英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

「社会」を壊す新自由主義    「社会主義崩壊後の世界」を読む

2017年12月01日 11時25分51秒 | 時事問題と歴史
 全体主義体制の旧ソ連社会主義国家が1991年に崩壊し、よき時代を迎えると思ったら、新自由主義という、むき出しの資本主義が世界を席巻し、その結果、人間をつなぐ社会の崩壊を促しているように見える。
 ロシア革命100周年を念頭に、京都大学の佐伯啓思・名誉教授は、12月1日付け朝日新聞でこう述べる。
 佐伯氏は「日本ではずいぶん長い間、社会主義に対する幻想があった」と語り、社会民主主義の出番にはならなかったと説く。そして世界中が資本主義のグローバル市場に覆われ、「アメリカ主導のIT革命や投機的な金融市場の展開によって、まさしく資本主義が凱旋したのだ。・・・資本の増殖を求めるグローバルな市場競争というメカニズムがわれわれの生を圧迫している。・・・別種の全体主義ではないか」と強調する。 
 「この(現在の)自由社会は、われわれを過剰なまでの競争に駆り立て、過剰なまでの情報の中に投げ込み、メディアやSNSを通じて、われわれは他人のスキャンダルを暴き立て、気にくわない者を誹謗(ひぼう)し、少しの失態を侵した者の責任を追及する。実に不寛容な相互監視社会へとなだれ込んでいる。これも一種の全体主義と言わねばならない」
 この”全体主義”が人間社会を破壊している。本来の人間社会は「今日のSNSのようなバーチャルな、もしくは瞬時的でどこか虚構めいたつながりではない。相互に信頼できる人々の間に生まれるつながりである」と説明する。
 佐伯先生の話は説得力があると思う。自殺願望の若者が、27歳の男に殺された事件も、今日の人間社会を投影している。かつて日本は地域社会のコミュニティーがしっかりしていた。家族、地域、学校、組織、企業、サークルなどが一つの社交の場となり、話し合いの場となり、人間相互の理解とつながりの場となっていた。だから佐伯先生は「社会は一定の倫理的価値を保ちえたのである」と語る。
 ソビエト型独裁社会主義が崩壊し、それに代わって新自由主義という新しい全体国家が世界を覆っている。マルクス・レーニン主義に基づいた中国も、われわれ団塊の世代が若い頃見た社会主義社会という外套を脱ぎ捨て、いまや新自由主義の旗をたかく掲げている。資本主義の先鋒を担っている。
 佐伯先生が述べる「『社会』主義(ソシエタリズム)」が崩壊し、家族や地域コミュニティーはずたずたに壊されてしまった。古代ギリシャの哲人アリストテレスは「人間は社会的動物である」と説いた。私は若い頃、この格言を読み感銘したのを覚えている。
 人間は相互につながらなければ生きてはいけない。神奈川県で殺された自殺願望の若者も自殺したかったのではなく、温かい、人間相互が信頼する社会に住みたかったのだと思う。
 今日のいじめ問題や過剰なまでの競争社会、そして敗者復活がなく、敗者を徹底的にたたき、勝者を必要以上に持ち上げる社会。それは新自由主義に基づく原始的資本主義が生み出したのだろう。人間のつながりを希薄にするIT革命が原因だろう。
 佐伯先生は「それを立て直すのは難しい。しかし、われわれはの日常生活が自然で多様な『人間交際』によって成り立っていることを思い起こせば、『社会』の復権にさほど悲観的になる必要もないのかもしれない」と結論づけている。私も心からそう願う。いかに物質文明が発展しても、その基となる人間社会が機械であっては何もならない。
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