英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

日本経済繁栄の終わりの始まりか   参院選開票結果と宮迫会見で思う

2019年07月22日 11時17分23秒 | 経済・財政
  私の表題「日本経済繁栄の終わりの始まりか」に反感を抱く読者がおられよう。しかし、所得格差による貧富の二極分化はすでに大きくなってる。「1億総中流」と日本国民のほとんどの人々が認識していた時代は遠い昔の話になった。また反社会的勢力のイベントに事務所を通さない闇営業で参加した宮迫博之氏と田村亮氏のお詫び会見から浮かび上がってきた日本人の病根。自民党と公明党の参院選勝利を受けた安倍首相のテレビ会見のピント外れな現実認識。これらを分析し推論すれば、日本の経済繁栄の終わりの始まりを感じざるを得ない。
  宮迫、田村両氏は会見で、雇用主の吉本興業から「静観です」「「ダメだ。記者会見はさせるつもりはない」と言われ、岡本昭彦社長は「お前らテープ回してないやろな。亮、ええよ。お前辞めて1人で会見したらええわ。やってもええけど、ほんなら全員連帯責任でクビにするからな。それでもええんやったら記者会見やれ。俺にはお前ら全員クビにする力があるんだ」と話したという。岡本社長は弁護士や社員を同席させずこう話し、宮迫氏らの会見要請を拒んだという。
  一連の流れが事実なら、岡本社長が宮迫、田村両氏らを謹慎処分にした時に、両氏ら闇営業に関係した芸能人を同席させて記者会見を直ちに開いていれば、ここまで重大な事態にならなかっただろう。小手先でこの件を解決しようとしたのだろうか。きょう(22日)午後に同社長は記者会見を開き、何を話すのかは分からないが、手遅れの感を否めない。
  昨年春に発覚した日本大学アメリカンフットボール部の悪質タックル問題での内田正人監督(当時)の対応も岡本社長と同じだが、なぜ、長期的な展望にたって不祥事を処理しないのか。目の前の小さな利益だけにとらわれて、上手く物事が運ぶとでも思っているのだろうか。大局観があまりにもない。
  大局観がないといえば、安倍首相も同じだ。ますます多くの国民が生活不安を抱き始めているのに、参院選勝利以後のテレビ記者会見で、こう話した。「改選議席の過半数を得ることができた。結果として(憲法改正の)議論をすべきではないかという国民の審判だったのだろう。私の使命として、残された任期の中で当然挑んでいきたいと考えている」
  安倍首相は自らの信念のみにとらわれ、安泰な国民生活ができるかどうかの踊り場に置かれている日本と日本国民の現在の状況を理解していないのだろうか。私は憲法改正議論を否定はしないが、それよりも国民にとって差し迫った重大な問題があることを認識している。
  自民党幹事長の二階氏は安倍首相の4選に言及しているが、首相は否定している。うがった見方をすれば、何の根拠はないのだが、2020年の東京オリンピック後に直面する日本の困難な経済・財政、外交問題を認識し、ここらあたりが責任回避の潮時だとでも考えているのだろうか。
  大幅な人口減少と少子高齢化に伴う国内総生産(GDP)の縮小。日本経済の構造的な問題であり、それに伴って悪化の一途をたどるであろう年金・介護、学童支援などの社会福祉政策。厳しさを増す対韓、対中、対米、対露政策など困難な諸問題が日本政府と国民を待ち受けている。
  安倍首相と吉本興業の岡本社長に、英国の歴史家ジェームス・ブライスが外交官として1919年にワシントンで幣原喜重郎・駐米日本大使(後の首相)に忠告した言葉をかみしめてほしい。「国家(会社)の運命は永遠であることを認めないのですか。国家(会社)の長い生命から見れば5年や10年は問題ではありません。功を急げば、しまいに二進も三進もいかなくなります。いま少し国運(会社の運命)の前途を見つめ、大局的な見地をお忘れにならないように願います」
  致命的なうそをついて、結局は重大な事態に至った宮迫、田村両氏には、英国の大宰相ウィンストン・チャーチルが前任者のネビル・チェンバレン首相を悼んだ演説での言葉を贈りたい。「歴史はまたたくランプのように過去を痕跡を照らし、過ぎ去った人々の人生の拠り所を明らかにします。人間にとって最も価値あるものは何でしょうか。それは良心(うそをつかないことなど)だけであります。・・・この盾を持たずに人生を歩むことほど軽率なことはない。なぜなら・・・この盾を掲げて名誉の隊列を進むほかに選択肢はないからです」
   チャーチルはチェンバレンがナチス・ドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーにだまされたと認識し、上記のことを話し、人間は正直でなければならず、他人に裏切られても、その姿勢を堅持するようにアドバイスしている。
  宮迫、田村両氏は最初に世間に対し「うそ」をついた。江戸時代の名君で、米沢藩主の上杉鷹山公は「「謝って改めるに憚る事なかれ」という。 人は必ずミスを犯す。 私も同じだ。若いとき、うそをついて大変なことになったことを記憶する。大事なのはそのミスの取り返し方だ。両氏は記者会見で、そうしたと思う。チャーチルの言葉を胸に刻んで、これからの人生を歩いていってほしい。
  安倍首相と岡本社長には、ブライスの忠告に耳を傾けてほしい。目先の欲得や損得ばかりに目を向けて大局観を見失うと、いつの間にか二進も三進もいかなくなり、国民と社員を路頭に迷わす危機を招くことになるだろう。安倍首相にとって、再来年までの任期で一番重要なのは、憲法改正ではなく、日本の経済構造を改革し、社会福祉政策をいままで通りに可能にする道を拓くことではないだろうか。

(写真)ジェームズ・ブライス(James Brice)