宙色豊かな12月の飲食店が軒を並べ、12月の宇宙人たちが思い思いの12月を取り入れた鍋を囲みながら、宇宙談義に12月の花を咲かせていた。
 まちびとは12月の自動ドアの前に立つ。まちびとの存在に12月のドアが動じて、メッセージを読み取ることができない。まちびとは12月のドアに刻まれたメッセージを読み取ろうと、後ずさりする。12月のドアがメッセージをつれて戻ってくるが、間が開きすぎていて読み取れない。まちびとは離れた場所から12月のドアを撮影してみる。落ち着いて、拡大解釈してみると、金星人お断りというようなことが書いてある。
 12月の宇宙バーの中では、地球のバラエティー番組が放映されているだろう。まちびとは12月のマスターの話に耳を傾け、こっそりと地球の裏話を聞くだろう。
 UFOの派遣目的は、主に意識調査のためであり、地球人の関心の強さを測っているのだった。宇宙人的専門機関はどれくらいあるのか、専門チャンネルはどれくらいあるのか、視聴率はどれくらいなのか、専門の大臣はいるのか、任期はどくらいあるのか、地球人の意識への関心はかなり広がっているのだろう。

「12月になると意識ががらりと変わるけどな」
 マスターは、その理由はよくはわからないが、と12月の首を傾けた。
「土産物屋はあるかな?」
 まちびとは実際にどんなものを買うのがふさわしいのか、よくわからなかった。結局決めかねて、12月の宇宙の中では選べずに、帰りのNASAで買うことになるかもしれないと思った。とにかく、もうすぐ12月のみんなが宇宙に旅立つことになるだろう。まちびとにとってそうであったように、誰にとっても12月の地球は窮屈で忙しなく、それに比べて12月の宇宙から眺める12月の地球イルミネーションは、まちびとの目にこの上なく美しく映っていたのだから。
 旅立てばすぐに恋しくなって、帰ってくるだろう。そうなるためにも、まずは旅立つべきなのだと12月は歌うのだろう。
 
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