(会議の始まりと終わりはコンゴ民主共和国国家国歌斉唱!)
講演放浪記も、中央アフリカのコンゴ民主共和国(以下コンゴ民)にまで足跡を残すことになった。
今回は、国立国際医療研究センター/国際協力事業団の研究協力員として、コンゴ民の保健省のofficialsの方々を対象に、戦略的マネジメントのレクチャー&ワークショップ支援を行ってきた。
最貧国のひとつコンゴ民:1人あたりGDP328ドル。日本1人あたりGDP33,805ドル。経済規模、コンゴ民は日本の100分の1。いわゆるBOP(base of pyramid)に位置する中央アフリカの国がコンゴ民だ。
コンゴ民に行く数日まえに、大統領府付近で銃撃戦があり、帰国してすぐに、コンゴ川を挟んだ向かい側のコンゴ共和国の軍事施設で200人以上もの死者が出る「事故」が勃発している。
ちょうど、その騒乱状況の狭間を突いてのコンゴ出張だったことになる。
(キンシャサの街で見かけた絵画)
health policy & management界隈では、global healthというキャッチワードが目を引く昨今。威勢のいいキャッチワードはともかく、現場のフィールドで、リアルな保健行政を対象に具体的なツールを活用して実行するというレベルまで踏み込んでいるケースはさほど多くないだろう。
5S-KAIZEN-TQMといえば、大方の経営学者や技術経営(MOT)系の方々ならば、日本の製造業に発祥する、あの品質管理手法ね・・・という反応が返ってくる。
たしかにそうだ。ほとんどの製造現場を持つメーカーは5S(整理、整頓、清潔、清掃、躾)は、空気のごとく、あたりまえに、基本動作としてやっており、目新しいものはほとんどない。
ところが、「所変われば品変わる」の喩の通り、この手法が、日本やスリランカを経由して、大方の日本産業人の想像を越える「進化」を遂げて創発しているのだ。
実は、モノやサービスといった境界を取っ払ってみれば、そこには、グローバルに拡がるモノ→プロセス→サービスという俯瞰図の中にco-creationを内包して遷移・伝搬していているこの手法の普遍性が見えてくる。
すなわち、アフリカ大陸の46の国々のうち、15カ国では、5S-KAIZEN-TQMが健康・医療・保健サービスの現場、そして保健行政の現場では燎原の火の如く拡がりつつある。また、アフリカのこの動向に注目してか、OECDもKAIZENには一定の評価を与えているようだ。
(Dr. Tshiamalaの5S-KAIZEN-TQMの実践報告)
コンゴ民主共和国では、健康・保健・医療マネジメントの手法となった5S-KAIZEN-TQMを、さらに、保健行政マネジメントのツールとして活用している。これは世界初の画期的なことだ。
このムーブメントをやわらかく支援しているのが、NCGM=国立国際医療研究センター(国際医療協力部の池田憲昭医師が牽引)やJICAだ。支援の対象は、ハコモノ、橋、道路など目に見えるハードウェアから、インテリジェントなソフトスキルへと変化している。インテリジェンスサービス支援とでも言ってもよかろう。
さて、日本やアメリカでmanagementに関して話をすることは多かったが、アフリカの地で話したことは初めて。コンゴの方々と膝を交えて語らい、彼らのmanagementに対する捉え方がわかった。
・managementは支配する側の技術。
・植民地として収奪され続けてきたコンゴ民主共和国にあったのは、支配されるmanagementのみ。
・収奪、搾取する側としてのベルギーから見えれば、収奪、搾取の対象となるコンゴ民の民衆を無知の状態、managementから遠い状態に維持して置くのが得策だった。
なるほど、以上の3点は、欧米の先進国だけを『海外』として眺める視点からは見えてこないことだ。
***
(Dr. Ikeda and Dr. Raymond)
西洋に発祥した近代資本主義の実行形式である伝統的なマネジメント手法と対置すると、経営手法(change management)としての5S-KAIZEN-TQMには以下のエレメントがある。
・搾取・収奪されるmanagementから、主体的・自律的に取り組むmanagementへの転換。
・一方的に管理するmanagementから、参加・参画するmanagementへの転換。
・植民地支配者・宗主国・旧宗主国からのトップダウン的managementから、草の根型のボトムアップ型のmanagementへの転換。
(世界第2位の大河、コンゴ川の夕焼け)
収奪され、搾取され続けることによって近代資本主義を「資源」によって支えてきたコンゴの大地=フロンティア。managementが疎外されてきた、この国の、保健サービスという異界で、創発している5S-KAIZEN-TQM。
なんと、アフリカの国では「5S-KAIZEN音頭」やそれにあわせての踊りまでもが登場している。変えることは楽しいのだ。自分たちで工夫して変わることは、誰にでもできる自己表現であり、身の回りの「世界」を変えてゆくことなのだ。
やればできる、そしてその楽しさを素直に実感できるとき、アフリカの人々は、歌や踊りでそのよろこびをストレートに表現するのだろう。
5S-KAIZEN-TQMは、たしかに手法なのだが、実はアジア・アフリカの国々に伝搬して受け入れられているのは、この手法に埋め込まれている、デザインされている、ある種の文化(culture)ではなかろうか。
参加者からは、5S-KAIZEN-TQMを保健のみならず、教育、地域開発などの領域にまで広げたいという、うれしい声もあがった。
だれもがchangeのownerであり、主人公であるこの手法の特性からすれば、アフリカならではの反応なのかもしれない。social entrepreneurshipを発揮するためのツールという位置づけもできるはずだ。
NCGMやJICAに所属する専門家諸氏は、いってみれば、social innovationを支援する"in"trepreneurだ。組織内起業家には、innovationを創発させるための、グローバルリテラシー、リベラルアーツの素養、ファシリテーション能力など、専門スキル以外にも、多様で芳醇な人間力が求められる。
ともあれ、知的シャワーを存分に浴び、内実のともなった濃度の濃い議論に終始した旅だった。(本プロジェクトにおいて、松下を指名いただいた池田医師に感謝!)
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