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 「Hoshino Parsons Project」のブログ

人里に出没するクマの事情取材。

2018年07月14日 | 言問う草木、花や何 〜自然・生命の再生産〜

今年はドングリが少ないため、クマが里に出没する機会が増えたなどという報道をしばしば目にします。でも、クマの側の事情はほんとうのところはどうなのか、

まだ誰も直接クマに詳しいことを聞いたことのある人がいるわけではありません。

そこで、 

その辺の事情をうちの息子ヨコチンが山へ行き、クマに直接会って取材してくることにしました。

同じ猛獣仲間であれば、人間より少しは心を開いて話をしてくれるんじゃないかと息子は思い、念のためリュックに熊撃退スプレーを忍ばせ、ちょうど芸能界デビューの下心のあるクマをひとり紹介してもらえたので、彼を探しにヨコチンは森の中に分け入っていきました。

 

 

 すると、

ある〜日、、

もりのなか、、

クマさんに、、

出会った ♪

 

 

 

びっくりしたヨコチンは自己紹介もそこそこに、勇気を振り絞ってクマさんに聞きました。

なんで危険な人里にキミらはそんなに降りてくるんだと。
 

 

すると森のクマさんいわく、

山のドングリが不作だったから人里へ俺たちが侵入したかのようなことをお前らは言ってるけどなあ、確かにドングリの不作の年はあるけれど、オレたちクマにはもうちっと複雑な事情があることも知っておいて欲しいんだよ。

確かに、ドングリとかが不作の年はとても厳しいので、里に降りてくこともある。

だけど、こっちの事情からしたら、必ずしも不作=里に下りるというわけではないんだな。

言われるとおり甘いものがたくさんある人里は魅力的だ。

ひと昔前に比べたら、蜜たっぷりの甘〜い果樹や野菜がどうぞとばかりに人里にはたくさんある。

でもそこは俺たちの間では、誰もが命の危険を冒してでもみんなが行くようなとこじゃないんだ。

オレたちクマ社会が、一体どれくらいの規模でこのあたりの山にいるか、お前らは考えてもいないんだろうけどな、オレたちクマ社会全体からすると里に降りてくクマっちゅうのは、ほんのごく一部のヤツだってこと、もうちっと人間側も理解してほしいんだ。

この群馬の山にいるオレたちの仲間は、およそ1000頭くらい(生息数への疑問)らしい。

そのうち人里に降りていくのは、数パーセントのヤツらだ。

2%としても20頭くらいだぜ。

そもそも、俺たちの仲間ひとりだけが里に下りただけなのに、人間はそいつを目撃するたびにあっちにクマが出た、こっちにクマが出た、と大騒ぎする。

下りてるのはひとりだけだっていうのに、まるで何人も下りてるかのように騒ぐんだ、人間は。

オレたちクマ社会全体は、そのほんの数人のしたことでどんだけ迷惑を被ってることか。

わかるか?


 

それと、もう一つ山に俺たちのエサが少ないから人里に下りて行くって話で誤解されているのは、そういう深刻な年があるのは事実なんだけど、いつもそういう理由だけで人里に下りて行ってるわけじゃないんだな。

お前たち人間とオレたちの違いで大事なとこなんだけど、オレたち野生の生き物は、親の遺産(縄張り)を相続できないんだよ。

わかるか? 

お前たちと違って、長男だろうが長女だろうが、親の遺産(縄張り)は譲ってもらえない。

必ず親の縄張りから追い出されて、新規開拓をしなければ生きていけないんだ。

そこがお前らとは違うんだ。

わかるか?この苦労。

 

ヨコチン「わかります。ボクたちライオンは、子育ては家族でするけど、最後は君らと同じようにあの優しい母さんにボクも追い出された。」(そして現在は人間界で養子となって育てられてます)



さらに、それだけじゃない。

嫁さん探しってのがその先にある。

俺たちは、地図も電話帳も合コンどころか、婚活サイトもないなか、

この広い山の中を、ただ匂いだけを頼りに嫁さんを探さなきゃいけない。

どれだけ行動範囲を広げないといけないかってこと、お前らにわかるか?

グラビアアイドルで気を紛らわすなんて余裕はオレたちには一切なく、必死で嫁さんを探してんだぞ!

だからって、人間界に行けばオレ好みのいい女がいるわけじゃないんだけど、

今までの行動範囲を相当広げないと、チャンスはめぐってこないことだけはわかるだろ。

 

オレたちは、そんな地道な努力をしているだけなのに、お前らはなにかにつけて

クマが出た!

クマが出た!

って大騒ぎする。

 

ヨコチン「わかります。アフリカではボクたちの仲間も同じような立場にあるって聞いたことがあります」

 

 

お互いの安全のためにも、

もう少し静かに見過ごすってことできないもんかね〜

だいたい、群馬の山にいるオレたちの仲間は、およそ1000頭くらいだ。

それと出くわす確率はそもそも低いはずだけれど、その実態をわかりやすくいうと、
登山をした人間が、山頂で見渡せる山並みの中には、
だいたいその山頂にいる人間よりずっと多くのクマが確実に視界の中には必ずいるってことだ。 

上州武尊山頂から見渡す片品・尾瀬方面、藤原・谷川方面だけでも、
少なくとも数百頭は間違いなくいるってこと。

その数を想像してもらえれば、
いかにオレ達が理性的に人間を避けて暮らしているかってことが
少しはわかってもらえるんじゃないかな。

 

 

