首藤瓜於(しゅどう・うりお)著『脳男』(講談社文庫し12-1、2003年9月15日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
連続爆弾犯のアジトで見つかった、心を持たない男・鈴木一郎。逮捕後、新たな爆弾の在処(ありか)を警察に告げた、この男は共犯者なのか。男の精神鑑定を担当する医師・鷲谷真梨子は、彼の本性を探ろうとするが……。そして、男が入院する病院に爆弾が仕掛けられた。全選考委員が絶賛した超絶の江戸川乱歩賞受賞作。
中部地方の愛宕(おたぎ)市で、連続爆破事件が発生する。警察が、ワイヤの切り口から使用された爆弾製造の弓ノコをたどって容疑者・緑川のアジトに踏み込むと、鈴木一郎が緑川と格闘していた。
逮捕された鈴木は、次に爆弾が仕掛けられている場所を供述したために共犯と見なされた。また、過去について一切供述せず、不審な人物として精神鑑定を受ける。鑑定医の医師・鷲谷真梨子は様々なテストが行うが、異常な点は一切なくて、異様なほどすべてが全く偏りなく平均だった。しかし、一度見たものは、全て完全に記憶でき、忘れないし、多数の言語も使える男だった。
鈴木一郎:戸籍上では29歳。偽名。常に丁寧であるが、感情がないのではと推測される。
鷲谷真梨子:ハーバード卒業し犯罪者精神鑑定施設勤務して、帰国直後に苫米地に鈴木一郎の精神鑑定を委嘱される。32歳。
苫米地(とまべち):真梨子の上司の精神科部長。司法鑑定の第一人者。鈴木一郎の鑑定を真梨子に任せた。
空身(うつみ):CT室責任者。世界的学者だが、院内のゴシップ通。
茶屋:警察官。身長190cm、体重120kgの巨漢。
黒田雄高:県警のベテラン鑑識課員。茶屋が信頼を置く。
緑川:連続爆弾犯。33歳の真面目な会社員。
金城理詞子(きんじょう・りすこ):タレントで、開催した怪しげなパーティーで爆発が起こる。
灰谷六郎:大物の国会議員、転院しようとした救急車が爆発し死亡。
緋紋家耕三:目が見えないのに一代で財産を築き上げた、愛宕市の有名人。鈴木一郎の供述で爆弾を免れた。
入陶倫行(いりす・のりゆき):愛宕市に住んでいた入陶財閥の当主。交通事故で娘夫婦を亡くし、橡木(とちのき)クリニックに預けていた孫の大威(たけきみ)を引き取り暮らしていたが、11年前に火災で死亡。
本書は2000年9月講談社より単行本として刊行。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
破格なミステリーと期待したが、それほどのものではなかった。感情のない男との設定は面白いが、周囲の真梨子や茶屋のキャラが立っていなくて、鈴木の引き立て役ばかりで活躍の場がない。連続爆弾犯の緑川の描写がほとんどなくて、こちらも引き立て役か?
無駄な描写が多い。サバン症候群や自閉症もほとんど言葉だけ。例えば、ワイヤを潜り抜ける描写が3頁に渡り延々。
地名、人名が特殊で、読み方が覚えにくい。もっと普通の名前にして欲しい。年寄にはキツイ。愛宕市(おたぎし)、愛和会(めいわかい)、曲輪(くるわ)などズラズラ。
首藤瓜於(しゅどう・うりお)
1956年栃木県宇都宮市出身。上智大学法学部卒。会社勤務を経て、
2000年、本書『脳男』で第46回江戸川乱歩賞受賞しデビュー。
他に、『事故係 生稲昇太の多感』、『刑事の墓場』、『指し手の顔 脳男II』、『刑事のはらわた』、『大幽霊烏賊 名探偵 面鏡真澄』、『ブックキーパー脳男』
お勉強
鞴(ふいご)
末梢神経が顫(ふる)え。顫動(せんどう):小刻みにふるえ動くこと。
陋劣(ろうれつ):いやしく劣っていること(さま)。下劣。
真梨子の言葉(p354)
「わたしたちという存在は無数の雑多な感覚の集積にほかならないけれど、聴覚、視覚、触覚など五感からの情報は信じがたい速度で移り変わり流れ去っていくわ。それをひとつにまとめあげ、意味のあるものにしているのが自我というものよ。……文化や生活習慣や長じては主義や思想を学ぶことによって、感覚の雑多な集積でしかない人間は少しずつまとまりをもった存在になっていく。つまり、単にうつろいやすい感覚の集合体ではなく、確固として持続的な個人になるという訳ね。でも、あなたの場合は違っていた」
<主要文献> 『マルクス・アウレリウス「自省録」』