小枝とキノコがおかしな人を提訴しました。
駅を歩くのはスーツに捕らえられた人々で、他人の捕らわれ振りを観察して立っていた。自分の捕らわれ方もそれほど間違ったようでもないと少し安心感を覚えた。列車が到着する。乗り込もうとする人々と競り合いながら、無数にも見える人々が降りてくる。その勢いに吸い取られそうになるのを、必死で踏ん張る。「乗りません! 僕は乗りません!」
「駅長室は?」
「あっちです」
「ありがとう」
そうして歩き出してみると男の指差した方向のなんと曖昧だったことか。適当な親切は人を惑わせる。こっちなのか、あっちなのか、こっちで合っているのか。こっちに歩いていくのが正しいのか、できれば頷いて示してくれないだろうか……。振り返ると彼はもう群衆の中に姿をくらましていた。教え逃げだ。間違っていると思われる方向に歩いた。行き先を変えれば、そちらも間違っている疑いが強かったからだ。
雑貨売り場のような明るい店内、活気のある人々の声。やはり、あっちだったか……。疑念は強まっていくのに、歩みは止まらない。「いらっしゃいませ」もうすぐ誰かがそう言って、僕を迎えてくれるかもしれない。
「いらっしゃいませ」
そうして迎えなければいけないのは僕の方だった。上着を脱ぐが適当な置き場が見つからず、床の隅に置く。客がやってくる。
「チケットは?」
さっき買ったと言う。どこで? 男は質問には答えずに、領収証が欲しいと言う。なに? 話を先に進めるつもりか。和食が欲しいと言う。ソファーの席に呼ばれて行くと、薬がたくさん増えたので空のグラスをもう一つくれと言う。セルフではないのか? 僕は預かったままのクレジットカードを持ってパンをくわえた人に恐る恐る持っていく。本当にこの者のカードだったろうか? 男は黙ってカードを受け取る。まさか自分のでもないカードを無言で受け取るなんてことはないだろう。その模様はカメラにも映っていることだし、そうして問題は一つ一つ解決していく。はい、はい、グラスね、空のグラス。グラスを取ろうとすると誰かが気を利かせて水を入れてくれている。ああ、せっかくだから、水入りのと空のと二つ持って行こう。しかし、もうグラスがない! 領収証の人は誰だった? 壁沿いの三人組の一人のようでもあるし、ソファーの一人のようでもある。「えー、先ほどの……」どちらからも反応がないところをみるとどちらでもないのか……。見当違いが花開く間、料理は何も完成しない。壁を歩いているのは、蜘蛛だ。
蜘蛛はピーッと風船ビームを出すとその先には小さな点が見えた。光が溶けると点はすぐに子蜘蛛に変わった。これがやがて成長して部屋中が蜘蛛だらけになってしまうと考えるとぞっとした。
殺ろうか
今の内に殺ってしまおう。そうだ、どちらを?
目の前で殺せば、恨みをかってしまう。かといって先生を殺せば、誰が明日から教えるのだ。
先生はビームを糸に変えながら、壁上りを教育している。米粒ほどの大きさで。
本格パラパラチャーハンスタート!
周りがどれほど忙しくても関係なかった。彼女は本格中華コーナーの箱の中に閉じ込められて、そこだけを任せられていたからだ。
「どうして断らなかったの?」
素人と本格とのギャップがおかしくもあったが、彼女は断れなかったのだ。断るということは去ることと同じだった。彼女は小さなレシピだけを頼りに、本格と名を打たれた箱の中に居座ることを選んだのだった。ついに、中華コーナーにも客がやってきて、やってくる時はまとまってやってくるもので、彼女は練習も十分でないまま同時に複数のチャーハンを作らなければならなくなった。完成度よりも近道を彼女は求めてしまう。
「待って! レシピを」
マネージャーが飛んできて、彼女に指示を出す。忙しくても、レシピ通りの手順を踏むように。
レジを開けて僕は札を数えた。九万九千円と結論付けられる。もう一度最初から……。
「待って! まだ数えないで!」
マネージャーが飛んできて、今はまだ触らないようにと指示を出す。レジに触れなくなったので、仕方なく誰のかわからな土産物を開封して、カウンターの隅に並べた。二体の兎を立てて置いて、ひとまず満足した。
「駅長室は?」
兎の陰からスーツの男が現れて訊いた。カウンターはホームにつながっているのだった。
「あっちです」
僕は、紳士的に男を本格中華コーナーの方に案内した。
噂が噂を呼んで、早くも繁盛店の仲間入りをしている。
「待って! まだ帰さないで!」
相変わらずマネージャーが彼女の傍に張り付いていて、レシピを持ってくるように言う。
