熱戦が続くバンクーバー五輪。フィギュアスケートは今日はお休みなので、テレビ観戦はちょっと一息^^;
日本人にとっては高橋大輔の感動の銅メダルで終わった男子だったが、金がとれなかったプルシェンコが、審判や採点方法に批判的な発言をしている。「4回転を跳ばないのは男子のチャンピオンに相応しくないか?」という論争は、2008年の世界選手権でバトルが優勝したとき、ジュベールの発言をきっかけに起こっていた。バンクーバーでは4回転を跳ばなかったライサチェクが優勝したが、彼はチャンピオンに相応しくないのだろうか?
2008年に青嶋ひろのさんがコラムで、「4回転と美しいスケーティング、両方できる者が勝てばいいんだ!」と書いている。男子シングルが豪快さと美しさを併せ持つスポーツであるために、高難度ジャンプと美しいスケーティング、二つの至宝を与えられた高橋大輔は優勝する責任がある、と。
今回、高橋は4回転に挑戦して失敗したが、もし成功していたら、ライサチェクやプルシェンコとの点差はほとんどなくなっていた可能性が高い。3月の世界選手権でパーフェクトに滑れたら、今度こそ、4回転と芸術性を兼ね備えた完璧なチャンピオンが誕生するかもしれない。
「4回転ジャンプをもっと高く評価するべきだ」という意見は以前からある。習得に時間がかかり、体力に負担の大きい4回転。3回転でGOEに大きな加点をもらうのと、4回転をなんとか下りるのでは、現在の配点ではあまり差がない。
そこで、4回転ジャンプへの挑戦を促進するために考えられるのは、基礎点を上げることだろう。(ただし、失敗したときのマイナスも大きくなる。)どのくらい上げるのが適当かわからないが…。また、4回転ジャンプを入れた場合、構成点で高く評価する規定にする。しかし、ジャンプに集中するあまり、準備動作が長かったり、振付から浮いてしまったら、しっかり減点する。
選手の体の負担を考えて、体重が軽くて回転しやすい子どものうちに4回転をやり過ぎないように、ジュニアの大会では4回転ジャンプを禁止したほうがいいと思う。実際、ジュニア世代で4回転をやたらと跳ぶ選手は少ないから、禁止しても大きな影響はないのでは?(ケビン・レイノルズもシニアに上がったし^^;)
しかし私は、スピンやステップも、もっと正確に高く評価されるべきだと思う。ステップはフィギュアスケートの原点、“氷上にfigure(図形)を描く”、即ちかつて行われていた規定で評価された技術を発揮する部分。また、今大会のランビエールのスピンは、レベル4なんてものではなかった! だから、スピンとステップのレベルを1~4ではなく1~5にして、レベル間の点差も少し広げたらいい。
そうすると、今大会では同じレベル3だったスピンやステップが、5段階評価にしたら3と4に分かれるケースが相当出てくるはずだ。
プルシェンコは、4回転をはじめとするジャンプを次々決めることが、スポーツとしてのフィギュアスケート・男子シングルの本質だと思っているようだが、ちょっと違うと思う。
高橋大輔や小塚崇彦の演技を見て思ったが、ジャンプは美しい滑りや音楽と一体になった演技の中で成功してこそ映える。大きなミスがなくても全体がつまらないと、せっかくの4回転も色あせる。ロビン・カズンズのコメントはその点を指摘しているのだと思う。
プルシェンコは、ある意味、自分の最大の武器をもっと生かすために、必死でスピンやステップやつなぎ(Transition)を研究するべきだろう。
今の彼は、ソチまで余裕で4回転を跳び続けられると思っているようだが、先のことはわからない。中庭や村主などベテラン選手たちを見ていると、体調が悪いわけでもないのに、今まで跳べていたジャンプが跳べなくなる日が突然訪れるように思われる。その日が来てしまったとき、フィギュアスケート選手として何ができるか? 記録や速度を争うスピードスケートと違うからこそ、フィギュアは面白いんじゃないだろうか。
得意な技を磨き、不得意な部分をカバーし、演技全体で持てる力の全てを発揮し、その出来栄えを競うのが演技採点種目のスポーツだ。フィギュアスケートも間違いなくその一つ。
ライサチェクの演技は、まさに力の全てを出し切って、今彼ができる最高の演技をした。少なくとも、現在の採点方法の中では、今大会最高の点を出した。4回転が入ってなかったからといって、その価値が低いということは全くない。
今後スポーツとしてどういう方向に行くべきなのか。技術の革新を進め、難度の高い技を追及するのか。高い完成度を評価するのか。採点方法・配点はそのヴィジョンを示す。シーズン後に、それはまた論議されるだろう。一ファンとしては、どの選手にも公平で、見る人にわかりやすいルールになっていくことを望む。