江国香織著『神様のボート』(新潮文庫え10-9、2002年7月1日新潮社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。“私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子"。必ず戻るといって消えたパパを待ってママとあたしは引越しを繰り返す。“私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの"“神様のボートにのってしまったから"――恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遥かな旅の物語。
野島葉子:桃井先生と婚姻6年目、離婚を切り出すと桃井先生からの唯一の条件は「東京から出ていくこと」。「あのひと」と出会い、恋に落ち、草子を産む。「あのひと」が消えた後、葉子は桃井先生と別れて幼い草子と東京を離れ、「あのひと」が見つけてくれることを期待して放浪の旅に出る。
桃井先生:葉子の元夫。音大の主任教授で葉子が卒業してすぐに結婚。身体的接触は手を繋ぐだけだった。
あのひと:草子のパパ。葉子とダブル不倫していたが、借金で姿を消した。そのとき、「必ず戻ってくる。そして必ず葉子ちゃんを探し出す、どこにいても」と語った。
野島草子(そうこ):葉子と「あのひと」の娘。背骨が「あのひと」そっくり。ママはパパとの旅の話をするが、私は知っている。本当は…。
あとがきで江国香織は言う。
小さな、しずかな物語ですが、これは狂気の物語です。そして、いままでに私の書いたもののうち、いちばん危険な小説だと思っています。
この作品は1999年7月新潮社より刊行。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
ロードムービーのように、色々な街を通り、いろいろな人に出会うが、彼らは常に過ぎ去る人々に過ぎない。母・葉子と娘・草子が通り過ぎる街での生活、桃井先生と「あのひと」・パパとの思い出がメインだ。そして街を過ぎ、時の経過とともに、幼かった草子も成長し、やがて大好きなママの夢想の世界から‥。
「あのひと」は本当に存在したのだろうか、疑問にも思える。だとすると、草子に父親は桃井先生ということになってしまうのだが。
江國香織(えくに・かおり)小説家、児童文学作家、翻訳家、詩人。
1964年東京生まれ。父はエッセイストの江國滋。
目白学園女子短大卒。アテネ・フランセを経て、米国のデラウェア大学に留学。
1987年「草之丞の話」で小さな童話大賞
1989年「409ラドクリフ」でフェミナ賞受賞。
1992年「こうばしい日々」で産経児童出版文化賞、坪田譲治文学賞、「きらきらひかる」で紫式部文学賞
1999年「ぼくの小鳥ちゃん」で路傍の石文学賞
2002年「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」で山本周五郎賞
2004年「号泣する準備はできていた」で直木賞
2007年「がらくた」で島清(しませ)恋愛文学賞
2010年『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞
2012年『犬とハモニカ』で川端康成文学賞
2015年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞 を受賞。
その他、『ウエハースの椅子』、『金平糖の降るところ』、『抱擁、あるいはライスには塩を』
約25冊の長編小説、10冊のエッセイ本、12冊の短編集、12冊の絵本、4冊の詩集、約75冊の童話を翻訳