求めに応じて差し出されたレシートをばらばらにして、彼女は鍋を振るった。
紙吹雪が、彼女の腕によって高々と舞い上がる。
人々はしばし足を止めて、レシピの中に捕らえられていた。
「駅長室は?」
「あっちです」
「ありがとう」
そうして歩き出してみると男の指差した方向のなんと曖昧だったことか。適当な親切は人を惑わせる。こっちなのか、あっちなのか、こっちで合っているのか。こっちに歩いていくのが正しいのか、できれば頷いて示してくれないだろうか……。振り返ると彼はもう群衆の中に姿をくらましていた。教え逃げだ。間違っていると思われる方向に歩いた。行き先を変えれば、そちらも間違っている疑いが強かったからだ。
雑貨売り場のような明るい店内、活気のある人々の声。やはり、あっちだったか……。疑念は強まっていくのに、歩みは止まらない。「いらっしゃいませ」もうすぐ誰かがそう言って、僕を迎えてくれるかもしれない。
「いらっしゃいませ」
そうして迎えなければいけないのは僕の方だった。上着を脱ぐが適当な置き場が見つからず、床の隅に置く。客がやってくる。
「チケットは?」
さっき買ったと言う。どこで? 男は質問には答えずに、領収証が欲しいと言う。なに? 話を先に進めるつもりか。和食が欲しいと言う。ソファーの席に呼ばれて行くと、薬がたくさん増えたので空のグラスをもう一つくれと言う。セルフではないのか? 僕は預かったままのクレジットカードを持ってパンをくわえた人に恐る恐る持っていく。本当にこの者のカードだったろうか? 男は黙ってカードを受け取る。まさか自分のでもないカードを無言で受け取るなんてことはないだろう。その模様はカメラにも映っていることだし、そうして問題は一つ一つ解決していく。はい、はい、グラスね、空のグラス。グラスを取ろうとすると誰かが気を利かせて水を入れてくれている。ああ、せっかくだから、水入りのと空のと二つ持って行こう。しかし、もうグラスがない! 領収証の人は誰だった? 壁沿いの三人組の一人のようでもあるし、ソファーの一人のようでもある。「えー、先ほどの……」どちらからも反応がないところをみるとどちらでもないのか……。見当違いが花開く間、料理は何も完成しない。壁を歩いているのは、蜘蛛だ。
蜘蛛はピーッと風船ビームを出すとその先には小さな点が見えた。光が溶けると点はすぐに子蜘蛛に変わった。これがやがて成長して部屋中が蜘蛛だらけになってしまうと考えるとぞっとした。
殺ろうか
今の内に殺ってしまおう。そうだ、どちらを?
目の前で殺せば、恨みをかってしまう。かといって先生を殺せば、誰が明日から教えるのだ。
先生はビームを糸に変えながら、壁上りを教育している。米粒ほどの大きさで。
本格パラパラチャーハンスタート!
周りがどれほど忙しくても関係なかった。彼女は本格中華コーナーの箱の中に閉じ込められて、そこだけを任せられていたからだ。
「どうして断らなかったの?」
素人と本格とのギャップがおかしくもあったが、彼女は断れなかったのだ。断るということは去ることと同じだった。彼女は小さなレシピだけを頼りに、本格と名を打たれた箱の中に居座ることを選んだのだった。ついに、中華コーナーにも客がやってきて、やってくる時はまとまってやってくるもので、彼女は練習も十分でないまま同時に複数のチャーハンを作らなければならなくなった。完成度よりも近道を彼女は求めてしまう。
「待って! レシピを」
マネージャーが飛んできて、彼女に指示を出す。忙しくても、レシピ通りの手順を踏むように。
レジを開けて僕は札を数えた。九万九千円と結論付けられる。もう一度最初から……。
「待って! まだ数えないで!」
マネージャーが飛んできて、今はまだ触らないようにと指示を出す。レジに触れなくなったので、仕方なく誰のかわからな土産物を開封して、カウンターの隅に並べた。二体の兎を立てて置いて、ひとまず満足した。
「駅長室は?」
兎の陰からスーツの男が現れて訊いた。カウンターはホームにつながっているのだった。
「あっちです」
僕は、紳士的に男を本格中華コーナーの方に案内した。
噂が噂を呼んで、早くも繁盛店の仲間入りをしている。
「待って! まだ帰さないで!」
相変わらずマネージャーが彼女の傍に張り付いていて、レシピを持ってくるように言う。
求めに応じて差し出されたレシートをばらばらにして、彼女は鍋を振るった。
紙吹雪が、彼女の腕によって高々と舞い上がる。
人々はしばし足を止めて、レシピの中に捕らえられていた。