山形県の山間部に入ると国道・県道といってもトラックが走れない街道の面影を残したつづら折りの道が多い。高速道の排ガスとスピードと喧噪からおさらばした山間のドライブは快適である。クーラーを止め窓から腕を伸ばすと雑木の小枝に触れる。さすがに、涼しいとは言い難いが、緑陰に遮られた日差しは真夏のものではない。
「スクール・ゾーン 子ども注意」なんて立て札があるのが面白い。集落を越えると黄み帯びた菜穂が揺れる谷戸田が拓けてくる。実りの秋が近づいている。そんな広がりの中に山に向かって淡い白のジュータンが敷かれている。緑に囲まれたソバ畑は輝いてもいるようだ。赤い色のソバ花もあるが山形では見かける事はなかった。
夏ソバが終わり、十月頃に収穫する秋ソバの花の時期である。「新そば」を心待ちしているソバ好きな御仁もおられようが、芭蕉さんも言っている。『蕎麦はまだ花でもてなす山路かな』。蕎麦ファンは多い。
ソバが親しまれたのは<救荒作物=飢饉の時に命を救う農作物>であるからだ。痩せた土壌・冷涼な気候・乾燥した土地でも2~3ヶ月程度で収穫が可能で凶作期を乗り越えられたからである。
しかし、最近では栽培から石臼の粉挽き、蕎麦打ち、秘策のツユとか「蕎麦道」を極めんとする蕎麦名人が蘊蓄を傾けている。こうなると、蕎麦が好きなのか、食するまでの過程を楽しんでいるのか判らなくなる。私は、野菜天の更科蕎麦(さらしなそば)が好きであるが、蕎麦通ではない。どころか、蕎麦オンチで「もりそば」と「ざるそば」の相違は何かなどと悩ましい疑問を抱いていた。
蕎麦通が曰く。「もりそば」に海苔を刻んで載せたのを「ざるそば」という。いいのかナ~こんな簡単な事で!そもそも何故、海苔なのか。
山形を縦貫する羽州街道(13号線)から宮城県に抜ける街道をススキの穂を見ながらドライブする。沢山のそば畑が続く。みちのくの小さな旅をしてきた。
<ソバの蜂蜜は黒色で鉄分が多く独特の香りを持つという。試食してみたい>
羽州路の野辺に広がり香り立つ淡き花そば残暑に負けず
山間のおぼろげなるや蕎麦の花緑陰を背にし華やぎてある
蕎麦枕ザクリと凹む感触を老いの頭によみがえる
車駐め窓開けみれば一陣の花蕎麦の風ハチ乗せて来る
緑堅いススキ葉なれど穂が揺れる羽州街道秋の気配に