115億円の国立メディア芸術総合センター(仮)の建設費が槍玉に上がっている。
大半の論調は以下のようなもの。
・「愚民論」
予算のムダでしかない。国営漫画喫茶、オタクのためのアニメの箱もの以上もなにものでもなく、そんなものに税金を投じるのは愚策だ。
・「低俗文化論」
アニメは低俗文化である。ハイカルチャーから見れば、得体のしれないアニメやメディアは文化ではない。サブカルチャーであったとしても、そんなものに公的資金を投じるのは無駄だ。
「麻生総理はマンガ好き=国立メディア芸術総合センターを叩けばウケる」と勘繰った民主党(鳩山)の叩きかたは表層的すぎる。もっと本質的な議論を呼ぶような批判をしないと、この件では、知的階層の支持は得られないだろう。
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国立メディア芸術総合センターは、イノベーションの視点から見ると、国が戦略的に支援していけば近年にないヒットとなる可能性があるのだ。それらの戦略的な方向性について私見をまとめると:
(1)ソフトパワーあるいはインテリジェンス
ソフトパワーの輸出という点では数少ない国際競争力を保有するのがアニメとメディアが融合する分野。IT産業のソフトウェアは圧倒的に輸入超過で国際的競争力を有するソフトウェアはないに等しい。しかし国は、ソフトウェアに莫大な資金を投入してはことごとく失敗してきた。それとは真逆で、アニメとメディアが融合する分野は日本がソフトパワーを活用して、国際的にアピールできる貴重な領域だ。国立メディア芸術総合センターをこの領域のセンターにしてゆけば、Cool Japan以上の国際産業政策上の期待効果はある。
これを見れば、うなずけるはずだ。
「フランスの漫画ブーム2008」Japanese manga in France 2008
(2)外交
アニメとメディアが融合するソフトパワーをインテリジェンスとして捉えるべきだろう。これらを国際社会にプロモートしてゆくことは日本に対するイメージ向上策といった外交上の意味もある。自動車や電気製品以上に、日本人や日本文化に直結するイメージそのものがコンテンツなのである。日本製品を使いながら、日本が好きでない人々は多い。しかし、日本コンテンツ愛好者で日本を嫌う人はいない。国立メディア芸術総合センターをメッセージ発信センターにすることで、外交的にもプラスになりうる。
このビデオにその一端が垣間見れるだろう。
フランスのジャパン・マニア 2/2
(3)雇用・人的資源開発
コンテンツが創発する過程は草の根オープンイノベーションだ。多数のユーザがプロ集団をサポートしていて、その中間レイヤーにいる「同人」とよばれるコアなユーザ兼プロ予備軍がアニメ生態系を活性化させている。このようなリボゾーム的=草の根オープンイノベーション生態があるから、実はアニメの国際競争力が維持されている。この分野に棲息しているキワモノ、ウーピー、オタク、越境者を支援してゆくべきだろう。国立メディア芸術総合センターを、この生態系をサポートする場にしてゆけば異才のための雇用の創出にも寄与でき、労働政策的にも期待効果がある。
(4)オープンイノベーション
この世界は実は、マンガやアニメ愛好者という個人的な趣味もさることながら、MOT視点からも注目。アニメ、ゲーム、アイドル、コミック、フィギュアなど、自律的・自己組織的にソリューションが伝搬して他のサービスやプロダクツにナレッジが転写されたり、活用されたりするスピードが速く経済的な波及効果が出やすいのである。国立メディア芸術総合センターはアニメやメディアが融合する業域のオープンイノベーション創発を活性化することもできるだろう。
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以上、モノゴトづくりの戦略的な方向をきちんと押さえて推進してゆけば、まったくムダということはないだろう。むしろ生産的になるはずだ。