ただ気をつけてほしいのは急な「はち合わせ」だよ。

それを避けることだけ十分に気をつけて、

あとは静かに見過ごすようにしてほしいんだな。

 

確かに人間界とオレ達は、価値観の違う世界で暮らしているんだということはわかる。

だけど、現実はいつも一方的に人間側の価値観をオレ達に押し付けて、

オレ達には有無をいわせずに鉄砲ぶっ放してくるだろ。

口には出さないけど、オレたちにも一応、人間界流の人権つうもんがある。

お前らの世界だったら不利な立場に立てば弁護士立てて裁判だってできるだろうが、オレ達にはそんなことまったくない。もちろん、オレ達はいつだって野生人のプライド持って生きてるから、どんな理不尽なことでも命を投げ出す覚悟はあるさ。

俺たちが命かけて勝負かけるのと同じ理由で、人間側も命を守るために必死で鉄砲ぶってくるのもわかるさ。

ただそん時に、ほんのひとかけらでもいいから、オレ達の側の事情を頭の片隅に入れといてほしいんだ。

その辺をわかってくれれば、少なくとも「害獣」なんて言葉でクマもイノシシもシカもサルも一緒くたにすることはなくなると思うぜ。

クマが害獣なんじゃなくて、特定の利害衝突が起きる環境下で「クマ害」は発生するだってこと。

だいたい性格の悪いあのサルやイノシシに比べたら、俺たちクマはずっと付き合いやすいぜ。

そもそも、生態系の頂点に位置するクマやオオカミ、タカ、ワシやフクロウなどは、いずれも人間とはカミに近い位置で親和性がとても高い生き物だ。

 

祖田修『鳥獣害 動物たちと、どう向き合うか』岩波新書

 

もちろん、オレ達の中にも性格の悪いヤツってのはいる。その辺はそっち側だって同じようなもんだろう。

お互い初対面のモノ同士が突然出会ったら、

一度、人間を襲って自分が人間より強いと思ってるクマか、ひたすら人間は自分より強く怖い存在と思ってるクマか、若くて相手の力量を全く顧みない未熟なクマかなんてお前らに判断できないだろう。

それとオレたちも同じで、優しい人間か、鉄砲やナイフを隠し持ってる人間かなんて、初対面の時には絶対にわからない。

ちょっと無責任のようで申し訳ないが、念のために言っとくと、クマ鈴だろうが、クマ撃退スプレーだろうが、用意はしておくべきだけど、これをもってれば絶対安全なんて方法はないことだけは、わきまえておいてほしい。

 

同じように、イノシシもシカもそれぞれみんな違うそれぞれの条件で生きてるってことさ。

それは、日本人が欧米人から中国人や韓国人と同じに見られてしまうことと同じくらい、相手のことを理解してくれていないんだと感じるように、オレ達にとっても悲しいことなんだ。

ここで勘違いされたくないんだけど、なにも俺は人間と仲良くしようって言ってるんじゃないぜ。

そこがお前とは違うとこかもしれないな。

相手の尊厳を認めてほしいと言ってるだけだ。

自分たちの世界をは違うところに生きているもののことをもっとよく知ってほしいと言ってるんだ。

わかるか?

それはそっちの社会内部でも同じだろ?

 

もしこれまでの話がわかってくれるようならば、、、、

下の本とかを買ってしっかり読んどいてくれ!

  

米田一彦『山でクマに会う方法』(山と渓谷社)

 

アイヌ民族最後の狩人 姉崎等『クマにあったらどうするか』ちくま文庫

 

 

 

狩野順司『群馬藤原郷と最後の熊捕り名人』文芸社

本書で紹介されている熊雄獲り名人、吉野さんがワンシーズンに獲った熊の数、32頭という記録があります。
どのくらいのエリアでその数を仕留めたのかはわかりませんが、
現代よりも狩猟圧力がず
っとあった時代のことです。 

いかにたくさんの熊が生息しているかということです。
これは吉野さんの腕が良いことが第一ですが、この藤原から玉原高原周辺がブナ樹林帯の南限で、
かつては秋田のマタギが遠征してくるほどクマの密集生息エリアであったようです。 
 

上図の冷温帯林がブナの多いエリアで、
クマの生息密度も格段に高い。

 

ヨコチン「クマさん、ありがとう。ボク字は読めないから、帰ったらブログにきちんと書くよう父さんに言っとく」

 

という息子の報告をもとにこのブログはまとめられました。

(なお、ライオンであるヨコチンが、どのような経緯で私の息子(養子)になったのかということは、他の機会に説明させていただきます) 

 

ポイントを整理すると

① クマが里に出没するのは、ごく一部のクマで、クマ全体の数パーセント
  99%に近いクマは、エサが無くて痩せ衰えようが、里に甘い農作物がたくさんあろうが、
  山の中で理性的な暮らしをしている。 

② それらのクマが出没するのは、山でドングリなどのエサが不足した時ばかりでなく、親の縄張りから追い出された若者、嫁さん探しで遠出しているもの、甘い食べ物がいっぱいある場所を知ってしまったものなど、いろいろな事情がある

③ 人間とクマが遭遇した時は、お互いが初対面同士なのだから、相手がどんな性格かはわからないということを十分知ってほしい。人間だって、クマだって、いいヤツもいれば悪いヤツもいる。
 より安全な方法はいろいろあるが、走って逃げることだけは絶対にしない。
 ただ「これがあれば絶対安全な方法は原則としてない」ということは忘れない 

④ お互いの生態を理解しあえれば、サルやイノシシに比べたら、まだクマは付き合いやすい

 


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