眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

12月のロケット

2012-12-26 00:48:31 | クリスマスソング

「そろそろクリスマスソングでもかけようか」

「どうでもいいけど」

「それは聞き捨てならないね」

「かければいいんじゃない?」

「どうして猫が眠くなると思う?」

「生まれつきじゃない?」

「現実世界に興味を失うからさ」

「そんなわけはないでしょう」

「そして夢の世界に旅立つ」

「眠るってことね」

「猫は夢科の生き物だからね」

「そうだったの?」

「人間だってそうさ。興味を失えば眠くなる。意欲を失えば自然と帰りたくなる」

「どこに帰るの?」

「自然に帰るのさ。自然ってのは恐ろしいね」

「自然は恐ろしいの?」

「恐ろしいばかりではないよ。自然は偉大な母でもあるからね」

「お母さんはどんな人だったの?」

「とても暗算の得意な人だった。母は先生でもあったんだ」

「夢科の?」

「教師はどんなことにも興味を持たなければ」

「どうでもいいことにも?」

「勿論そうさ」

「そろそろクリスマスソングが聴きたいな」

「少し早い気もするけどね」








 12月の街々で、12月のメッセージが12月の人々の手に配られる。どこかで耳にしたような、希望に満ちた言葉の数々を聞き分けながら、12月の人々は迷い、戸惑い、拭い切れない疑いを、クリスマスソングの中に溶かして歌い始める。光に満たされた12月の中で、歌に乗せれば言葉はより希望めいて、12月の足取りを軽くしてくれるから。強い言葉で伝えようと、12月に爪を立てれば、12月のあちらこちらで飛び交うのは12月の失言で、犬も兎もヒーローも自転車も、嫌々サンタの格好をさせられた者たちは、手に手に禁句トングを持って、12月の道々に落ちて傷んだ言葉たちを拾って歩くのだった。

「もうこれ以上、私たちの足を引っ張らないでください」

「どうして人を好きになるのだろう?」

「どうしてハッピーターンを好きなんだろう?」

 まちびとはいつも午前0時に眠る計画を立てながら、日々失敗に終わることに12月の疑問を抱いていた。ちょうどその時間にベッドに入っても、遅れることを予め警戒して早期に進入を試みても、いずれも失敗に終わっていた。いつものように0時を回れば瞬く間に1時、2時、となり、気がつくと3時になっているだろう。その間の時間の流れが上手く体感できず、自分次第でどうにでもなるはずの時間が、何だかんだで同じ時に導かれていく気になるだろう。まちびとは予言された結末を避けるために奮闘する物語の主人公を思い出す。運命に逆らって、逆らって、工夫の限りを尽くした果てに、結局はより大きな運命の力に弄ばれるように、同じ末路をたどるのだろうか。

「設計図に書いてあるんだよ」

「どのように書いてあるの?」

「君はハッピーターンを好きなキャラだと書いてあるんだ」







 雲の中を12月の月が流れていくように、階段の手すりの隙間から12月の何かが駆けてくる。その姿を確かめようとまちびとが目を凝らせば12月の何かは消えてしまい、まちびとが目を逸らしているとまた12月の何かが現れる。現れては引き付け、姿を隠しては不安にさせる。いるようないないような、あるようなないような不確かな存在に関心を募らせていることが、12月の恋かもしれないとまちびとは考える。12月の月への憧れが高まると12月のロケットに乗って飛び立った。

「外はパリパリ」

「中はやわらか」
 まちびとは合言葉を誤らず、無事12月の宇宙門を通過した。



 おしゃれなブティックが立ち並ぶ12月の火星では、着飾った宇宙人たちが12月の街並みを歩いている。宇宙色豊かな12月の飲食店が軒を並べ、12月の宇宙人たちが思い思いの12月を取り入れた鍋を囲みながら、宇宙談義に12月の花を咲かせていた。
 まちびとは12月の自動ドアの前に立つ。まちびとの存在に12月のドアが動じて、メッセージを読み取ることができない。まちびとは12月のドアに刻まれたメッセージを読み取ろうと、後ずさりする。12月のドアがメッセージをつれて戻ってくるが、間が開きすぎていて読み取れない。まちびとは離れた場所から12月のドアを撮影してみる。落ち着いて、拡大解釈してみると、金星人お断りというようなことが書いてある。
 12月の宇宙バーの中では、地球のバラエティー番組が放映されているだろう。まちびとは12月のマスターの話に耳を傾け、こっそりと地球の裏話を聞くだろう。
 UFOの派遣目的は、主に意識調査のためであり、地球人の関心の強さを測っているのだった。宇宙人的専門機関はどれくらいあるのか、専門チャンネルはどれくらいあるのか、視聴率はどれくらいなのか、専門の大臣はいるのか、任期はどくらいあるのか、地球人の意識への関心はかなり広がっているのだろう。

「12月になると意識ががらりと変わるけどな」
 マスターは、その理由はよくはわからないが、と12月の首を傾けた。
「土産物屋はあるかな?」
 まちびとは実際にどんなものを買うのがふさわしいのか、よくわからなかった。結局決めかねて、12月の宇宙の中では選べずに、帰りのNASAで買うことになるかもしれないと思った。とにかく、もうすぐ12月のみんなが宇宙に旅立つことになるだろう。まちびとにとってそうであったように、誰にとっても12月の地球は窮屈で忙しなく、それに比べて12月の宇宙から眺める12月の地球イルミネーションは、まちびとの目にこの上なく美しく映っていたのだから。
 旅立てばすぐに恋しくなって、帰ってくるだろう。そうなるためにも、まずは旅立つべきなのだと12月は歌うのだろう。
 

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