東野圭吾著『さまよう刃』(角川文庫 ひ16-6、2008年5月25日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
長峰の一人娘・絵摩の死体が荒川から発見された。花火大会の帰りに、未成年の少年グループによって蹂躪(じゅうりん)された末の遺棄だった。謎の密告電話によって犯人を知った長峰は、突き動かされるように娘の復讐に乗り出した。犯人の一人を殺害し、さらに逃走する父親を、警察とマスコミが追う。正義とは何か。誰が犯人を裁くのか。世論を巻き込み、事件は予想外の結末を迎える――。重く哀しいテーマに挑んだ、心を揺さぶる傑作長編。
10年前に妻を亡くした会社員・長峰重樹の一人娘、高校生の絵摩が死体で発見された。長峰に犯人の名と居場所を告げる密告電話がかかってくる。長峰はアパートへ向かい、告げられたところに鍵を見つけて、留守宅へ侵入する。多くのビデオテープがあったが、長峰は絵摩が犯人2人に犯される映像を見てしまい、激しい怒り、悲しみに襲われる。そこに偶然帰宅した犯人の一人・伴崎敦也を、思わず長峰は何回も何回も刺してしまう。虫の息の伴崎からもう一人の犯人・菅野快児の潜伏場所を聞き出し、長峰自身も警察に追われながらの快児追跡劇が始まる。
どんなに残酷な犯罪を犯しても、厳しい刑を受けることがない少年たちの中には、そのことを見越して反省もせず、再犯に至る者がいる。少年犯罪の被害者は悲痛の叫び声を上げ、犯人を追う刑事も本音は正義とは一体何なのかと疑問を持つ。
本書は、2004年12月に朝日新聞社より単行本として刊行された。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
少女を薬などで無抵抗にしてから凛褥する場面が描かれるなどエグイ表現が登場する。犯罪を犯した少年というとまず更生という話になるが、そう簡単に話を終わらせないために、残酷な犯罪を詳しく描いているのだろう。しかし、男である私が読んでいても、酷い場面はきちんと読む気になれない。
長峰の復讐心は伴崎敦也をめった刺しにした時点である程度醒めているのではと思った。困難を乗り越えてさらに復讐に燃える長峰の気持ちについていけない。菅野快児のさらなる悪辣ぶりや、身勝手な考えが描かれると、読む方の怒りも煮えたぎるのだが。
登場人物
長峰重樹:5年前に妻を亡くし娘の絵摩と二人暮らし。半導体メーカー勤務。熱中していた射撃を、ドライアイと老眼で止めた。娘の復讐のため、銃を持って菅野快児の行方を追う。変装し「吉川武雄」の名でペンション『クレセント』に泊まる。
長峰絵摩:長峰重樹の一人娘。10歳で母親を亡くす。高校1年生。花火大会の帰路、少年グループに襲われ、死亡。
中井誠:敦也・快児と、中学の同級、同時に高校中退で、不良仲間に引込まれている。リンチを恐れ、車を持ち出し事件に協力する。快児と敦也が犯人だと密告電話をする。
伴崎敦也(ともざき・あつや):通称アツヤ。快児と共に女性を襲っていた。長峰重樹に惨殺される。
菅野快児(すがの・かいじ):通称カイジ。主犯格。何人も女性を襲ってその様子を撮影し、脅迫していた。敦也が殺された事と未成年である事を利用して国家権力に取り入って間接的に重樹を追い詰める。
中井泰造:誠の父親。
菅野路子:快児の母親。飲み屋を経営。
伴崎幸代(ともざき・さちよ):敦也の母親。父親は郁雄。
丹沢和佳子:一人息子大志を亡くし、夫・祐二と離婚し、父親・隆明のペンション『クレセント』を経営。
木島隆明:蓼科牧場手前のペンション『クレセント』を経営。和佳子の父親。
多田野:ペンション『クレセント』のアルバイト。
小田切和夫:『週刊アイズ』の記者。
岩田忠弘:青少年更生研究会の弁護士。
鮎村:自殺した千晶の父親。警察へ赴き、原因は快児らの暴行と判る。妻は一恵。タクシー運転手。
村越優佳:快児と逃亡している少女。
織部孝史(おりべ・たかし):警視庁捜査一課の刑事。久塚班。28歳。
久塚:警視庁捜査一課の刑事。久塚班班長。
真野:警視庁捜査一課のベテラン刑事。通称・マーさん。
川崎:警視庁捜査一課の刑事。久塚班。織部の後輩。