伊兼(いがね)源太郎著『地検のS Sが泣いた日』(2020年7月20日講談社発行)を読んだ。
検察の機密情報が漏れている?
地検職員ながら、警察、政財界にパイプを持ち、
量刑をも左右すると噂の陰の実力者・伊勢雅行。
次期与党総裁候補にかかるヤミ献金疑惑への糸口を追う最中、想像を絶する“罠”が迫る!
策を弄して巨悪に切り込め!
手に汗握る傑作<検察>ミステリー!
国会議員・吉村泰二にかかる収賄疑惑。湊川地方検察庁が証拠固めを急ぐ中、金の受け渡しを目撃したホステス2人が行方をくらませる。歴代次席検事の懐刀と称され、総務課長ながら地検を陰で操る伊勢雅行は、盟友である事務官の久保信也と独自に調査を始めるが……。
本書は、湊川地方検察庁の総務課長・伊勢雅行の活躍を描いた『地検のS』の続編。
大規模な湊川地方検察庁(地検)が次期首相候補で湊川市を牛耳る吉村泰二の犯罪行為に迫る。しかし、手先となっている秋元法律事務所の妨害に対抗し、すっかり牛耳られている警察を避けながらの戦いは厳しい。
「コアジサシの夏」
報日新聞記者の来杉は30歳で遊軍に追いやられていたが、7年目にして初めて全国面に自分の記事が載った。湊川市の夢海岸にコアジサシ約500羽が飛来した記事と、野鳥愛好会の佐藤と伊勢が双眼鏡を構える写真が夕刊一面を飾ったのだ。湊川市に本社を置く小売り大手のミナトが大型ショッピングモール建設を予定している埋立地に、絶滅危惧種のコアジサシが飛来したのだ。
さらに東洋新聞社記者・沢村が、夢海岸には有害物質があると報道。来杉も、市がミナトに売却時に既に両者はこれを把握していたと報道した。
湊川市助役が逮捕され、地検は本丸の巨悪・吉村泰二に一歩迫る。
「一歩」
相川晶子検事の立会事務官久保は、マル湊建設からの裏金献金を衆議院議員・吉村に渡した現場にいた「マリアージュ」のホステス望月あゆみに来てもらうことになっていたが、連絡がつかなくなってしまった。もう一人の手塚にも連絡つかないことから、久保は「マリアージュ」を訪ねる。
33年前が思い出される。高校空手部のレギュラーだった久保は通り魔事件現場に居た。犯人が、12歳の娘・小夏をかばった吉村の元愛人でクラブ経営の北原春江を刺し殺した現場にいたが、身体が動かず、何もできなかった。久保は、母と妹一家を殺された伊勢にこの経験を話したことがある。
マリアージュのママから情報を得た久保は、二人の友人・心愛の勤めるフィリピンパブのママ・ジャスミンを訪ねて……。
「獣の心」
熊谷検事は住吉事務官と共に久保が襲われた事件を追う。熊谷は危ない橋を渡り、不穏な動きをみせる湊川中央署の老刑事・長内を‥‥。
「エスとエス」 略
「Sが泣いた日」 略
初出:「一歩」:小説現代2018年7月号、「獣の心」:小説現代2018年9月号、他は書き下ろし
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
巨悪と検察の駆け引き、だまし合いが面白い。
我々には見えにくい検察についての理解が、一般論かは不明だが、深まった。検察官と立会事務官の関係、検察の警察に対する立場、警察対政治権力の距離との違いなどが想像できるようになった。でも本当に検察は、事件現場に出たり、独自に捜査したり、こんなに行動的なのだろうか? 書類を読んでいるだけとの印象があるのだが。
完結編でないので、読後感がいまいち。
私は読んでいないのだが、おそらく前編である『地検のS』を先に読んだ方が良いと思う。
その者の内面面描写せずに、周囲の者からの視点だけで描くことで、かえってその者の凄みが増す場合もあるが、この本では「S」は、仲間を動かすだけで泰然としてあまり動かず、周りの者がすごい、すごいと言うだけなので、「S」のキャラが浮かび上がらず、ぴんと来ない。
主な登場人物
湊川地方検察庁
伊勢雅行:総務課長。歴代次席検事の懐刀で、白髪からシロヌシ、転じて「S」と呼ばれる。
相川晶子:特別刑事部の検事。41歳。
久保信也:相川の立会事務官。49歳。
八潮英介:東京地検特捜部に応援派遣中の特別刑事部最年少検事。立会事務官は渡部加奈子
三好正一:総務課員
熊谷修:刑事部の本部係検事。立会事務官は住吉健一郎。
本上博史:次席検事
鳥海隼人:特別刑事部長
秋元法律事務所
菊池亮:伊勢の指示で潜り込んだ事務職員。40歳。
北原小夏:事務所員
吉村泰二:県選出の衆議院議員で湊川市が地盤。政権与党の次期党首候補。
須黒清美:先代の頃から吉村に仕える秘書。策士で湊川の皇后と称される。
恬然(てんぜん):恥ずべき事などを何とも思わないで、平気でいるさま。